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あぁ!君こそ恋愛スナイパー  作者: 川合 佑樹


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第13話

 教室の窓から、蝉の声がけたたましく響き渡っていた。

 夏休み前最後の授業が終わり、黒板に残るチョークの粉が、午後の陽光に舞うように揺れている。

 生徒たちのざわめきが波のように広がり、鞄を肩にかけ、友達と肩を叩き合いながら教室を後にする。

「よし、夏休みだぜ! 明日海いこーぜ!」

「だな! 今年は彼女作るぞー!」

 ヒビキは窓際の席に腰を下ろしたまま、ぼんやりと外の校庭を眺めていた。

 青い空の下、グラウンドの芝生が風にざわめき、遠くで野球部の掛け声が微かに届く。

 隣のルルが、少年の袖を軽く引っ張る。

「ねえ、ヒビキ。夏休み、何するの? 私、予定空っぽだよぉ。毎日ヒビキの部屋で一緒に過ごしたいなぁ」

 彼女の声は明るく、彼の横顔を覗き込む。

「そうだな……。まだ何も考えてない。家で本読むくらいか」

 彼女がぷくっと頰を膨らませ、机に肘を突いて身を乗り出す。

 体が近づき、彼女の甘いシャンプーの香りが、少年の鼻をくすぐる。

「えー、本もいいけど、おでかけしようよぉ。夏だよ? 海行ったり、花火したり、祭りで金魚すくいしたり……二人で、わいわい遊ぼうよ!」

「落ち着け。お前、天使だろ? そんな俗な遊びするのか?」

「天使にも夏休みあるのよ! 神界は年中パーティーだけど、人間界の夏は特別なんだよぉ! 海で走り回ってぇ、アイス食べてぇ、星見てぇ……ヒビキと二人で……!」

「……はぁ、分かったよ。行こう」

「やったぁ! 今年は絶対、海!」

 少年は立ち上がって鞄を肩に掛ける。

「水着買っておかないとな」

 彼女が飛び跳ね、少年の首に腕を回してハグする。

「約束だよ、ヒビキ!」

 二人の笑い声が、教室に響く。

 その時、扉のところで赤い髪が揺れた。

 サラだ。

 彼女はノートを抱え、足音を忍ばせて近づき、ルルの肩を軽く叩く。

「ルル、ヒビキ。まだいたの? 文化祭の準備、夏休み中も手伝ってくれる? ポスターのデザインとか、出し物のアイデア出しとか……」

 サラの声は穏やかだが、瞳に期待の光が宿る。

 少年の目を真っ直ぐ見つめる。

 彼は頷き、鞄のストラップを直す。

「ああ、分かった。資料まとめておくよ」

 ルルがサラの腕に絡みつき、目を輝かせる。

「文化祭も楽しもうね!」

 サラはルルの手を優しく払う。

「本当に、ルルは元気ね」

 サラは二人に軽く手を振り、教室を出て行く。

 少年は蝉の声を耳にしながら呟く。

「文化祭か……また忙しくなるな」

 ルルが少年の背中に飛びつき、耳元で囁く。

「それじゃあ、夏休み前の一掃ラブパニックやっちゃおー! 最終日スペシャルで、学校中をラブパワーで埋め尽くしちゃうの! 教室から校門まで、連続で成就させてみんなの夏をハッピーエンドに! サクサクいくよ!」

 少年の肩がわずかに固くなり、ルルの腕を軽く払う。

「学校内で一掃って……本気か?」

 彼女は背中から降り、少年の前に回り込んで目を輝かせる。

「夏休み前だし、二十組くらい、片付けちゃおう!」

 少年はルルの頭を軽く撫でる。

「ったく……分かったよ。じゃあ、早めに片付けるぞ」

 彼は鞄の側面を指でなぞり、隠し穴のスイッチを確かめる――少年自身が密かに改造したものだ。

 消音器を内蔵し、側面の小さな穴から正確に撃てる、完璧な隠し武器。

 彼女が少年の左腕に自分の腕を回し、ぴったり寄り添う。

 二人は教室を出て、廊下へ滑り込む。

 夕陽が窓から差し込み、生徒たちのざわめきが波のように広がる。

 彼女が羊皮紙の束を鞄から覗かせ、耳元で囁きながら歩く。

「廊下のあの二人。男子が鞄持って女子の隣歩いてるわ」

 少年は自然に歩き、右手で鞄のスイッチを押す。

 彼女の体温が左腕に伝わる。

 ボシュッ!

 消音のくぐもった音が廊下の喧騒に溶ける。

 弾丸が女子の胸に沈む。

 彼女が男子の袖を強く掴む。

「ねえ、夏休み……一緒に海、行かない?」

「うん、約束な」

 二人は肩を寄せ、笑いながら階段へ向かう。

 ルルが少年の耳に息を吹きかける。

「次、二組目は同じ廊下の後ろ。手を繋ぎかけてる」

 少年の指がスイッチを押し、即座に――ボシュッ!

 女子が男子の手を強く握り返す。

 息が交錯し、唇が優しく重なる。

 周囲の生徒が気づかぬうちに、二人はさらにくっつき、廊下を進む。

 ルルが少年の腕を軽く振る。

 二人は階段を下る。

「三組目は登り中のカップル予備軍」

 階段の踊り場で、少年はルルの体を盾に鞄を構える。

 ボシュッ!

