紫陽花の憂鬱
梅雨前線が北上して、湿り気を帯びた空気がまとわりつくようになった。
花壇には紫陽花が、青・紫・桃色が雨に濡れて色が深みを増して饗宴している。
凪と何度かレストランで文化祭の曲を練習している。しかし、学校では放課後にピアノ室が空いていないので練習不足ではあるが・・・
最近、凪と琴葉の3人で昼を食堂で食べるようになった。
「ねえ、文化祭に出る準備はどうなの」
食堂で、朝に作ったお弁当を食べながら琴葉から聞かれた。
「うーん、何となくまとまってきた感じよ」
「雪華はいいけど、僕の練習不足は否めない」
「困るね~ どうすんの、凪君」
卵焼きを口に入れてまま琴葉が聞き返した。
「朝練をやろうか、音楽の先生に聞いてみる」
「そうだね、少しでも練習して合わせないと」
うなづきながら、お弁当を食べる。
食堂の入り口が少し騒がしくなった。目を向けると他の生徒が通りを空け、生徒会メンバーが入ってきた。
「相変わらず目立つね」
凪は一瞥してから、すぐに弁当へと目を移す。
「まあね、王子様たちとお姫様だかね」
カラリと琴葉が言う。そして続ける
「やっぱり前にも言ったけど、うちの生徒会の人って乙女ゲームのキャラクターだと思うのよ。生徒会長の春野先輩は微笑みの王子様で正当にアタックするキャラで、長谷川先輩は冷血の王様でラスボスなの。2年白石先輩はヒロインにチョロいワンコキャラの騎士なのよ。そして紅一点の音楽科の愛されキャラのお姫様は高橋佳緒理先輩で決まり!そう思わない、雪華」
この男子たちは乙女ゲームの攻略者なのか!私は少し苦笑いする。
長谷川先輩は本当に目立つ。纏うオーラせいか?
どうしても冷たい瞳をした先輩を見てしまう。高潔だが人を寄せ付けず、深淵を覗き込んでいるような仄暗い瞳のせいなのか?
通りすがりの廊下や校庭で体育をしている姿が大勢いる中でも目に飛び込んでくる・・なぜ?
最近でも朝練で走っていると、早くに自転車で登校して姿や、走り終わって体育館の横を通るときに自主練でバスケをしている見かけるようになった。話したことはないけど、何度でも姿を追いかているのだろう・・なぜ?
「でも、冷血の王子様はお姫様の隣だと優しい雰囲気になるだよね」
そう、他の女子生徒だと冷たい目をする。まるで、私を見る父親のように。
「目がわるいんじゃないかな。見えにくいと眉をひそめる見てしまうみたいよ」
バスケのシュートが最近命中率が悪くなっているのを思い出したながら、私が言うと、琴葉が呆れたように言い返す。
「なにそれ、冷血の王子様キャラじゃないよ。でも、あの2人付き合っているのかな、なんか何気に2人の距離近いし」
「放課後にバスケ部に差し入れしているのを見た。そういえば、放課後のピアノ室の予約は、あのお姫様が独占して使えないだよな・・・」
凪が素っ気ない風に言う。
「音楽科の女王様だからね。なんか最近気合い入れて練習しているだって、過去2年間ずっと文化祭のトリだからね、今回は有終の美を飾るためでしょう」
情報通のように琴葉が言う。
「えっ、もうプログラム決まったの?」
「まだよ、でも、音楽科期待の星で毎年音楽科の優秀者であるお姫様で決まりでしょう」
「そうなんだ、そういえば衣装はどんな感じ?」
「あと2週間だから、追い込みよ!ちゃんと素敵に出来ているよ。楽しみに!ドレスの色は青ベース、靴と小物は銀色にした」
そんな話をして、食事が終わり席を立ち教室へと戻った。
「雅斗、目が悪くなっているのか?」
他のテーブルで食事をしている生徒会メンバーの生徒会長の大介が雅斗に聞いた。
「なんで、急に」
怪訝そうに雅斗が聞き返す。続けて大介が言った。
「俺が通った時に、あそこに座っていた1年の女子が言っていたのが聞こえたから」
雅斗が振り返ったが、雪華たちはすでに席を外していた。空のテーブルに目にやった。
「最近黒板が見えずらい、今度眼科に行ってみる」
「そうだよ、バスケのインターハイもあるから、早く行ったほうがよいよ」
無邪気な表情で佳緒理が、雅斗に近寄り言っている。
「よくわかったね、彼女1年生? 知り合いなの?」
淳一は興味なさそうに雅斗に聞いてきた。雅斗は首を振る。怪訝そうに佳緒理も雅斗を注視する。
「ああ、この夏のインターハイでバスケは終わりだから悔いを残したくない。文化祭の準備が手伝いが出来なくてすまない」
「ほんと 雅斗さんも佳緒理さんも忙しいからしょうがないけど、次の生徒会メンバー候補にも手伝ってもらっているから大丈夫」
後輩である淳一が慌てて弁解した。そしてメンバーたちも食堂をあとにした。
小雨が降る週末。レストランでの練習に向かう前に、凪とデパートへ行った。お世話になっている凪に文化祭のコンサートで使うネクタイを贈るために。凪は遠慮したが、結局私が買ってプレゼントした。
店を出て歩いていると、長谷川先輩と高橋先輩が眼鏡屋から出てくるのが見えた。
(2人で買い物に来たんだ・・・)
「雅斗、コンタクト怖くないの?」
嬉しそうに佳緒理先輩が言う。そして、2人は一緒の傘で寄り添って歩いている。
(やっぱり視力が悪かったんだ)
休日に歩ている2人を見てもやとする。湿った空気と傘に落ちてくる雨音がなぜか響いていた。視界が雨の中に消えていく2人の背中を追う。
(やっぱり2人は付き合っているのか・・・)




