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少年戦争  作者: Mittsu
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抗撃

 風が吹き、生えた草が音色を奏でるように揺れ、それにアクセントを付けるかのように一行の歩く足音が鳴る。彼らは一列になり、数メートル間隔になっていた。基地を出発してから数時間が経過し、青空にはうっすらとオレンジのグラデーションがかかり始めていた。出発してから今まで、泰志と竜二は不思議に思っていることがあった。秀はともかく、基地ではあれほどまでに喋っていた愛と亮介が、歩いている間は妙に静かだったのだ。おかしいなと泰志と竜二は歩きながら時折顔を見合わせていた。


 進む一行は、前から秀、愛、泰志、竜二、亮介の順で並んで歩いている。泰志は、初めは秀が道を知っているから先頭なのだろうと考えていたが、次第にその考えは変わっていった。秀は銃を持たない。所持しているのは、背中に少し長めのナイフ二本と、腰回りに小ぶりなナイフ複数本のみ。故に彼は近接戦闘を専門としている。そして恐らく一行の中で最も経験豊富。進路の確認と、進行方向への相手に対して近接戦闘を仕掛けやすい位置だと気付いた。そして愛と亮介も、竜二含む自分達「初心者」を囲むように前後を歩く。彼らは恐らく無意識に、低リスク・戦闘有利・進路確保の可能な隊列を組んでいるようだった。


 それに次いで、なぜ彼らが静かに歩くのかも自ずと答えが浮かんできた。音による状況判断。これこそが、泰志が「新参者」ながらも導き出した、この世界に住む彼らの磨かれた能力だった。


 しばらく歩いたところで、一行は荒れた遺跡のような場所に辿り着いた。石材の隙間から生えた草が、夕空に吹く風に優しく揺れている。


 「少しだけ休憩する?」


 愛がそう提案すると、四人は無言のまま列を崩し、各々広がるようにして石の上に腰掛けた。秀は一瞬だけ腰掛けたと思いきやすぐに立ち上がり、周りの様子を確認しだす。


 「はあ、散歩もたまには良いもんかと思ったが、やっぱ退屈だな」


 久方ぶりに亮介が口を開くが、やはりその口調は何一つ変化なかった。竜二はそれを聞き、安堵のような呆れのような表情でふーと息を吐く。


 「てかさ、何で革命軍の精鋭を倒しに行くわけ?」


 亮介は、ベルトで担いでいたライフルを膝の上に置きながら言った。泰志と竜二は一瞬意表を突かれたという表情をする。なぜなら彼らの目的は、精鋭部隊を倒すことではなく、真由美の命を一つ失わせて自軍に連れ戻すことだったからだ。正直な話をすれば、事情を知っている愛はともかく、秀も亮介も手伝うことをやめてしまうかもしれないと不安になった。


 しかも、二人はこの世界に来たばかりの言わば「ひよっ子」。故に、「相手の精鋭部隊を倒せば戦いを有利に進められる」というような"それっぽい理由"は違和感が強く使えないために、なおさら返答に困った。「倒すべき相手がいる」。誰かと聞かれた時に真由美のことを言えばそれはそれで違和感がある。「なんとなく」。百歩譲ってひょうひょうとした亮介に通用したとしても、秀が聞き逃さないだろう。


 「どうしたの?」


 そう言いながら歩み寄ってきた愛の姿が、二人にとってこの時ばかりは女神に見えた。


 「ああ、こいつらに殲滅しに行く理由を聞いてたんだよ。渋ってないで教えろよ」


 今のところ亮介には、二人が隠していることは悟られていない様子だった。


 「君みたいな変人を基地から追い出すためだよ」


 愛は冗談のような本気のようなどちらともとれる表情をし、三人の傍に腰掛けながら言った。泰志と竜二は安堵と可笑しさの入り混じった顔を亮介に見られぬように少し顔を背ける。


 「おい、いくら俺が優秀でもそれは思うところがあるぞ」


 二人のやり取りは、良い感じで話の流れを変えつつあった。泰志と竜二は緊張が解け肩の力を緩めた。


 「本当のところはどうなんだ?」


 緊張感の解けていた四人に対して、少し離れた場所から秀が切り込むように問いかけてきた。亮介以外の三人は、驚いた表情で彼の方を見る。彼は手に持ったナイフの具合を確かめながらチラッと三人の方に目を向ける。


 「…話しても良いんじゃないかな?」


 愛は観念したかのように泰志と竜二に目を向けて小さな声で言った。二人も息を吐き一瞬目線を秀に向けて泰志が口を開く。


 「あの部隊の中に幼馴染がいるんだよ。そいつを連れ戻すために倒しに行く」


 彼はそう言った後、申し訳ない気持ちからうつむいた。


 「はぁーん、なるほどねぇ…」


 亮介は気の抜けた声でそう言いながら、膝の上に置いたライフルの具合を気にするそぶりを見せる。秀は黙ったまま岩にもたれかかっている。何とも言えない気まずい雰囲気がしばらく漂う。


 「つまり…"囚われのお姫様を救いに行く王子様とその仲間達"と、その中にいる最強の戦士"俺"ってことか?」


 「最強の"道化師"の間違いじゃないの?」


 亮介は一見真面目に言っているかのような雰囲気を出すが、愛がそれを一蹴するように一言添える。


 目元が見えないがために、一見真面目に言っているかのような雰囲気を出すが、愛がそれを一蹴するように一言添える。「おい」と亮介が愛に言うのを少し吹き出しながら見ていた泰志と竜二は、正気を取り戻したかのようにふと秀の方に目を向ける。彼は黙ったまま体勢も視線も変えない。二人は彼の気持ちが読めないでいた。しかし、秀は何かを決心したかのように顔を上げナイフを鞘に勢いよく納めた。


