#69 家族のかたち
シェイラ・ジョゼ「ウチは生演奏だからね。」
シキ「えっ。」
慌ててシェイラちゃんが耳打ちでこっそりと教えてくれる。
シェイラ「ジョゼシリーズはバンド楽曲でその構成はシェイラ・ジョゼがGtVo、クラウン・ジョゼがGt、ニーナ・ジョゼがBa、フィノ・ジョゼがKey、シエル・ジョゼがDrだよ。」
シェイラ・ジョゼ「もしかして、ジョゼにぃに会いたいって言ってたのに何も知らんの?ウチは生演奏、生バンドにこだわってんの。それがジョゼにぃがアイディアルを始めた理由だからね。」
シキ「なんでまた…。」
シェイラ・ジョゼ「ジョゼにぃはいつか兄弟みんなでバンドをやってお家を建て直したいんだって。ここもジョゼにぃの本当のお家を再現したんだよ。」
シキ「ジョゼマスターのお家はライブハウスだったんだ…。」
シェイラ・ジョゼ「おじいちゃんとかそれより前の代のものらしいけどねー。」
シェイラ「ガチじゃん。内装で調べると実際にあるライブハウスが検索で引っかかる。」
シェイラ・ジョゼ「まだ運営できるレベルじゃないんだけどね。たまに物好きが聖地巡礼とかなんとかで近隣を彷徨いてるとかなんとか。」
ニーナ・ジョゼ「あれ、普通に近隣の迷惑だよね。」
シェイラ・ジョゼ「早くうちらが3Dライブでもアンドロイド体でもなれて演奏できれば、ライブハウスも運営できるんだけどねぇ。」
ニーナ・ジョゼ「どちらにせよ適応できる機材が足りないから当分はお金貯めないと。」
シキ「な、なるほどそんな事情が…。」
シェイラ・ジョゼ「ま、でもジョゼにぃの目標は兄弟バンドだから。今作ってる曲もいつか未来のバンドのためのものだしね。ウチらはそのお手伝いをしてるの。」
ニーナ・ジョゼ「楽器を教えたりね。」
いつか本物の兄弟たちが演奏するための曲。
そう聞くと、胸の奥に小さな引っかかりが残った。
シキ「それって少し寂しくない?何かの代わりって最初からわかってるのって。」
その問いに2人は顔を見合わせてしまった。
シェイラ・ジョゼ「なんで?夢に繋げられることって良くない?」
シキ「でも自分の手元には何も残らない…。」
ニーナ・ジョゼ「残らなくていいよ。だって私たちはIDollだし。マスターの、お兄ちゃんのためになるならこれ以上のことはないよ。」
シェイラ・ジョゼ「それにあの子達と一緒にいるの楽しいし、この時間が好きだから。」
シキ「それに確実に終わりが来るってわかっていても?」
シェイラ・ジョゼ「それを言うならアイディアルだっていつまで続くかわかんないよ?ウチらはデータだから消されない限り永遠だけど、モノに永遠なんてないんだし。…ってか、そんな難しいこと考えてない。今が楽しい、好き。それだけで良くない?先ばっか見て不安がってもしょうがないでしょ。なるようになるんだし今一番が一番大事。」
今一番が一番大事。いいことを聞けたな。
シキ「別に、否定がしたかったわけじゃないんだ。気を悪くさせちゃったらごめんね。ただ、考え方とか聞きたくて、教えてくれてありがとう。」
シェイラ・ジョゼ「そーゆー小難しいことばっかり考えちゃうのは癖?それとも職業病ってやつ?とにかく、ウチは記者さんのIDollじゃないから言えることを言うけど、あんまりIDollを人間と見境なく捉えるのはやめた方がいいよ。辛くなるのはソッチだけだから。ウチはジョゼにぃたちを家族だと思ってるし、向こうもそう接してくれてる。だから、ウチらは家族だよ。でも、人間同士の家族とはやっぱり少し形が違う。でも、それは別に悲しいことじゃない。そういうものだし。」
シキ「…。」
ニーナ・ジョゼ「…シェイラ。」
シェイラ・ジョゼ「ん?」
