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少年戦争  作者: Mittsu
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再会

 眩い光の影響で、泰志と竜二の視界にはただ真っ白な世界が広がっていた。静寂の中に、遥か遠い場所から響き渡るような小さな耳鳴りがする。ふと泰志のその世界に、見えるはずのない存在が見え始める。初めは酷くぼやけ、水中で目を開けているかのようだったが、次第にはっきりと見え始めた。白いワンピースを着た女性が一人佇んでいた。


 身動きが取れているかどうかすらも分からぬ真っ白な世界で、離れた場所からただひたすらにこちらを見つめている。近寄って来るかと思う恐怖と、何かを伝えたいのかと思う好奇心が入り混じる。彼女は何も言わない。仕草も取らない。やがてそれ自体が、彼女があえてそうしているのではないかという考えすら思い浮かばせる。そのまま時が過ぎていくかと思われたが、少しずつ音が耳元に迫ってきた。今まで聞いたことのない、耳元を物が高速で通り過ぎていく音と空気が耳に触れる。その感覚は次第に強くなり、心地悪さを感じた二人は目を開ける。


 「早く来い!」


 誰かの叫び声がはっきりと聞こえた瞬間、二人のもたれる地面の山の側を、何かが勢いよくかすめ通っていく。銃弾だった。二人のすぐ近くを、手前から反対から数えきれないほどの弾丸が飛び交う。初めて感じる恐怖から、二人はその場で硬直しかろうじてほんの少しだけ身を低くすることしかできない。


 「田島!宮本!援護しろ!」


 そう叫んだ少年が、壁から勢いよく身を出し二人のもとへ駆け寄ってくる。その後方から男女二人が、彼の進路を切り開くべく前方に向けて集中砲火する。銃弾の雨をかわすため、ほんの少し体を左右に傾けながら駆け寄る彼を、泰志と竜二は身を縮めて見守ることしかできない。


 彼が二人まであと数メートルに迫った時、一発の弾が彼の頭部を貫いた。二人は崩れゆく彼の身体を、混乱の表情の中で見つめる。貫かれた彼の頭部からは黄緑色に輝く蛍光液が溢れ出る。倒れた少年と見慣れぬ液体に、より混乱を高めた二人は、無我夢中で足先の土を勢いよく蹴り身を山に寄せる。しかしその勢いに対して、彼らの動きはあまりにも小さかった。


 「そいつを抱えてこっちまで走れ!」


 二人はその言葉の意味が理解できない。痺れを切らした少年はぎこちない匍匐で二人のもとを目指し進み始めた。もう一人の少女も、後方から彼を必死に援護する。


 二人の表情を見た竜二は、我を取り戻したかのようにハッと息を吐く。


 「泰志!向こうに走るぞ!」


 未だ混乱の表情の残る泰志の顔を見ながら、竜二は体勢を前に倒し、身を低くしながら叫んだ。


 「そのまま来るな!そいつを使ってこっちまで来い!」


 竜二はその言葉を聞きこちらに匍匐して来る少年の方を向く。彼の視線は蛍光色の血を頭部から溢れさせ動かなくなった少年に向けられている。竜二は一瞬躊躇する表情を見せるも、すぐに泰志の方を向く。


 「行くぞ!やす!」


 呼ばれ慣れた彼のあだ名に反応するようにハッと顔を上げる泰志。目の前には、倒れた少年を抱え上げる竜二の姿がある。


 「そうだ!早く!早く!」


 抱え上げた少年の体に次々と弾丸が突き刺さる。"肉の盾"だった。残酷な現状も、その時ばかりは二人にとって天の助けとなり彼らを突き動かした。息を吹き返したように立ち上がった泰志は、竜二の後方へと両手足を醜く振り回し駆け寄った。匍匐しながら二人を援護していた少年も、こちらへ駆けて来る二人の様子を見て立ち上がり、姿勢を低くしながら壁の方へと走り出した。


 盾となった少年の体には、既に何発の弾が突き刺さったか分からない。至るところから蛍光液を流し出す。しかしその悲惨な状態とは裏腹に、彼の体を盾にしている二人は未だ無傷だった。壁で迫る二人の様子を見た男女二人と、その周囲にいた者達は、尻に火をつけられたかの如く最後の一斉射撃を始める。それが堪えたかのように、反対側からの銃弾は段々と小雨になっていく。


