当惑
文化祭の午後、快晴の空は青く、初夏の兆しの日差しが窓から降り注いで暑くなってきた。
昼食を食べたあと、挨拶もそこそこに琴葉の姉に拉致(!)ゴホン、コンクールの準備のため控室で準備をすることになった。
本当は、ドレスはもう少し前に出来上がっているはずだったが、琴葉姉が手直しすると言って、なかなか出来上がらなかった。
「うちのお姉ちゃんはコスプレの先輩で、それを見て私もすることになったの。だから、裁縫も得意でドレスは、途中からお姉ちゃんも手伝ってもらっていたけど最後の方は全部やると言って、結果、当日になりました。、、、、」
にっこり微笑む加藤家の暴君、ゴホン、麗しい琴葉のお姉さんが、ジロっと琴葉の睨んで、琴葉も口をつぐんだ。
「さあ、やるわよ」
メイクアップ道具を前に置き、私を見てにっこりしているが目が笑っていない。
「ジャーン じゃあこれに着替えて」
渡された青色のドレスを見て、正直プロが作ったと思ったほどの出来栄えで驚いた。
「すごくきれいなドレスで感激です」
感嘆して他に言葉が出てこない。
「でしょ、加藤家作 空色のドレス 素敵でしょ。シンプルだけど、雪華は背が高いからきっと似合う」
満面の笑顔で琴葉が褒めてくる。
浅いUネックで、ノースリーブ。Aラインでスカートはミモレ丈、サテンの生地で、色は青を基調で上半身は群青色で、スカートは上から青色から白へグラテーションしている。朝日が開ける前の空みたいだった。ウエスト部分にシャンパンゴールドのリボンで花のリボンがアクセントである。裁縫もしっかりしており、とても素人が作ったものと思えない作りだ。
制服からドレスに着替えて、くるっと一回転した。
「とっても似合うわ、サイズもちょうどいいし、よかったわ」
職人のように睨みをきかせ、ドレスの調整に余念がない女帝・・ゴホン、ゴホン、お姉さんは、しばらくして満足したのか、また悪い顔で言った。
「さあ、次はメイクよ」
首を縦にして頷き、大人しく座りまな板の鯉状態の気分で瞼を閉じた。
「わあ 肌がプルンプルンで、ヤダ、睫毛バサバサ。ウエストなんでキュッとして、脚ほそ、もうそこら辺のモデルなんか、足元にも及ばないわ」
お姉さん、擬音が多い、そしてハイテンションで手際よくメイクをしてくてた。私は怖くて目が開けられない。
顔マッサージ、痛い。髪もなんか巻かれてる、あれ、眉毛も整えられ、あれあれ、睫毛もビュラーされている。なんか不安、、、、どうなる・・・
鏡の中の私は、肩まである明るい茶髪は先を緩く巻いてあり、目を隠す前髪はシャンパンゴールドのカチューシャで額を出している。
顔はマッサージのおかげで顔色も良くシュッとなり、さすがプロだと感心した。
眉は柳眉で優し気に整えられ、睫毛もきれいにカールされてアーモンド目が一回りパッチリしている。唇はサンゴ色のリップで潤んでいる。
メイクが終わり、私は一言、呟いた。
「これが、私?」
それを聞いたお姉さんは「いただきました」とドヤ顔をする。
「わあ めっちゃ綺麗。流石のポテンシャル 雪華、嫁に来て~」
興奮気味の琴葉に、スッと冷静になる。
「ありがとうございます。魔法にかかったみたいです」
「じゃあ私はシンデレラに出てくる魔女のおばあさんね」
「いえいえ、そんなことないです。ただ信じられなくて、、」
困惑して俯いた私にお姉さんは優しく「冗談よ」と笑って言ったくれた。
準備が終わり、控室をでて、加藤家の皆さんを合流する。
「可愛い、素敵、うちに嫁に来て、お兄ちゃんがんばって!」
加藤母のはしゃぎぷっり他のご家族も引き気味。加藤兄も苦笑いしていた。
廊下で支度を終えた、凪ともロビーで合流する。
凪はチャコールグレーのフォーマルスーツ、前髪は少し後ろに流している。元々中性的な顔立ちだが、洗練されて上品な立ち姿である。
ネクタイは、以前プレゼントしたシャンパンゴールドのものをしめている。
「凪君、かっこいいよ」
琴葉が屈託なく褒める。その後、凪は加藤家の人たちとも如才なく挨拶をしていた。
「雪華、綺麗だよ」
凪が社交辞令で褒めてくれた。微笑みで私も「素敵ね」と返した。
移動しようとした時、向かい側から華やかな一団が来る。
「うわー生徒会の人たちだー」
他の生徒たちがざわめきだした。
ラストを演奏する佳緒理だ。その隣には雅斗や春野、淳一がいる。
佳緒理はピンク色のロングドレスでスカート部分はフリルで華やかや装い。
ヘアスタイルは緩いウェーブの髪をハーフアップしている。
小さい唇にはパールピンクのリップで、とても楽し気に淳一と話している。
雅斗は、なぜか黒のタキシードを着ている。後ろに流した髪型がいつもより違い大人っぽい色気で、凛とした美しさがある。
雅斗のいでたちになぜだか既視感がある。昔に会ったような・・・・?