 「倒すべき相手がいるのは同じということか」


 彼は納得した様子で、顔の向きはほとんど変えることなく泰志の方を見て言った。三人は呆気にとられたように秀の方を見た後、ふうと小さく息を吐く。


 「ってことは、サウスポーにも"お姫様"がいるわけ?」


 秀は何も聞いていないかのように亮介の問いかけに答えなかった。三人とも今度は隠すことなく小さく吹き出した。


 日も暮れて辺りが暗くなってきた頃、一行は辿り着いた森の道中で、携帯式の寝具を展開し夜を明かす準備をしていた。


 使い慣れた三人に対して、泰志と竜二はぎこちなく遅れて広げる。ひと足に広げ終えていた秀が、何かを察知したかのように木々の茂る方向へと目を向けた。


 「伏せろ!」


 秀はそう叫ぶと、泰志と竜二にこっちだと示すように体に手を触れ、倒木に身を隠し始めた。二人は急なことに驚きながらも、彼の手に促されるように身を隠し始める。愛と亮介も慣れたように瞬時に反応した。一瞬の後、これまでに無いほどの猛烈な勢いで弾丸の雨が一行に向かって降り注いだ。


 身を隠した木々は次々と端側から弾けるように削られていく。身を隠しながらも弾の勢いに怯み身を小さくする泰志と竜二に対して、付近にいる秀、愛、亮介は弾の軌道と時折周囲の状況を確認していた。しかし一行に弾は止まない。これほどまでに長い時間標的にされたために、経験のない泰志と竜二でさえ弾の飛んでくる方向と、これが多人数ではなく一人で行っている攻撃だということが理解できた。


 竜二がふと周りを見渡すと、亮介と秀の姿がいつの間にか見えなくなっていた。愛は二人のそばまで近付いて来ており、拳銃の引き金に指をかけ、何かを待つようにじっとしていた。


 そして、先程までの猛攻が嘘かのように銃弾の雨がぴたりと止んだ。


 その時だった。少し離れた木陰から亮介が身を乗り出し、銃弾が飛んできた方向へ銃撃し始める。その後、それに対して相手の反撃が来ないことを確認したかのようなタイミングで、愛も立ち上がり同じ方向へ連続発砲する。亮介が「装填!」と大きく発すると、彼女の連射速度はさらに増した。その間に亮介はマガジンを入れ替えている。装填後再び連射し、その最中今度は反対に愛が同じように叫びマガジンを入れ替える。そして、何か固い金属に当たるような音が数回響くと同時に、微かに「うっ」という低い声が聞こえた。それを確認した亮介が「ヒット」と叫んだ瞬間、身を隠し移動していた秀が声のした方へ勢いよく切り込んだ。


 そこには、全身をアーマーで身に包んだ大柄な少年がいた。銃弾で怯み手にしたミニガンに弾を装填できずにいた彼は、突如として茂みから切りかかる秀に目を向けるも体はついてこない。一太刀入れるその瞬間、秀とその少年の間に素早い動きで割り込む別の少年の姿があった。秀は一瞬怯むも、動きを止めることなく切り込む。割り込んできた少年は、両の拳でその強烈な一太刀を受け止めた。金属同士が激しくぶつかりこすれる音が響く。その拳には黒く輝くナックルダスターがはめられている。


 「おい、見てねえでさっさと装填しやがれ」


 割って入った少年は、大柄な少年に向かって冷静かつ不愛想に催促する。それを聞いた大柄な少年は素早く装弾ベルトを繋ぎなおし銃を構えなおした。嫌な音を立ててガトリングが回転を始めるのを見た秀は、すぐさまその場を離れ茂みの方へ駆けた。再び轟音とともに銃弾の雨が降り注ぐ。


 それに合わせてナックルダスターの少年は彼の背後に身を隠しながら、大柄な少年の耳元で何かを叫んでいるが、泰志たちに銃声等の音で一言も聞き取ることができなかった。愛、秀、亮介それぞれの居場所を見極めたかのように、大柄な少年は三人が再び身を潜めた場所に向かって立て続けに連射する。三人はそれにより身動きが取れなくなっていた。


 身を潜め続けていた泰志と竜二は恐怖で震えながらも、自身の武器の状態を分からないなりに確かめながら互いに顔を見合わせる。敵は自分たちの存在に気付いてない。三人の連携を目の当たりにした二人には今の実力に合わない判断力と自信が湧いてきていた。


 二人の近くには愛が居り、二人に背を向けるようにして身を隠し続けている。そこから二人は身を低くしたまま、他の三人のいる方向とは逆の方向へゆっくりと進みだした。彼らは、先程よりも降り注ぐ銃弾の音が少し小さくなる位置まで移動した後再び顔を見合わせほんの少しだけ顔を障害物から覗かせる。茂みで何も見えない。彼らは特に移動先について深く考えることなく進んできたために、攻撃ポイントとしては不相応な場所を引き当てた。茂みをかき分けようにも、思ったより枝が固い。周りの葉が体に絡んでくる。


 四苦八苦していると、再び何かを叫ぶ声が聞こえた後にぴたりと銃声が止んだ。二人は茂みの一部と化しながら固まる。先程とは異なり、銃声が止んだ後もしばらく三人は身を隠していた。彼らにはその静けさが何を意味するか理解できていたからだ。


 二人が大きく身を乗り出し大柄な少年がいた場所を見つめると、そこには誰の姿も残ってはいなかった。泰志と竜二は、まだ微かに耳の奥に銃声が聞こえるような気がしていた。

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