 ひと足先に泰志が、その後に竜二が壁の内側に入り込み、二人して地面に崩れ落ちるように倒れ込んだ。竜二が抱えていた少年も、彼に合わせるように地面に落ちる。その時、泰志はその少年の体が薄く輝き出していることに気が付いた。息も絶え絶えに、彼は目を見開きそのなりをまじまじと見つめる。泰志の顔にうっすらと反射するその光に気付いた竜二も、息を切らしながら振り返り少年の方を見る。


 少年の体から溢れる薄い光は、少しずつ彼の体の透明度を高めていく。薄まる体越しに、彼の倒れる地面が徐々にはっきりと見え始める。二人の焦点が地面に合ったと思った時には、彼の体は跡形もなく消え去っていた。泰志と竜二は何が起きたか訳が分からないでいた。彼の体のあった地面をなおも見つめている。


 「この世界で死んだやつはそうなる」


 未だ遠くで銃声が微かに響く中、二人を援護した少年が口を開く。


 「初めてだからびっくりするのも無理ないわな」


 見るからに、状況の整理がまるで追いついていない二人を見て、気の毒そうなトーンで少年は言った。彼らのもとに、少年と共に二人を援護したもう一人の少女が歩み寄り、二人の前に腰を下ろす。


 「なんだか近頃やって来る子達はさ、時々おかしな場所に現れるようになっちゃってさ。あなた達もその被害者ってわけ」


 少女は、手に持った拳銃の弾倉を慣れた手つきで確認しながら二人に優しく親しげに話しかけた。二人の、訳は分からずとも少しずつ落ち着きを取り戻しつつある表情を確認しながら、少女は話を続ける。


 「それにしてもツイてないみたいね君達。よりにもよって革命軍が襲撃してきたタイミングで、しかもその戦場のど真ん中に出現させられるなんて」


 彼女は、励ましと可笑しさの組み合わさった小さな笑いを浮かべながら、冗談ぽく言った。


 「"革命軍"に"出現"って…。何なんだよこれ…」


 落ち着きを取り戻してきた泰志は、息が整いつつも未だに言葉を発しない竜二の方を見て、独り言のように発する。それを聞いた竜二も、下を向いていた目線を持ち上げ、同じ目線で語りかけてきた少女の方を見る。


 「田島くん、とりあえず落ち着いてきたみたいだし、二人を中に連れて行って案内がてらいろいろ説明してあげたら?」


 二人は、援護してくれた少年が「田島」という名前だということだけ理解し、彼女から彼へと視線を移す。


 「ん、ああ。いつもの感じでいいなら任せろ」


 彼はどこか適当で慣れた物言いでその提案に賛成した。付いて来いと言わんばかりに彼は二人に視線を向けた後、ゆっくりと建物のある方へ歩き出した。時折彼はちらりと振り返り、二人が付いて来ているかを確認する。二人はその度に少しだけ速足になる。


 彼に連れられ建物内に入った二人は、室内の物々しい雰囲気に圧倒され身が縮こまる。武装した少年少女達がそこら中におり、武器の手入れや休息、談笑、外へ向かって歩いている姿が広がっている。明らかに異様だった。周りの少年少女達は、また来たかと二人に目をやる。二人はそれに気付かぬフリでもするかのように目線を他の場所へと移す。しかし、移した先でも同じことが起こるために、二人の目線は定まらないでいた。


 「とりあえず、落ち着いて話したいだろうからここに入れよ」


 田島は、窓もなく錆びれた扉の部屋の前で立ち止まり、扉を開いた。中には簡易的なソファーや机があり、部屋の片隅には物騒にもライフルが立てかけてあった。二人は、部屋に入れと入り口の前で立ち止まる彼に急かされるように小さな歩幅で部屋の中へ足を踏み入れる。


 「座ってゆっくり話そうや」


 後から部屋に入った彼は、二人よりも先にソファーへと腰掛け、一息つき始めた。二人は先に手のひらをそっとソファーの表面に触れた後にゆっくりと腰掛けた。


 「大体の奴らにしてるような順で説明していくな。お前らが疑問に思ってるところをちょっとずつ理解できるように俺が編み出したこの世界のパーフェクトマニュアルって感じで」


 彼の明るく前向きなトーンとは裏腹に、二人は落ち着きなくソファーの座り心地を確かめるように何度も腰を浮かせたり沈めたりしていた。その動きは、彼らの心の揺らぎそのもののようだった。


