研究所での聴取
筑摩達は夕方に近い時間ではあったが、研究所に赴き総務の山形への二度目の参考人としての聴取を始めた。山形は姉妹への告白通り、虎次の行動に関する報告を守衛の遠山と口裏を合わせていたことを再度認めた。あくまでも拓真が自殺した前提での話で、それ以上の意図はないと言い切った。余計なことを話して、研究所長の叱責を受けることを避けたかったようだ。
次に守衛の遠山への聴取をしたが、こちらは少し抵抗をした。この遠山という男は、ちょっととっつきにくいというか、反応が鈍い割に、何か隠している事がありそうだと刑事達は感じていた。拓真の事故が判明する前の五時ごろに研究室を覗いた時に、拓真が自分のデスクにいることははっきり確認したと証言した。その二時間後に拓真の研究室を訪れるまで、研究所の建物内で総務の山形以外の誰もみていないと証言した。その日は『ノー残業日』だったのでほとんど全員が早めに帰宅したはずだが、駐車場に何台の所員の自家用車が駐車していていたかについては記憶にないとのことだった。つまり、駐車場に海堂虎次の車が駐車していたかどうかは分からないのに、彼は居なかったとの証言には信憑性がなかった。筑摩と同席していた清水が、
「総務の山形さんは居なかったと断言は出来ないし、入退室の履歴上では退出していなかった可能性があると言っている。海堂虎次はその時間には研究所に居なかったとあなたが断言する理由は?」清水は優しく質問をしていたが、聞き方には嘘はすぐ見抜くよ!と言った雰囲気が見てとれた。
「それは、」
「特に意味はないけど、研究所長の息子だから不利な証言は出来ないということだよな?」と
「まあ、そんな感じです」とまだ曖昧な言い方で話すと、清水は今度はかなり厳しい言い方で
「まさか、駐車場に海堂虎次の車があったのを見ていたなんてことはないよね?」と問いただすと、遠山は俯いた。清水は机をポンと叩き、
「あんた、偽証をすると『犯人隠避罪』に問われるよ!本当のことを言った方が良いよ!」と迫ると、遠山は一瞬ビクッと反応し、俯いたまま
「すいません!その通りです。駐車場に虎次さんの車があったのを見ました」と頭を下げて、謝りながら証言を覆した。清水と筑摩は目を合わせて軽く頷き合い、清水が遠山の肩を優しく叩きながら、
「良く言ってくれた。重要な証言になるよ。今後も今の発言は変えないでよ!」と言って、清水と筑摩は、遠山が自分の身を守るために嘘をついていたことは不問に付するつもりのようだ。さらに清水は遠山に
「今度は警察からのお願いなんだけど、もし、今晩以降誰かが研究所内で不審な行動を取っていたら、すぐに連絡をもらえるか?」と要請すると、遠山はやっと顔を上げて刑事達を見て
「はい、分かりました。必ず連絡します」と忠誠を誓うように言った。元来、正直で気の弱い男なのだろう。しかし、遠山は刑事たちが帰った直後に内線電話である男に電話をしていた。
筑摩達は研究所の終了時間ギリギリに海堂虎次への聴取を始めた。
任意の捜査だと言う前提を伝えた上で、研究に使用している機器を教えてもらうと、沙流と楽器店がリストしてくれたメーカーの音響機器は含まれていないと答えた。
「そんなメーカーの機器は使用したことがない」とシラを切った。次に研究機器の利用目的を確認すると、
「利用者に快適感や安心感を与えるための機能を装備するためですよ」との回答だった。清水が静かにその機能を悪用すると反対の効果が出るのでは?尋ねると
「そうかもしれないが、それでは音響機器メーカーの意味をなさないですね」との回答だったが、
「過去に貴社の機器と同じような機器が悪用された実績はないですか?」との質問には
「それに関しては、聞いたことはあリません」と逃げられた。
そこまでで、筑摩は敢えて話を止めて、様子を見ることにした。
その晩は、遠山からは何の連絡もなかった。翌日の朝に守衛の交代時間前に、清水が守衛室を訪問し録画もとれていると言うのでざっと確認したが、定時以降の入退室は数人の管理職だけで他のメンバーの出入りはなかった。