ニーナ・ジョゼ「柄にもないこと言っててキモい。」
シェイラ・ジョゼ「だよね〜〜。ちょっとクラウンの真似〜。」
ニーナ・ジョゼ「クラウンの真似なら少し似てるかも。」
ジョゼ「悪いな、待たせた。」
そのタイミングでジョゼマスターがやってきた。子供達のお説教が終わったのかと思って見てみると、まだ続行しているようで、どうやらジョゼマスターのパートだけ終わらせてあとは任せてこちらの方に来てくれたらしい。
シキ「いえ、こちらこそお忙しい時にすみません。」
ジョゼ「改めて、兄弟の面倒見てくれて礼を言わせてくれ。…それで、俺に何か用か?」
シキ「実はアーサーマスターからの使いの記者でして、二つほどお願いとお伝えしたいことが。」
ジョゼ「おう、恩を受けたんだなんでも言ってくれ。」
ありがたく、全てを説明させてもらった。本来であれば今度のイベント運営のキャンペーン記事を書く記者であること、アイディアルの異変を先に対処するためにアーサーマスターと協力関係にあること、それに伴って注意喚起と事が落ち着き次第インタビューのアポイントをお願いしていることを話した。
ジョゼ「まず、インタビューの話だが、こちらはもちろん問題ない。むしろ、他のイストにも知ってもらえる可能性があるから願ってもない話だな。ただ、取材対象はIDollと俺だけにしてくれ。チビどもはまだ幼いからそういう話は早いと思うんだ。」
シキ「もちろん、そのつもりでいました。」
ジョゼ「それで、アイディアルの異常は本当の話なのか?にわかには…いつもと何も変わりないと思うが…。」
シキ「夏サーバーはまだあまり報告を受けていませんが、他のサーバーでの情報は多発しています。それがサーバーを跨がないのかそれとも夏サーバーだけ安全なのか、それはまだわかりません。いかんせんまだ何もかもが未知ですので…。」
ジョゼ「それが本当ならしばらくチビたちはアイディアルに入れるべきじゃないな…。少なくともマイディアルからは出せねぇ。」
シキ「万が一アイディアルが危機的状況に陥った際、ここを守れるのはグランドマスターの皆さんだけなんです。ですから、有事の際は協力していただけますか?」
ジョゼ「もちろんだ…と言いたいところだが、こっちから出せる戦力は多くて3人までだ。悪いがもしもの時は家族を一番に考えさせてもらう。チビどもの安全が確保されたらいくらでも協力するさ。」
シキ「それで結構です。ありがとうございます。」
ジョゼ「にしてもアイディアルをグランドマスターで、かぁ…各サーバーどこも3人はグランドマスターがいるが、夏は俺だけだ。流石に分が悪いとしか…いや、今言うことじゃねぇなできることはやらせてもらうさ。」
シキ「すみません、不安でしょうがどうかよろしくお願いします。何も起こらないことが一番なのでそう願うばかりですが…。」
ジョゼ「あぁ、それはアーサーマスターに願うしかねぇわな。まぁ、チビたちもシェイラをはじめアイディアルをとても気に入っているそんな場を失うようなことはさせねぇよ。」
シエル「兄ちゃーん!音出していいー?」
呼ぶ声の方向に目を向けるとお説教は完全に終わったのか、みんなは楽器を構えている。
ジョゼ「おう、音量落とせよ。」
子供達とIDollがペアになって楽器講習会が始まった。奏でられた音は想像するバンド演奏の体を揺らすような音圧ではなく、会話ができるほどの小音だった。
ジョゼ「便利だよな。実際の楽器だとここまでの音量調節は自由にできない。特にドラムとかだとな。こういう時そういやこれも電子音だったか、って思うよ。音色はもう遜色ないのにな。」
シキ「どうして生演奏にこだわっているんですか?」