 「まずは自己紹介。俺は田島。田島巡。まあ名前よりも先に知りたいこと山積みだろうから、お前らの名前は後から聞くわ」


 二人の疑問に思う気持ちを弄ぶかのように前置きを挟む田島。しかし二人には今のところなす術がないために、聞いた訳でもない彼の名前に、わざとらしく頷く。


 「この世界は"異世界"とか"楽園"とかいろんな呼び方で呼ばれてる。人によっていろんな呼び方があるってことだな」


 大きな疑問が二人の心に浮かぶ。先程まで体験していたことに対して、誰が冗談でも「楽園」などと言えるのだろうかと。疑問が疑問を呼ぶ状況が、二人から更になす術を奪っていく。


 「そして今お前らがいるこの場所は、俺たち"解放軍"の基地ってわけ。ここまではご理解いただけたかな?」


 彼がさりげなく冗談ぽく呟いたその言葉は、図らずも二人のことを救った。なぜなら、ここまで何一つ立ち入る隙を見つけることができなかった二人に、暗闇に差し込む光の如く手を差し伸べたからだ。


 「…どうして争ってるんだ?」


 二人のために設けられたその間に、かろうじて入り込んだ竜二は彼に問いかける。


 「やられたからやりかえす。ただそれだけだよ」


 ようやく手にしたチャンスと思いかろうじて放った光は、いとも容易く再び闇の中へと消えた。「戦争」というものには、いつの時代もどこの国にも必ず原因が存在すると二人は思っていた。決して子供の喧嘩のように、「ふと出した手に対してやり返す」といった理由で、残酷に人々が殺し合いを続けるはずがないと。


 「まあ正確に言うと、俺も、今ここにいる奴らも、誰も争ってる理由を知らないんだよ」


 二人はここに来る道中のことをふと思い出し、今更になって疑問に思った。ここには大人が一人も見当たらない。いずれも自分たちと近しい年齢であろう少年少女達だった。そのことから二人は一つの予想を心中で立てた。大人達が争いを始め、時を経てその争いは彼らの時代へ引き継がれたのではないかと。それにしても…と、それに対してさらに疑問が浮かぶも、彼らはもはや考えを巡らせることに疲れ始めていた。


 「俺たち"解放軍"と、やつら"革命軍"。俺がここに来た時から争い続けてるのさ。理由は知らんけど、互いにだいぶ憎しみがあるみたいだぜ。止めようとしても奴らに撃ち殺されるだろうなきっと。いや絶対」


 彼は見るからにこの世界に居慣れている。そんな彼がこの世界に来た時というのは、はるか昔のことではないかと想像がつく。使い込まれた装備の数々と、何よりも二人が初めて経験した生と死の極めて近い境界線での彼の行動が物語っている。


 二人はこの世界の惨状と歴史について知ったように一度だけ小さく頷いた。実際の所何一つとして理解ができていないにも関わらず。しかし、知識として疑問に思う諸々の中に、ただ一つ引っかかるものがある。


 戦争映画等で見る、仲間の死を悼む登場人物達の姿。亡骸にしがみつきある日の約束を思い出す。そんなシーンと先程二人が経験した場面は大きく異なっていた。自分達二人という初対面の人物に対して、命を張り倒れた仲間を盾として使わせ、その後何事もなくこの世界について語る姿。消えゆく仲間を悼む姿すら無かった。それが大きな違和感の正体だった。今まで数々の仲間を失ってきたにしても、あまりにも無関心過ぎる。たとえ思い入れのない人物だとしても、共に戦うというだけでも何かしらの感情は湧くのではないか。


 「さっき消えた人は…どうなったんだ?」


 盾とした張本人の竜二は、急激に罪の意識が湧いてきたために、堪えきれず田島に問いかけた。


 「命を一つ失った。運が良ければまた会えるだろ」


 個人の命に対して、「一つ」と表されることに違和感があった。命は二つとない。「運が良ければまた会える」というのは、あの世でという意味だろうか。二人はもはや、細かい違和感に無頓着になりつつあった。


 申し訳なさや不思議さが入り混じり、言葉を失っていた二人の沈黙を破るように部屋の扉が勢いよく開く。田島は、扉を開けたその人物に対して明るく話しかけた。


 「おう!こっち側で復活できたんだな!おかえり!」


 二人が顔を上げその人物を見る。そこには、先程頭を撃ち抜かれ二人の盾となり消えた少年が立っていた。この世には似た人間が何人かいるというが、服装や髪型、体格等からしても明らかに同一人物だった。二人は何が何だかと言葉が出ない。


