悲嘆
家に戻っても着替えもすることもなく、部屋のベッドに横たわっている李祐は、時折思い出したようにベッドの上で頭を抱えて泣き出すのだった。沙流も姉李祐に付き添って、眠れぬ夜を過ごした。次の日の朝は何事もなかったかのように、静かに訪れた。緑が深まった樹木の葉がいつものように“サワサワ”と音を立てているのが微かに聞こえる。姉妹は同じ部屋で朝方になりウトウトと少し眠ったようだった。鳥の声に気づいて沙流は目を覚ますと、姉はベッドの上で目を開けて天井を見つめていた。沙流がキッチンに行き、姉のために冷蔵庫で冷えた水をコップに注ぎ、ふとテーブルの上を見ると、昨晩李祐と拓真が食べるはずだった料理が並べられていた。健康に良さそうなサラダとフライドチキンとスープを注ぐためのカップと、ライスを盛るための茶碗が寂しく並べられていた。
ベッドルームの姉に水の入ったコップを持って行くと、姉がベッドの脇にちょこんと座っていた。一回りも二回りも小さくなったように見える姉に、沙流は
「お姉ちゃん、お水を持ってきたから飲んでね」と優しく声をかけると、やっと反応してくれた。
「ああ、沙流、ありがとう」と消えそうな声で答えるのを聞くと、沙流もまた悲しくなり泣きそうになった。沙流からコップを受け取ると、李祐は静かに水を少し飲んだ。そして、二口目を飲むと、「ふぅ」と息をついた。昨晩からまともに息もつけてなかったのだろう。もう一回ため息をついて、水をさらに飲んだ。コップはほぼ空になっていた。
「お姉ちゃん、お代わりを持ってくるね」と沙流はすぐにそのコップを持って、キッチンに向かった。そして、そのコップに水を注ぎ、もう一つ自分用に水を注いだコップを持ってきて、姉にコップを渡すと、自分もゴクリゴクリと水を飲んだ。思えば昨晩から二人は飲み物も食べ物も食べていなかった。沙流はキッチンに行き、テーブルの上の料理を温め直すためにラップをかけた。
その後、キッチンで交わす言葉も少ない中で、李祐のスマホから「Love in the Evening」の着信メロディが流れた。二度目のメロディの途中で李祐はスマホを手に取り、通話ボタンを押した。微かに漏れ聞こえる人の声に、李祐は消え入りそうな声で、
「はい、分かりました」やっと答えた。通話が終わり、沙流が
「どこから?」と尋ねると
「警察の人。午後に警察署に来て欲しいと言ってた」
「そう、運転は私がするから、行けそう?」
「うん、大丈夫」と答えるが、沙流は
「向こうから来たらいいのに」と不満そうだった。
それから、お昼までの時間で姉妹は「なぜ、こんなことになったのだろう」と答えの出ない会話をして、沙流は事故の原因は何だろうと考えていた。医師が李祐に伝えた死因である“一酸化炭素中毒”に、なぜなったのだろうと考えた。何か有害な薬物でも扱っていたのか?とまるで答えの出ないうちに、お昼の時間となっていた。二人は最寄りの高井沢警察署に向かった。




