指向
三人は基地の出口で立ち尽くしていた。アナウンス室で募集の放送をかけ、意気揚々と出口に向かってから何時間経っただろうか。一向に仲間に加わろうとする者は現れなかった。初めは、精鋭部隊を相手にするということもあり、なかなか集まることはないだろうとたかを括り気長に待っていたが、こうも見事に現れないと、そういった前向きな気持ちも薄れてきた。
「放送…うまく流せてなかったのかな…?」
愛は苦笑いしながら冗談ぽく二人に話しかけるが、二人はもはや冗談を受け取る余裕を持ち合わせていなかった。
「お前は"集まった仲間の一人"ってことでいいのか?」
泰志は諦めと苛立ちの表情で床を見つめたまま愛に問いかけた。彼女はにやけたままうーんと言葉を濁す。その時、彼女は思いついたように顔を上げる。
「"片腕の人"なら来てくれるかも!」
彼女は二人の顔を見ながら目を輝かせて言った。当たり前だが、二人はそれが誰のことだか見当がつかない。すると愛は、ちょっと待っててと二人を呼び止め、一人基地内部に駆けて行った。その後しばらくして施設内アナウンスが響き始める。
「えー、城崎くん、城崎くん。至急基地出口までお越しください。繰り返します…」
愛の声だった。彼女が言っていた"片腕の人"はどうやら城崎という名前らしい。出口で待ちぼうけを喰らう二人は互いに顔を見合わせた。少し経った時、二人の立つ出口に一人の少年が基地内部から現れた。
頭に鉢巻を巻き、髪を後ろへ流したその少年には、右腕が無かった。無い腕の付け根の袖は紐で硬く結ばれていた。
「俺を呼んだのはお前達か」
二人は、初対面な上に彼の異様な雰囲気に呆気に取られなかなか言葉が出ない。それを見た彼は二人を睨み付ける。もうダメだと思っていたところに、愛が駆けながら戻って来た。二人はそれに気付き、彼女に助けを求めるかのように彼女に視線を向ける。
「あ!城崎くん、来てたんだ!」
彼女は少し息を切らしながらも、笑顔で彼に話しかけた。彼は愛の方へ少し気だるそうに振り向く。
「何の用だ」
彼女とはまるで逆の雰囲気で無愛想に言った。しかし彼女はそれに動じていない。泰志と竜二は、この時ばかりは彼女の性格に救われたと思った。
「この人は城崎秀くん。解放軍の中でもかなりの腕を持ってるナイフ使いよ。片腕は無いけど、そんなこと全然感じないくらい強いんだから!」
彼女は秀の問いかけを少し頷くだけで済まし、明るく彼のことを紹介し始めた。泰志と竜二はその説明内容よりも、彼女が彼を雑に扱っていることに驚いていた。少しして彼は体の向きを基地内部の方へ向けた。
「無駄足だったな」
そう言うと彼は三人のもとを去ろうと歩き出した。愛はそれを少し見た後、先程とは雰囲気の変わった様子で口を開く。
「あなたの仲間と右腕を奪った相手のところへ向かうって言ったら…どうする?」
彼はそれを聞いて足を止める。
「あの"刀使い"をやりに行くのか?」
彼は基地内部側を向いたまま少しうつむきながら言った。泰志と竜二は、彼女の言う人物が初めは真由美のことだと考えたが、彼の言葉によりそれは真由美とは違う人物であると気付いた。
「城崎くんのいた部隊はね、解放軍の中でも精鋭だったの。でも遠征中に…」
「もういいだろ」
彼女が少し悲しく思い詰めたように話す最中に、彼は無愛想に話を遮る。泰志と竜二は、真由美の他にも手強い存在がいることを知り、さらに希望を失い言葉が出ないでいた。しかし、意を決した泰志は一歩前へ歩み出て口を開いた。
「城崎…でいいんだよな。俺達に手を貸してくれないか」
竜二は泰志の方を見た後、彼の気持ちを再度秀に送るかのように力を込めた視線を送った。
秀は黙ってうつむいている。それを見た愛が口を開こうとした瞬間、彼は顔を上げる。
「準備するから待ってろ」
それを聞き、三人は安堵の表情で顔を見合わせる。するとそこに、余計に足音を立てるかのように歩いて来る人物がいた。泰志の武器を罵った、ゴーグルを装着したロン毛の少年だった。
「おほっ、マジでいるじゃん!ポンコツくんに、エリートくん!…とサウスポーもいるのかよ!」
四人は冷めたかつ面倒なものを見る眼差しで彼を見る。しかし彼はそんなことはお構いなしに切り出す。
「俺も連れてってーとか言っちゃおうかな?」
ひょうひょうとした様子で軽口を叩く彼に対して愛が口を開く。
「だーれがあんたなんかと!」
「おいおい!俺の実力知ってるだろ?!それに、"頼れる"仲間が必要だったんじゃあねえの?」
「一億歩譲って実力はあるとしても、あんたみたいな悪目立ちする奴が一緒だと命がいくつあっても足りないって!」
泰志は、複数の命を持つ彼女にとっても彼は危うい存在なのかと考えた。
「オーラ抑えるからさ!ここに居てもつまんねーんだよ」
自分達の目的を「暇つぶし」と捉える彼に、竜二はすっかり呆れていた。
「まあ、居ないよりは良いかもしれないけど…どう思う?」
愛は渋い表情をしながら三人に問いかける。
「まあ、人手は必要だし…」
「みんなが良いなら」
「居ても居なくても一緒だろう」
竜二、泰志、秀の順で皆気は進まない様子で答えた。
「決まりだな!…って、居ても居なくても一緒ってなんだよおい!」
「こいつは五十嵐亮介。見てのとおり年中ゴーグル付けた変人。実力はまあ…うん」
愛は仕方なさげに彼について説明を始める。ツッコミどころ満載といった感じでそれを聞く亮介だったが、その説明に納得の様子の三人を見て言葉を発するのを渋々やめた。
こうして、泰志、竜二、愛、秀、亮介の五人は支度を済ませ基地を出発した。