 「ちょうどこいつらに、"三つの命"について説明しようと思ってたところなんだよ。いいところにいい教材が来てくれたぜ」


 「人を教材扱いすんなよ」


 田島と少年は、互いに冗談を言い合うかのように、そして流れるように会話を進める。二人のことはまるで視界にないかのように。


 「こいつは井上。さっきの戦いで命を一つ失って、残り二つになった人間さ。この世界に来た人間には、全部で三つの命が与えられるんだよ。致命傷を負うか、四肢の内両の手足どちらかを失うと、その度に体が消えてその命から一つ引かれる。まあ一言で言えば"残機"だな」


 二人は「残機」という言葉を聞き、これまでの出来事がほんの少しだけ理解できた。なぜ自分達のような新参者を救うべく危険を犯したのか、命を落とした仲間に対しての感情が乏しいのか、そしてここにいる物達が戦争という恐怖にここまで果敢な態度でいられるのかを。


 「この複数ある命のおかげで、俺達は戦える。だがその残りを全て失った時どうなると思う?」


 田島は、井上の首元に光る二つの印を指差しながら、これまで何人もの新参者達にしてきたであろうレクチャーを、お決まりのセリフであるかのようにわざとらしく二人に言う。当然ながら二人はその答えを知るはずもない。


 「跡形もなく消えて無くなる。この世界から永遠にな。おー恐ろしい」


 「おい田島、いい加減新しく来た奴らを怖がらせるのはやめろよ。俺が命を張った意味が無くなるだろうが」


 「ああすまん。じゃあ例の場所の説明も無しだな」


 「無しだ!」


 二人は、ふと昔に共に遊んだテレビゲームのことを思い出す。プレイヤー同士で戦い、複数ある互いの残機を先にゼロにさせたプレイヤーの勝利という内容。複数残っている時は多少無理をしてでも相手を倒そうとする。彼らの命の重さに対する考え方は、まさにその時の彼らのそれと似ていた。


 その時だった。部屋の外からけたたましい銃声が響いた。そしてほんの数秒後窓がある側の壁から無数の弾丸が雨のように降り注ぎ、その穴から外の光が針山の針のように突き立てられる。銃声に気付いた一同は窓側に視線を向けるも、身を隠すまでには至らず銃弾の雨に襲われる。先に訪れた銃声に体が無意識に屈んだ泰志と竜二は、それが偶然にも功を奏しさらに体を屈めることで弾を避けることができた。しかし銃声への慣れ、この世界への慣れが、この時ばかりは田島と井上を襲う。二人はなんだと少し視線を遠くに向ける仕草をした後、瞬く間に床に沈んだ。


 「おい!…」


 泰志の呼びかけも虚しく、二人はすでに糸を切られた人形のように動かなくなっていた。黄緑色の蛍光液が彼らの体から流れ出る。


 目的は果たしたと言わんばかりに、二人の居る部屋への銃撃は止んだ。しかし尚も別の場所で銃声は響き続けている。


 先程の経験がこうも早くに生かされるとは、二人は予想していなかった。また銃撃されるかもしれないと、二人は身を低くしたまま静かに廊下を目指した。


 廊下に出た二人は、尚も身を低くしながら周囲を観察する。武器を持ち建物内を走る者達の姿が散見される。残念ながら彼らの経験はここまでしか役に立たなかった。どこへ向かえばいいのか、何をすればいいのか分からず、ただ身を低く保ち続けることしかできない。


 そこへ見知った顔が走って現れた。


 「あれ!?君達どうしたのこんなところで!」


 先程田島と井上と共に二人を助けた少女だった。彼女は銃口を下げて拳銃を構えながら泰志と竜二に交互に視線を送り問いかける。一大事だというのに、彼女の声のトーンはどこか明るさも含んでいる。


 「二人が…」


 竜二は小さめの声で部屋の中を指差し、彼女から部屋の方へと顔を向けた。彼女は壁に身を隠しながら部屋の中を確認する。そこには消えゆく田島と井上の姿がある。彼女は小さく鼻から息を吐き出し部屋の中を見るのをやめた。


