第15話
リーダーの男が、唸る。
「やれ!」
ヒビキの筋肉が無意識に収縮し、腰を落として重心を下げる。
過去の戦闘の残像がアドレナリンを一気に噴出させる。
右手に固定した拳銃の重みが、暗闇の一点を捉える。
「ルル、絶対に動くな」
低く、命令調の声。
彼女は頷きしゃがみ込む。
「ヒビキ……気をつけて!」
最初の敵が、砂を巻き上げて飛びかかる。
「死ねぇ!」
フードの下から覗く目が、殺意に濁り、短剣を振り下ろす。
「雑な動きだ」
少年は左足を支点に腰を回し、刃の先端が髪をわずかに掠める距離で身をずらす。
銃のバレルを敵の膝小僧に向け、トリガーを絞る。
プシュッ!
消音器のくぐもった音が、波の音に溶ける。
「うがっ」
弾丸が膝を抉り、男の足が折れるように崩れる。
悲鳴が上がりかけるが、少年は容赦なくフォロー。
敵の胸倉を掴み、砂に叩きつける。
倒れた男の短剣を蹴り飛ばし、銃口を心臓に押し当てる。
「じゃあな」
プシュッ!
男の目が虚ろに白目を剥く。
気絶。
一瞬の隙に、次の影が横合いから襲う。
「よくも仲間を!」
短剣が脇腹を狙い、風を切る。
少年は重心を落とし、両腕を防御的に広げる。
「叫んだら奇襲の意味ないだろっ」
敵の前腕を外側から押さえ、肘関節を強引に外側へねじる。
「あぐっ」
関節が軋む音が響き、男の悲鳴が夜空に裂ける。
「がはぁっ」
少年の膝が即座に腹部にめり込み、吐息を強制的に吐き出させる。
男がよろめくのを待たず、肩越しに引き金を引く。
プシュッ!
心臓に直撃。
男が砂に崩れ落ちる。
二人目。
砂浜の熱気が、汗を蒸発させる。
周囲の敵が、輪を狭め、短剣を構える。
十数人。
リーダーの男が、低く哄笑する。
「この数を前に……どこまでやれるかな? お前ら、左右から回り込め。背後を取れ!」
フードの下の顔が、嘲りに歪む。
少年はルルを背後に庇い、銃を構え直す。
「来いよ。今がチャンスだぞ」
「舐めやがって!」
三人目が、正面から突進。
短剣を突き出すと同時に、砂を掴んで少年の顔に投げつける。
少年は左手で視界を守りながら、銃身を下げて男の足首の骨を狙う。
プシュッ!
「ぐうぅっ」
弾丸が踵を削り、男が崩れる。
同時に転がり、少年の脚に絡みつく。
「足の一本だけでも!」
「やらせねーよ!」
短剣が小腿を狙うが、少年は体を横に転がし、男の前腕を踵で踏み潰す。
「ぎやぁ!」
骨の軋む音。
男が痛みに顔を歪め、少年の隙を突いて反撃の拳を振り上げる。
少年はそれを手のひらで受け、親指を絡めて関節を反転させる。
「恨んでいいぞ」
「ぎえええええ」
男の腕が不自然に曲がり、悲鳴が上がる。
そのまま体を押し倒し、膝で喉を押さえつける。
銃口を心臓に。
プシュッ!
気絶。
四人目、五人目が、左右から挟撃。
「死ねえええ」
「殺してやるっ!」
短剣が弧を描き、月光を反射する。
「……なんで、愚直に攻めてくるんだこいつらは」
少年は後ろ足で砂を払い、距離を詰めながら銃を二連射する。
プシュッ! プシュッ!
「ぎゃっ」
「ぐうぉっ」
一発が左の男の肩を掠め、動きを止める。
もう一発が右の男の太腿を貫く。
二人がよろめく隙に、少年は突進。
左の男の短剣を前腕で弾き、肘打ちを顎の付け根に叩き込む。
「ひうっ」
男の頭がガクンと仰け反り、砂に倒れる。
即座に体を捻り、右の男の腹に膝を沈める。
「おうっ」
息が詰まる音。
男が短剣を振り上げるが、少年はそれを掴み、力を込めて引き抜く。
「持ち手が甘いっ」
「ぎえあっ」
男の指が折れ、悲鳴。
銃口を心臓に押しつけ、――プシュッ!