 弾丸が階段を駆け上がり、女子の胸に溶け込む。

 彼女が足を止め、男子に抱きつく。

「夏の終わり、寂しくないように……ずっと一緒にいよう」

 男子が頷き、額を寄せる。

「次、四組目は階段下の壁際。男子が女子に話しかけてるわ」

 ボシュッ!

 光の粒子が女子の心臓に沈む。

 彼女の目が潤み、男子の胸に飛び込む。

「好き……これが、本当の運命なのかも」

 男子が抱きしめ、キスを交わす。

 ルルが興奮しつつも声を抑える。

「次、五組目は階段抜けの廊下端。二人で窓辺寄りかかってるわ」

 少年の右手が素早く動き、――ボシュッ!

 女子が男子の首に腕を回す。

 二人は窓辺で深くキスをし、夏の約束を囁き合う。

 ルルが少年の肩を軽く叩き、目を輝かせる。

 階段を抜け、靴箱へ。

「次、六組目。上履き交換中の二人よ!」

 生徒たちの足音が混じり、ざわめきが増す。

 ボシュッ!

 弾丸が靴箱の隙間を縫い、女子の胸を貫く。

 彼女が靴を落とし、男子に寄りかかる。

「夏休み、連絡待ってる……から」

 男子が靴を拾い、手を繋いで立ち上がる。

 ルルが続けて囁く。

「七組目は隣のロッカー前。手紙渡しそうな子たち」

 ボシュッ!

 手紙が落ち、拾う瞬間に視線が絡む。

 二人は抱き合い、キス。

「次、八組目は靴箱の角。鞄持って話してるわ」

 ボシュッ!

 男子が鞄を置き、女子を抱き寄せる。

 二人は靴箱に寄りかかり、笑う。

 靴箱を抜け、校門への道へ。

 夕陽が校舎を赤く染め、生徒たちのシルエットが地平を這う。

 ルルが息を弾ませる。

「九組目。並んで歩く二人。木陰の隙間よ」

 ボシュッ!

 女子が男子の腕に絡みつく。

「夏の思い出、一緒に作ろう」

 男子が頷き、手を強く握る。

 ルルが続けざまに。

「十組目は道のベンチ前。座りかけてるわ」

「十一組目、道の真ん中。手振り交えてる子たち」

「十二組目は木の根元」

「十三組目、校門手前」

「十四組目は門の柱際」

「十五組目、道の曲がり角」

「十六組目は門前の花壇」

「十七組目、並んで歩く二人よ!」

「十八組目は門の脇道」

「十九組目、校門直前」

「ラスト、二十組目。門の外れ、距離十二メートル。二人で振り返ってるわ……今よ」

 少年の指がスイッチを押す。

 ボシュッ!

 光の尾が女子の胸に沈む。

 彼女が男子に飛びつき、唇を重ねる。

「はう……好きにして」

 男子が抱き返し、二人は門をくぐる。

 ルルが飛び跳ねる。

「全二十組、完璧クリア! 見て、学校中がラブパニックだよぉ! 夏休み前に、みんなの運命を繋いじゃった!」

 ルルは少年の首に腕を回し、勢いよくハグする。

「あぁそうだな! 分かったからはしゃぐな!」

「ヒビキ、かっこよかったよっ! 疲れたでしょ? 今日は、何でも言う事聞いちゃう!」

「おい! なんでもって……」

 彼の頰が、わずかに赤らむ。

「あー、ヒビキちょっとエッチなこと想像したでしょぉ」

 彼女の温もりに肩の力が抜ける。

 少年はルルの背中を軽く叩く。

「してねーよ! ……ったく。帰るぞ」

「えへへぇ」

 彼女はハグを解かず、少年の腕に絡みついたまま歩き出す。

 校門の道を、二人の足音が軽やかに響く。

 蝉の声が遠ざかり、夕陽が空を橙に染める中、夏の約束が、静かに胸に刻まれる。

 彼女の笑顔が、少年の横顔を優しく照らす。

 二人は手を繋ぎ、住宅街の角を曲がる。

 彼女がスキップのように体を揺らす。

「ねえ、ヒビキ。夏の最初に、屋上で花火の練習しようよ。 私、線香花火持ってく!」

 彼は小さく頷き、ルルの手を強く握り返す。

「花火の練習ってなんだよ。でも……そういうのもいいかもな。俺はアイス持っていくよ」

 彼女が少年の肩に頭を預ける。

「ヒビキの選ぶアイス、楽しみ! チョコ? それとも、かき氷?」

 学校の恋人たちは、まだキスを続け、周囲の木々が優しく見守るように葉を揺らす。

 夏の空気が、二人の背中を優しく押す。

 マンションの灯りが、遠くに見え始める頃、彼女が立ち止まり、少年の顔を上目遣いに見上げる。

「ヒビキ、海楽しみだねっ」

 ヒビキはルルの頰に指を当て、そっと撫でる。

「あぁ。こんな夏は初めてだ」

 二人は再び歩き出し、手の温もりが、夜の訪れを優しく迎える。

 蝉の声が、遠くで最後のメロディーを奏でる。


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