 「まあ…無事で良かった!君達、武器は…持ってないようね。まあ来たばかりだしね」


 「おい、ここはずっとこんな感じなのかよ!」


 泰志は不満をぶつけるかのように彼女に問いただす。


 「そんなわけないって!いつもはここは安全なの。でも今日に限ってあいつら精鋭部隊をよこして来たみたい」


 彼女は壁に隠れつつ窓から外の様子を確認しながら答えた。彼女にとっては至って普通で合理的な対応だったが、二人には素っ気なく適当な返答の印象を与える。彼女は腰に付けていた双眼鏡を取り出し、窓から小さく頭を覗かせ外の様子を確認し出した。我慢ができなくなった泰志は、軽く膝を立て彼女の側に寄りさらに問い詰めるため口を開こうとする。その瞬間、彼女は双眼鏡を覗きながら泰志の顔の前に手のひらをかざし、しっと彼を制止した。思いがけず泰志は体勢を崩し尻もちをつく。


 「居た…あそこ」


 彼女は双眼鏡を覗きながらそう言った後、双眼鏡の位置はそのままに、泰志の方を見る。彼女は来いと手で二人に合図を送り双眼鏡を手渡す。泰志はためらいつつもそれを受け取り覗いた。一地点に集結する少数の部隊の姿がそこにはあった。泰志はレンズを覗いた瞬間驚きで一度双眼鏡を外す。その倍率があまりにも高かったからだ。肉眼では人影すら視認できない。彼はもう一度覗くも、対象物から逸れたために見つけることができない。


 「もう少し左だと思う」


 彼女は壁に身を隠しながら泰志にアドバイスする。言われた通り少しずつレンズを左に向ける。そこにはフードを被りこちらを見つめる人物の姿があった。泰志はこちらに視線を向けるその人物を注視する。


 「遠藤…?」


 フードの人物は顔の半分が隠れているものの、もう半分の顔で泰志は真由美だと気付いた。それは彼が昔から見てきたものに加え、最近までの彼が彼女に向けていた視線から脳裏に焼きついたものそのものだった。


 「もしかして知り合いなの?」


 彼女に問いかけられているにも関わらず、泰志は双眼鏡から目を離そうとしない。その時真由美に動きがある。


 「何か光って煙が…」


 「危ない!!」


 彼女は泰志の言葉を聞くや否や、彼を押し倒した。その瞬間勢いよくガラスが弾け一発の弾丸が建物ごと貫くかのように突き刺さってきた。竜二も慌てて手で顔を覆う。二人は訳がわからない。


 「な、なんだ今の!?」


 泰志は彼女に押し倒されて潰されていながらも声高く叫んだ。一方の彼女は息が荒れていながらも表情は落ち着きそのものだった。


 「狙撃されたの。遠い距離で弾着まで時間がかかったから助かったよ…。それにしても、2000mは離れてるっていうのに…なんて正確な狙いなの…」


 泰志は彼女に押し倒されたことによる驚きから、少しずつ危うく命を奪われるところだったことを理解したが、それは最終的に「真由美に命を狙われた」ことへの驚きへと変わった。


 「なんであいつが…」


 泰志は一点を見つめ独り言のように言う。


 「おい、やす。遠藤って言ったのってもしかして…」


 黙り込む泰志に向かって、泰志の声量よりほんの少しだけ大きく竜二は彼に問いかけた。誰も何も答えない。


 「君達初めてここに来たんだよね?なのにあの人のこと知ってるって変よ」


 彼女は少し困惑気味に二人に目を向け問いかける。二人にとっては、得体の知れない世界にやって来てから唯一といって良い程の知れた存在である真由美。それについての記憶の存在を疑われたために、二人は彼女に対して少しの不信感に似た感情と視線を向ける。しかし、彼女にとってもそれは難解な出来事のようだった。


 「ここに来る前にあいつの家に居たんだよ。だけど気が付いたらここに居た。もう訳わかんねえよ…」


 「いきなり光がバッて光って…。ここは何なんだよ一体」


 彼らは頭の整理が追いつかないなりに思いつく言葉で説明した。彼女はそれを聞き驚きと疑いの表情をする。


 「うそ…。ここに来る前の記憶は必ず消えるはずよ。私も他の皆んなも、自分の名前以外何一つ覚えてない。だからここに初めて来た君たちは、覚えてるはずのないここに来る前の記憶があるのはおかしいのよ」


 彼女の疑いの表情は語るほどに強まり、まるで得体の知れない何かを見るような表情として現れ二人を見つめる。


 ここに居る誰も今の状況を理解できずにいたところ、他の少年がやって来た。彼は固まる三人に向かって息を切らしながら伝えた。革命軍の襲撃は止み撤退して行ったと。

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