続けて左の男の心臓に一発。
二人、砂に沈む。
銃の反動が肩を震わせ、砂が服に絡みつく。
敵の血の匂いが、潮風に混じる。
だが、少年の目は冷徹。
「まだやるか!?」
ルルの気配を背中で感じ、守るための闘争本能が、体を動かす。
六人目が、背後から忍び寄る。
倒れた仲間の影に紛れ、短剣を低く構える。
少年は前方に集中していた。
リーダーの男が、正面から短剣を振りかぶる。
「今だ! 刺せ!」
少年はリーダーの刃を銃身で受け止め、金属の衝突で腕に振動が走る。
「きええええええ!」
その瞬間――背後の敵が、跳ね起き、短剣を少年の背中に突き立てる。
刃が空を切り、少年の首筋をわずかに裂く。
「くそっ!」
少年の体が反転し、肘を後方に鋭く振り抜く。
「ぐへっ」
敵の鼻骨が砕け、血しぶきが上がる。
男が後退するが、少年は追撃の膝を腹に沈め、砂に叩きつける。
銃を構え、心臓に――プシュッ!
「死ねぇええええ」
だが、その隙を突かれ、リーダーが短剣を振り下ろす。
少年は体を捻り、刃をかわすが、肩に浅い切り傷。
血がにじみ、痛みが閃く。
「ヒビキ!」
ルルの叫びが響く。
彼女の声に、少年の目が鋭くなる。
「大丈夫だ! ……まだ、動くな!」
残りの敵が、輪をさらに狭める。
「手負いだ……囲め」
「今なら……やれるぞ」
八人、九人が左右から迫る。
「ちぃっ」
少年は銃を構え、連射。
プシュッ! プシュッ! プシュッ!
「ぐあっ」
「ぐひぃっ」
一発が男の腕を掠め、短剣を落とす。
もう一発が足を撃ち、動きを止める。
少年は砂を蹴り、倒れた男の胴体を踏み越えて跳躍し、空中で姿勢を回転させる。
着地と同時に、拳を別の男の顎に叩き込む。
「がへっ」
男が後ろに吹き飛び、砂に沈む。
即座に銃を構え、心臓に――プシュッ!
気絶。
「死なばもろともっ!」
十人目が、横合いから飛びかかる。
短剣が脇腹を狙う。
「くっ」
少年は前腕で刃を受け止め、皮膚が裂ける痛みに唇を噛む。
血が滴る。
「やったぁ! やったぞっ」
「やってねぇよ!」
だが、少年は男の腕を掴み、引き寄せて頭突き。
「ぎやっ」
額がぶつかり、男の鼻から血が噴き出す。
「おがっ」
膝で股間を狙い、男の体を折り畳むように崩す。
銃口を心臓に。
プシュッ!
息が乱れ、視界が揺れる。
砂浜に、倒れた敵の体が散らばる。
リーダーの男が、最後の一人として構える。
短剣を握りしめ、フードの下の目が狂気に満ちる。
「お前……何者だ。なぜ、神の意志を阻む」
少年は肩の傷を押さえ、銃を構える。
「ただの高校生だ。ボケ」
引き金を引く。
プシュッ!
リーダーが砂に沈む。
気絶。
静寂が、ビーチを包む。
波の音だけが、優しく響く。
少年は銃を下ろし、膝をつく。
息が荒く、肩の傷から血が流れ、砂を赤く染める。
視界が一瞬揺れ、戦場の記憶がフラッシュバックする――過去の銃声、失った仲間の影。
「ルル……大丈夫か?」
彼女が駆け寄り、少年の肩を抱く。
「ヒビキ! 傷……血が……ごめん、私がもっと早く……!」
彼女が手をかざすと、温かな光が傷口を優しく包む。
痛みが引いていく。
「大丈夫だ。お前のせいじゃねえ。……よく、動かなかった」
少年はルルの頰を撫で、立ち上がる。
二人は倒れた敵たちを一瞥する。
全員、気絶したまま。
短剣が砂に散らばり、フードが風に揺れる。
「こいつら……なんなんだ? 神の名のもとに、だってよ」
彼女の表情が曇る。
「わからない……でも、天界で何か起きてるのかもしれない……」
少年はルルの手を握る。
「いずれにせよ、終わった。あとは……休もう」
彼女が頷き、少年の肩に寄りかかる。
二人は夜空を見上げる。
彼女の指が、少年の指に絡む。
「ヒビキ……ありがとう。守ってくれて」
少年はルルの頭を軽く引き寄せ、囁く。
「ああ。お前もな」
花火が、二人の影を長く伸ばす。
海辺の夜は、静かに、夏の約束を紡ぎ続ける。
だが、倒れた敵たちのフードの下に、微かな紋章が月明かりに浮かぶ。
――銀の翼を抱く、六芒星。
新たな影が、波の彼方に忍び寄っていた。




