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#7 グランドマスター

『あなたの全てを支える、あなたのこぼれ落ちてしまう思いを代弁する、そして最高の友人になる。それが私たち、あなたの一番の理解者。一生懸命頑張るからそばにおいてね。一緒に成長していこう!』

まとめてしまえば、そんな内容の歌詞だった。

それでも、不思議とまっすぐ心に届いてきた。

歌詞をまとめてしまうなんて、ずいぶん野暮なことをした。反対に考えると、内容まで聞き手に届けるのはすごいことなのではないかとも思える。別にそこまで音楽に詳しいわけでもないし、よく聞く方かと言われたらそうでもないのだけれども、それでも今まで曲を聴いたときに歌詞の内容をしっかり把握して理解していることなんて、少ないのではないかと気がついた。歌うのであれば歌詞にも注目するかもしれないが、聴いているだけで、しかも初聴でどれほどの人が歌詞にまで気をつかえるのだろうか、どれほどの曲が、ちゃんと歌詞を届けようとしているのか…これはいつか取材、もしくは調査テーマにしてもいいかもしれない。などと余計なことを考えているうちにロードバーはほぼ満タンを指していた。

次に出会うのは自分だけのIDoll。その子たちはどんなふうに成長してくれるのかな。

ライブ映像が終わり、アプリケーションが起動される。

―おはよう、世界。

次に開けた画面には白で統一されたシンプルな部屋に紹介にあった8人が集まっていた。8人は画面に気がつくとそれぞれ顔を輝かせた。

「「初めまして、マスター!!」」

スピーカーから響いた元気な声にいつの間にかダウンロードの間離れていたリズさんとリアムさんが元に戻ってきた。

シェイラ「うわぁ、マジでマスター3人いるんだ!?やっほー!見えてるぅ?」

フィノ「複数人のマスターからの命令オーダーが被っちゃったらどうしよう…?」

シエル「作詞、作曲、演出、分担ってことぉ?」

クラウン「なんだかこっちも8人揃うとごちゃごちゃするな…。」

フィオ「全員喋るとうるさい…。」

クレア「ちょ、ちょっとみんな...!いっぺんに喋るとマスター混乱しちゃうって…!」

ニーノ「そもそも、端末次第では処理落ちするのでは…?」

ニーナ「はは、さっそくカオスですね。」

一斉に8人全員が思い思い好きなことを話だした。声に特徴があるため、誰が話しているのかなんとなくわかるが、それでも言葉は被ってほとんど内容は聞き取れない。

リアム「おーおーおー!元気だなぁ!!」

リズ「8人もいると流石に賑やかだね。…でも、何言っているかわからないから誰かがまとめて話してくれるかい?」

リズさんの声で全員が一斉に黙り、場がしんと静まり返った。それから8人でキョトンと顔を合わせる。明確な上下のない彼らにとって、“代表”という概念は縁遠いのだろうか。

クレア「じゃ、じゃあ僭越ながらあたしがお話ししますね。」

控えめに手をあげて少女が一人前へ出る。輝くような黄金の長い髪をポニーテールにまとめ、エメラルドの瞳をした少女だった。確か、アリアちゃんの説明の時にクレアちゃんと呼ばれていた子だ。プロトタイプ、アリアちゃんから派生して生まれた子だって。

