第13話 それぞれの転換期
~王国騎士団本部~
「すまない……!先を急いでいるから道を開けてくれ……!」
フェネリら三人は無力化したウルヴを抱え、医療班病棟へと足を速めた。
「おっちゃん!急なんだが、ウルヴを見てくれよ……!」
「なんじゃフェネリ……おっちゃんはやめろといつも言っているだろう……」
「……ウルヴの坊や……?確か、敵国に捕まって暴走しとると聞いとったんじゃが……」
ホルドさんが抱えられたウルヴを視界に入れると、顔色を変えた。
「連れ戻したのか……!さすがは団長代理じゃな……!」
「ウルヴを助けたのは俺だよジジィ……!……って、そんな事言っている場合じゃなんだよ……!」
「ついさっきまで闘ってさ取り返して来たんだけどよ……回復の魔石を使っても意識が戻らないんだ……」
「……わかったわい……今から見るからベッドに連れて行け……!」
医療班班長ホルド、御年85歳という超高齢で昔ほど力が出なくなったが、医療の腕はいまだ健在。
モンストル侵攻の際も、彼率いる医療班のおかげで傷ついた騎士や民の治療に大いに貢献した。
班長が医療器具を揃え、病室に籠り1時間が経過した……その間、部下のフェンガリはかつてない疲労でソファに深く腰掛け溜息をついた。
「……ウルヴさん……大丈夫ですよね……絶対、助かりますよね……?」
「……ここは、ホルドさんに賭けるしかないわ……」
2人の会話を聞き、自身も不安に煽られていたフェネリ達の元へ怪訝そうな顔でホルドが病室から出てきた。
「おっちゃん……!ウルヴは……?」
ホルドが医療用手袋を外し、重い口を開いた……。
「……それなんじゃがのぅ……色々と調べてみたんじゃが、あやつが受けたという洗脳の魔力が魂の奥深くにまで複雑に絡みついておってのぅ……」
「そんな……!」
「無理に取ろうとするとウルヴの魂まで傷つけてしまうんじゃ……そこまでは儂にも難しい……」
シュヴェリアが口元を手で覆い、膝から崩れ落ちフェンガリが悔しさから壁に強く頭を打ち付けた。
「……じゃあウルヴはこのまま目覚めない可能性もあるってのか……?」
フェネリは自身が助けるのが遅れてしまったせいか……と、震える声でホルドに尋ねた。
「いや……方法がないことも……」
「あるのですね……!」
「それって、一体どんなのだ……!」
珍しく涙目を浮かべホッとしているシュヴェリアの背を撫でながら、フェネリも密かにホッとしていた。
「まぁ落ち着けや……お主ら、”ディア族”という種族を知っておるか?」
「あ、ああ……確か、医療系の魔法が得意分野の鹿の種族だった……」
「儂も親交があるディア族なら……ウルヴの魂まで絡みついた魔力を取れるかもしれんぞ……」
ディア族は繊細な魔力を扱う種族である。
主に医療系の魔法を得意とし、そんなディア族はルナリア王国から北へ約1000㎞離れたところにあるベナードという国で暮らしている。その長けた力を求め、世界各地から患者が集まる為、別名””と呼ばれている。
「……なら、交渉をしに行けばよいのですか……?」
涙を指で払い、背筋を伸ばし直したシュヴェリアは焦りが混じった声で聞いた。
「じゃが……気難しいあやつらが協力してくれるかどうか……」
「百聞は一見に如かずってな……ウルヴの為だ、頼み込んでみるさ……」
「その交渉なんゃが……ほれ、コイツを持っていけ」
ホルドは自身の懐から出し、活きこんでいるフェネリへと渡したのは……二通の封筒だった……。
「これは一体何ですか……?」
「何、あの国への紹介状じゃよ……これを一通は門番用に……もう一通は”ケルウス”という男に渡してくれ」
「ありがとうございます……では、私は今すぐに準備をしてまいります」
「あ……俺も手伝います……!」
シュヴェリアとフェンガリが慌ただしく出ていくのを見届け、ふとウルヴの方へフェネリは顔を向けた。
(お前の事は俺が助けだす……だから、持ってくれよ……)
「……お主にしては、思い入れがあるからの……安心せい、儂が責任もって見とくよ……」
フェネリの拭いきれない不安を包み込むように、ホルドはただ隣に立った……。
「あぁ……とりあえず、ありがとよ……俺も行くわ……!」
「おうよ、あ……さっきジジィって言ってたのは帰ってから制裁を下すからの……覚悟せい」
「そこは許してよ……!おっちゃん……!」
「おっちゃんもやめい」
~人間界~
朝5時、俺は1回伸びをし起き上がった。静かに家を出て町内を走り、美咲の家の庭で筋トレをしていた。
汗を流すべく中に入ると、寝癖交じりの頭の美咲が慌てた様子で駆けつけてきた。
「グレイさぁん……!」
「……朝っぱらから騒がしいな」
「それどころじゃないんですよ……今すぐテレビ見にきてください……!」
美咲に腕を引かれた俺はリビングに連れられテレビを見ると、とある映像がテレビに映し出されていた。
「こ……これは……」
流したはずの汗が背中を伝う感覚がした俺が見たものとは……。
「先に起きた謎の大量石化事件について視聴者から提供された映像によりますと、獣のような耳と尻尾をつけた謎の生物が大きな剣を持って立ち向かうといった場面が映し出されていました」
「運よく石化から逃げることができた方によると、石化させていた怪物を止めてくれたのはその生物だという多数の意見が寄せられていました。にわかには信じがたいのですが、怪物に立ち向かう剣士というファンタジーのような光景がこの日本で繰り広げられています……」
「あらあら、そんな生物がいたものなのねぇ……」
呑気にテレビを眺めお茶を啜るお婆ちゃんを後ろに美咲と耳打ちした。
「……全国にグレイさんの顔出ちゃってるけど……大丈夫ですか……?」
「まさか……こんなに早くにバレてしまうとは……」
~東京のとある廃墟~
廃れ朽ちているビルの一角に佇む黒い影……。
バハムは薄汚れた椅子に座り一冊の本を広げ、不敵な笑みを浮かべまじまじと読んでいた。
「やはり……この世界は私の生み出した魔獣が伝説として残っていたのか……」
ゆっくりページをめくっていると、ある単語が目に留まる……。
「ふむ……これは面白い……次はこいつで攻めるとするかな……」
バハムは右手を本の上へかざし当て、巨大な魔方陣を展開させた。
ー我が命ず、深淵より来たれ我が下僕よ……その力を以て世界を破壊と混沌に陥れん……ー
大海を支配するその者の名……ー”リヴァイアサン”ー
魔方陣から水の渦が巻き起こり、やがて弾けると中から濃い蒼の鱗を持つ巨大な海竜が姿を現した……。
「行け、リヴァイアサン……貴様の力を以てこの世界を支配するがよい……!」
「仰せのままにバハム様……このリヴァイアサンが必ずや貴方様の望む結果を示しましょうぞ……」
街へと向かうリヴァイアサンの背を見つめ、喉の奥から笑いが込み上げてきた。
「さぁ……今度も楽しもうぞ……」




