文化祭
文化祭当日 7月第1週土曜日に開催される。
梅雨の晴れ間の雲一つない快晴の空の下、校庭にある木々も緑鮮やかで生い茂っている。世話としている中庭の花壇のマリーゴールドが濃いオレンジ色の花や黄色の小ぶりの向日葵が咲き乱れている。
校門には手作りの看板や校舎のベランダには垂れ幕が垂れさがって、普段とは違う様相を呈している。
生徒もクラスごとのオリジナルポロシャツを着て華やいでいる。
開始から生徒の保護者や受験生と思われる中学生のグループ、近隣住民が校舎内に入り、生徒の模擬店や展示を見て回っている。
琴葉の家族もあとで来校するから、挨拶したいと言われた。
私たち1年クラスはアイスクリームの販売の模擬店をすることになった。
私は午後に演奏があるため、開始当初の時間の当番になった。
もちろん琴葉も一緒だ。
凪は自分の部活の方が忙しいので、すこし後の時間に当番に割り振られた。
「琴葉の家族は何時に来るの」
「10時頃かな。両親はとても雪華に会いたがっているの」
「私もご挨拶したい」
教室で待機していたが、まだ早い時間なのか客はまばらである。今日は晴れているから昼頃は込むだろうなと思い、そのまま琴葉と話をする。
「姉と兄は忙しいから来ないって、でも雪華には会いたいと言っていた」
「えっ 琴葉はお姉さんもいたの?」
「うん、私3姉弟の末っ子よ、姉は加藤家の女帝なの」
それを聞いてクスクスと笑った。
「冗談ではないの。めっちゃ厳しいから、うちの男性軍はお手上げ。でも一番の権力者はお母さん、加藤家の影のドンよ」
「ご家族は何時頃に帰るの?」
「雪華の演奏が終わったら帰るって、今日は雪華忙しくなるわよ」
そうだ、これが終わったら茶道部で琴葉とお点前をして、コンサートの準備して、、、、もう疲れた気分・・・
そろそろ模擬店を交代する時間になった。その時教室の入り口で声がした。
「来たわよ~琴葉! あっ 貴方が雪華ちゃんね、いつも琴葉がお世話になっています。ありがとうね」
3人連れの中のふっくらした女性に声をかけられた。
琴葉の家族の方だと気づき、慌てて挨拶をする。
「初めまして、望月雪華と言います。こちらこそいつも琴葉さんに良くしてもらっています」
「いやぁん 美人でよい子ね~ お弁当もいつも美味しそうでSMSにアップするの楽しみなの」
そういえば、そんなこともありましたね。苦笑いしてしまった。
「ゲッ なんでお兄ちゃんまで来ているの」
とても嫌そうに琴葉が言った。
そこに居る眼鏡をかけて清潔感のある青年に琴葉は悪態をつく。
隣に並んでいる眼鏡の中で優しい眼差しをした人が、琴葉のお父さんなんだろう。
「こんにちは、雪華さん こら、琴葉、兄になんて口の利き方だ」
「俺は運転手だよ、急に母さんに言われてさ。別にお前に会いに来てない」
こちらに向き直り、お兄さんも挨拶してくれた。
「お姉ちゃんは来ないよね」
「いや、昼頃に来るって言っていた」
「もう、家族総出ってなに! 恥ずかしい」
笑いが起き、その場で少し話をして、私たちは茶室へ向かった。
私と琴葉は茶道部と華道部に所属している。前日にお点前の準備や展示するお花を生けたり忙しかった。そして、音楽科の生徒の授業が終わっていなかったので、コンサートのリハーサルは先にしてもらった。
本当にハードスケジュールだった。
私たちが茶室に付き、準備ができると、早速加藤家族が来てくれた。琴葉がお茶を点てると家族みんなが神妙な顔をしていた。
加藤兄が「なんか琴葉がお嬢様に見える」と言い残し、そこを後にした。
琴葉がプリプリして怒ってしまい、そっと肩に手を当てなだめた。
そのあとに凪が来てくれて、私が担当した。お礼を言い、早々に去っていった。きっと女子しかいないからバツが悪かったのだろう。
もうすぐに交代する時に、生徒会役員の見回りで茶室に来た。
半袖のワイシャツと紺のスラックスで、腕には腕章をして生徒会長の春野先輩が顧問に話しかけていた。続いて副会長の雅斗も来た。
「珍しい組み合わせね。生徒会長と一緒だなんて」
戸口に居た2人を見て琴葉が首を傾げていった。
「お疲れ様です。大変ね。そうだ、2人とも一服していきなさい。そうだわ、所作ができている望月さん用意して」
顧問に指示された。今いるのは1年だけで初心者レベル。私は祖母からお茶を指導してもらっていた。諦めて用意するため動いた。
茶室に入る際に一礼して、畳の縁を踏まず静々と入り、茶釜の前に背筋を伸ばし正座して持っていた扇子を膝前に置き2人に丁寧に一礼する。
校内の空気は喧騒に満ちていたが、今、ここは静寂に包まれている。
袱紗をさばき、棗と茶杓を拭く。柄杓を持ち、釜から熱い湯を汲み上げる。
茶筅通しをして、茶杓で薄い緑の粉を救い茶碗に入れる。
柄杓に入れた湯を茶碗に注ぐ。茶筅を持ち素早くシャシャと一定のリズムで振る、次第に細やかな白い泡が立った。そっと茶碗を正面に向け、雅斗の前に置く。
雅斗は少し眉を寄せ真剣な顔をして一礼をして「お点前頂戴します」と述べる
それに、一礼を返し、雅斗の様子を見守る。
居住まや所作一つ一つが高貴が伺えて、青年と大人の狭間の色気がある。
雅斗はゆっくりと大きな手で茶碗を持ち、薄い唇の茶碗に添えた。
彼が茶碗を傾けてお茶が喉を通るたびに、喉仏が小さく上下する。
男らしい動きにドキリとする。最後の一口を呑み、静かに茶碗を畳に置く。「結構なお点前で」
彼がこちらに視線を向ける。
私はお点前に長く伸ばしている前髪をピンで留めていた。
私と雅斗は畳一畳分の距離でお互いの視線が絡んだ。
いつもは無表情な彼が、一瞬、漆黒の目を見開き驚いた表情になる。
その表情が何かを以前に見たような感じがした。既視感?
胸の中にざわりとした思いが生じたが、この後のスケジュールが押しているため、そのあとは深く考えなっかった。
早めにお昼を食べ、コンクールの準備のため、控室に向かった。
控室前には、一人の女性が立っていた。琴葉がその女性に気づいた。
「お姉ちゃん どうしたの」
素っ頓狂な声で、加藤姉を指さした。
腰まである艶やかな髪で、妖艶な色気のある唇を引き上げ、冷えた笑顔で琴葉に一喝してから、そして、振り返ると表情が変わって、暖かな目を向けた。
「初めまして、ごきげんよう、琴葉の姉です。早速だけど、用意しましょうか」
状況がつかめないまま、琴葉に視線を向ける。
「うちの姉、メイクアップアーティストなの。多分お化粧やヘアアレンジをしてくれると思う・・・」
引きつった顔の琴葉が説明した。私も初めて聞く話なので、目が点になる。
「そういうことだから、早速はじめましょう」
にっこりした笑顔になぜか有無を言わせない圧を感じた。
どうしてこうなったと感じるが、この女帝には敵わないと諦めて小さく頷た。