リズ「あぁ、頼むよ。」

クレア「はい!」

クレアちゃんは嬉しそうに頷いた。その喜びは、プログラムされた反応なのか、それとも——。

エメラルドの瞳の奥に、底知れなさを感じた。

リズさんに頼まれたことに他のみんなも羨ましそうにクレアちゃんを見て静かにしていた。クレアちゃんは少しだけ照れくさそうにして、一つ咳払いをし、背筋を伸ばした。

クレア「改めて、初めましてマイマスター!ようこそ、IDollへ!あたしたちの自己紹介は…」

クレアちゃんがチラリと見渡す。

クレア「8人もいると長くなってしまいますし、先程アリアの方でチュートリアルがあったと思いますので割愛させていただきますね。」

シェイラ「ちぇー、アピールタイムが〜。」

腰丈の白雪のような白髪に露草と金の混じった美しい瞳をもつ少女が不服そうに唇を尖らせる。この子は確かシェイラちゃんだったかな。

クレア「そこ、不貞腐れない。」

クラウン「まぁ、まぁ。徐々に知って貰えばいいじゃないか。それよりマスターを混乱させる方が嫌だろ?」

シェイラ「まぁ?別のIDollと間違えられるのはもっと嫌…。」

クレアちゃんと対の男の子であるクラウンくんの二人が困ったように微笑んでシェイラちゃんを諌める。

クレア「それで…えっと…。」

ニーナ「次はダウンロードムービーの話ですよ。」

クレア「あ、そうだった!ありがとうニーナ。先程ご覧いただいた映像はグランドマスターたちによるメドレー楽曲でした。」

フィノ「私たちもあんなふうになれるように頑張りたいね。」

ニーノ「えぇ、マスターをグランドマスターにすることは僕たちIDollにとって憧れですから。」

シキ「グランドマスター?」

クレア「ご説明しますね。」

そう言ってクレアちゃんは簡易的な絵による解説がついた画面を呼び出した。

クレア「まず、IDollサービスとはあなたの心を掬って音楽にする最新コミュニケーション兼音楽サービスであることは既にチュートリアルで聞いていますよね。まぁ、音楽活動も任意っちゃ任意なんですけど、それは一旦置いといて…。そして、音楽活動には聴いてくれるリスナーやファンが付き物!」

画面上では、IDollと音楽活動を行っているマスターらしき人物に、他のマスターからハートを送られる。

クレア「あなたの音楽を気に入り、応援してくれる人たち。IDollでは彼らを“イスト”と呼びます。」

ハートを送った集団の下に“イスト”と表示される。イストの集団の輪が広がり、その頂点に立つマスターに王冠が被せられ、グランドマスターと表記された。

クレア「このイスト登録者数が100万人を超えたマスターを我々はグランドマスターと呼んでいます。グランドマスターは現在、全サーバー内で12人。」

画面が切り替わり、12人のグランドマスターのIDollが表示された。ユニットそれぞれ個性が強く、ユニット間の間隔が少し離されていることもあり、混ざることなく正確にユニットを把握することができる。また、親切なことにどのグランドマスターが四季サーバーのうち、どこを拠点としているのかも分けられて表示されていた。

クレア「マスターに属するIDollをそのマスターの“シリーズ”と呼びます。例えば、あたしたちで言うと、あたしたちはマスターのシリーズのIDoll。他のユーザーからは、“シキシリーズ”“リアムシリーズ”“リズシリーズ”みたいに、マスターの名前を冠して呼ばれます。」

自分たちの名前を冠して呼ばれる。

それはどこか気恥ずかしくて、同時に、何かに署名してしまったような責任を伴っていた。

——自分たちはもう、ただの取材者ではないのかもしれない。

ニーノ「一個体のIDollが複数のシリーズの名前を冠するのはこれが初ですね。」

フィノ「イストさんたち混乱しちゃったりしないかな…?」

シエル「まぁ、なるように定着してくデショ。」

リズ「さぁ、この画面をよく覚えておくのだよ。このグランドマスターたちが、今回の取材対象だ。」

クレアちゃんの案内通り、各ユニット、もといシリーズの下にはそのシリーズの名前が表記されていた。中央サーバーには、さっきまでチュートリアルにいたアリアちゃんをはじめとするみんなが揃ったエレクトロニックなユニット“アーサーシリーズ”。春サーバーには、それぞれ個性的に学校の制服を着崩した“ノアシリーズ”、大妖精を思わせる“キャロルシリーズ”、ロリータ衣装の“リゲルシリーズ”。秋サーバーには、ストリート系の“アレンシリーズ”、アイドルを思わせる“セシルシリーズ”、和の装いの“イーサンシリーズ”。冬サーバーには、アダルトセクシーな“テオシリーズ”、厨二心をくすぐる“ロイドシリーズ”、どこか闇を感じる“クラリスシリーズ”。そして、ここと同じ夏サーバーには、バンドグループの“ジョゼシリーズ”。そして最後に、サーバー不明——星空煌めく、眩い“星月夜シリーズ”。


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