「なんで長谷川先輩がフォーマルなかっこしているの?」
首を傾げながら琴葉が問う。
「急に高橋先輩と一緒に出場することになったみたい」
凪がこともなく言う。
その一団とすれ違う時に、佳緒理から話しかけられる。
「もしかして、望月さんは小学生の時にジュニアクラシックコンクールにでたことありますか?」
一瞬ドキと胸が跳ねた。小さく「はい」と答える。
「その時、ピアノ部門で金賞を受賞しましたよね。名字が違うので一瞬分からなかったわ。男装の麗人でしたものね。あの時に私が小学最後の年に初めて銀賞をもらいましたの」
佳緒理はにっこりと笑顔に言うが、目が笑っていない。
私は、サッと血の気が引く。そうだ、思い出した、今日のようにピンク色のドレスを着て愛らしい少女がいたことを、あの時の人だったのか。両親と一緒に帰っていく可憐な少女、帰り際に睨まれたような覚えがある。
しかし、私は母が金賞を取っても、ちっとも嬉しそうにしてくれないことに心を痛めていたので、他の記憶は曖昧ではあるが、、、
「雅斗もその時チェロで、出場していたわよね」
雅斗は無表情にこちらを一瞥しただけ。黒曜石のような瞳は冷ややかである。
顔色が悪くなった私を見かねて、凪が『行こう」と連れ出してくれた。
「なんか、感じ悪いわね。気にしないで、演奏がんばって!」
琴葉が励ましてくれて、そこで琴葉と加藤家の皆さんと別れて舞台袖まで行った。
「大丈夫?」心配げに凪が言う。
「うん、もう平気よ、あの時の気持ちを思い出してしまったの・・・」
「なんで演奏前にあんなこと言うかな」
首を傾げながら、凪が不服そうに言う。
「分からない、でも、あの人毎年あのコンクールで金賞をとっていたわ」
「ふーん、まあ、気持ちを切り替えてやればいいよ」
凪と琴葉の応援の声に励まされて、気持ちを切り替えて足早に歩く。
雪華と凪が去ったロビーでは、淳一が佳緒理に聞く。
「男装の麗人って? あの子ピアノコンクールで金賞とったの?」
「そう、舞台に立った時はきれいな男の子だなっと思っていたの。でも、女の子だったの。おかしいわよね。でも、初出場で金賞でしょ、びっくりしたわ。そのあとはコンクールに出てないわね」
「変な子だね。うまいだったら、どうして音楽科に進学しなかったのかな」
2年の淳一が聞くが、佳緒理はそれには答えず雅斗に聞いてきた。
「そういえば、雅斗、あの時トイレの前で男の子ともめていなかった?」
雅斗は目を伏せ、冷淡な態度で「覚えていない」と言った。
佳緒理は、雅斗を見て首を傾げて「ふーん」とつぶやき、自分たちも歩みだす。
雅斗は眩しそうに目を細め、雪華たちが去った方向を眺めた。




