姉妹が証拠発見
李祐は先日矢島と一緒に調べた、拓真が研究していた技術的な部分に関して、あまり理解できていなかったが、沙流はおおよそ想像が出来ていた。それは、彼女が音楽編曲の専門家である事が大きかった。彼女は多くのミュージシャンの楽曲の編集・編曲を手掛け、多くのCDやデジタル楽曲を世に送り出しているアレンジャーとしての背景があった。
李祐と沙流の姉妹は拓真のあの壮絶な手紙を読み、自分たちの出来ることは何かと相談し、拓真の研究所に残した遺品の中に、今回の事件に関係することがあるはずだと思い、研究所総務の山形にお願いして、夫の遺品の整理・回収の名目で研究室を訪れた。
李祐は以前一度研究所を訪問したことはあるが、セキュリティルールで研究室には入室できなかったが、今回は遺品の整理が名目なので許可を取れた。姉妹は研究所が昼休みの時間帯に山形の同席の下、拓真のデスクとキャビネットとロッカーの中身を確認した。ことの他私物は少なく、むしろ既に何らかの意図で整理がなされている様子で、筆記具や文房具と白紙のノートや読みかけの単行本や歯ブラシやタオルのような物しか残っていたかった。ボールペンや消しゴムの予備が入っているビニールケースに、ホッチキスの針が残っていた。単行本には李祐と一緒に買った栞が差し込まれていた。遺品として持ち帰る物は小ぶりな段ボールに入れることとなっていたので、それらを山形に了承を得て持ち帰った。
自宅で李祐はすぐに単行本の間に差し込まれた栞を引き抜いた。実はこの栞には小さな物なら挟めるポケットがついていた。思った通りそのポケットにはmicroSDカードが入っていた。そして、ホッチキスの針のケースの中には、針に紛れて縦2cm、横3cmの半導体チップが隠されていた。すぐに、清水刑事に連絡して内容を見てもらうことにした。三十分ほどで清水刑事と筑摩警部が到着した。
刑事が持参したPCでmicroSDカードの中身を確認した。横で見ていた李祐には内容はよく分からなかったが、幾つかの音響と兵器に関係する論文がPDF形式でファイルされていたが、LRADとかAHDというアルファベットに混ざって、中東諸国の国名や過去の事例のようなものが整理されていた。また、デジタルスピーカーの比較表などのExcelのファイルもあった。そして、「グノシエンヌ」といったクラシックの楽曲のリストと音源もファイルの中にあった。筑摩がメガネの淵に手をやりながら、
「これは兵器の専門家に至急分析して貰いましょう。でも、この楽曲は何でしょうかね?」と呟くと、沙流が
「どれも不気味な印象のある曲として有名な曲です」と発言した。
「なるほど、その不気味な楽曲をスピーカーで流すベストな組み合わせで、何か相手の心を傷つけようとするのでしょうか?」と筑摩は独り言のように呟いた。
次に、小さな半導体のような物を李祐がホッチキス針のケースから取り出し、刑事たちに見せると、彼らは不思議そうに見ていると、またも沙流が
「私、これと同じような物を見たことあります!」と大きな声で言い出した。皆が沙流に注目すると、
「私は編曲が仕事なのですが、微妙なチューニングを現場の音響設備でセットするのは大変なので、アンプの中に組み込む時に使うチップだと思います」と核心的な意見だった。筑摩はメガネを人差し指で持ち上げながら、
「つまりこれがあれば、その不気味な音楽を最適なパターンで再現できるということですね!」
「はい、そうだと思います。実際にアップにセットしてみないと断言は出来ませんが・・」
「どこに行けばそれを試す事ができますか?」
「この辺だと高井沢のショッピングセンター内にある音楽楽器店だけです」
「よし、そのショップにすぐに連絡を取って協力してもらいましょう!これは、大きな発見ですよ」と筑摩はいつものように甲高い声で発言した。すぐに清水がその店に連絡をしている間に筑摩は、
「沙流さんはアレンジャーなんですね。どんな人の曲を編曲しているのですか?」
「あ、はい、例えば・・『プラスワンダー』とか『竜巻ファイブ』とかですけど」
「ええっ、プラスワンダーさんの曲ですか!知ってますよ。娘がファンなんで、私もよく聴いてます。とても良い曲が多いですよね」といつも以上に甲高い声で筑摩が驚いて話すので、
「ええっ、そうなんですか!嬉しいです」と予想もしなかった、筑摩との共通の話題ができた。李祐は堅物そうな筑摩の意外な趣味を知って、少し気持ちが和らいだ気がした。そんな話をしていると、清水が戻ってきて、三人が和やかに話しているのをみて、不思議そうな顔をしながら
「警部、訪問の許可が取れました。いつでも良いそうです」と楽器店との調整の結果を伝えた。
「李祐さん、沙流さん、お店まで先導してもらっても良いですか?」
「はい、警察の方を先導するのは初めてですが・・」と李祐が軽いジョークを言うと、筑摩はにっこりと笑った。結構チャーミングな笑顔だった。清水はそんな筑摩の表情を見るのは初めてだった。有能な刑事で有名だが、変人『チクマ先生』の警察関係者が知らない一面を見た思いだった。




