#68 帰る場所
そうして初めて見た2人の笑顔にシェイラちゃんとシンクロして大きく安堵した。それから、2人に事情を聞くと、どうやら2人はジョゼマスターの弟さんと妹さんらしい。他の兄弟たちと雪で遊びに勝手に抜け出して冬サーバーに来たら、いつの間にか遊びに夢中になり逸れてしまったそうだ。しかし、IDollもいない2人だけではマイディアルに戻る操作もできなくて、そこで途方に暮れていた矢先にジョゼマスターの話が聞こえて呼び止めてしまったということだった。
「ポピー!ケニー!」
遠くから呼びかける声がして2人の顔はパッと明るくなった。
男の子&女の子「「シェーラ!!」」
振り返ると猫耳のニット帽を被ったシェイラちゃんが慌てた様子で駆けてきた。2人が親しみのあるシェイラちゃんということはシェイラ・ジョゼちゃんだろう。2人は駆けつけたシェイラ・ジョゼちゃんに抱きつくと、これまでの緊張が解けたのかもう一度声をあげて泣き出してしまった。その姿をシェイラ・ジョゼちゃんは困ったように、けれども優しく撫でてあげる。
シェイラ・ジョゼ「もう、ジョゼにぃもウチもめっっっちゃ心配したんだかんね!兄ちゃんや姉ちゃんのそばから離れちゃダメっしょ!」
ポピー「ごめんなさいぃぃ…!」
ケニー「おうちかえれないかとおもった…!」
シェイラ・ジョゼ「ん、でももう帰れるよ。さ、帰ろ。帰ったらジョゼにぃのお説教だから。」
ケニー「ゆきであそんでたらみんないなくなっちゃってぇ…!」
ポニー「さがしてたらもっとまいごになっちゃったのぉ…!」
仕切りにごめんなさいと謝り続ける子供達をシェイラ・ジョゼちゃんはうんうんと一つ一つ丁寧に相槌をして、流れるような仕草で1人を抱っこし、もう1人の手を握ってあげた。
シェイラ・ジョゼ「まぁ、今回はマリやランの方が悪かったし、そんな怒らんと思うよ?ウチも一緒に話してあげるし。ただ、『心配させんじゃねぇ!』とは言われるかもね。」
双子「「うぅ…ごめんなさい…。」」
シェイラ・ジョゼ「ん。同じように心配かけたジョゼにぃにも謝ろーね。」
先ほどまで慌てていた自分が恥ずかしくなるほど見事な手つきで2人を宥めている。唖然とその光景を見ているとそこで初めてシェイラ・ジョゼちゃんと目が合った。
シェイラ・ジョゼ「ありがと。2人のこと、見ててくれたんしょ?」
ポニー「シェーラのおうたうたってくれたの!」
シェイラ・ジョゼ「へぇー!いいやん!」
シェイラ「いや、別にそんな…。」
ケニー「おねーさんたちジョゼにぃにあいたいんだって!」
ポニー「ジョゼにぃのおはなししてたからおそでぎゅってひっぱちゃったの。」
シェイラ・ジョゼ「ジョゼにぃに…?」
そう繰り返した、シェイラ・ジョゼちゃんは上から下までまるでスキャンするかのようにしげしげと見つめてきた。2人を抱えている状態で長話は申し訳ないけど、ここは一つ事情を説明すべきかなと口を開くより先に話したのはシェイラ・ジョゼちゃんの方だった。
シェイラ・ジョゼ「いいよ!2人のこと見ててくれた恩あるし、ジョゼにぃも恩返しがしたいって言うはず!一緒に連れてったげる!」
そう言うが早いか、テレポートの対象に含まれ視界が明るくなった。
気がつくと、金属製の重たい扉の前に立っていた。元々は黒い扉だったのか、その上には剥がれているものやら剥がれかけやら多種多様なステッカーが埋め尽くされるように貼られていた。その扉をシェイラ・ジョゼちゃんは体重をかけるように押し開ける。どうやらこの扉は防音用の二重扉になっていたようで中の扉はすでに開け放たれているようだった。少し狭い窓もない密室に腰の高さくらいの高台。それを仕切る申し訳程度のフェンス。そこは紛れもない小さなライブハウスだった。そこにはすでに数人の人が集まっている。ステージのへりに座るもの。壁際のソファに腰を掛けるもの。中でも中央の空間を落ち着きなく行ったりきている青年と、ステージ中央で正座をさせられている男の子と女の子、それを囲む何人かが目についた。
ステージのヘリに座りギターを奏でていた少女がこちらに気がつく。それはニーナ・ジョゼちゃんだった。
ニーナ・ジョゼ「あ、帰ってきたよ。」
その一言に皆が大きく反応する。
ソファに腰掛けていた少女が慌ててこちらに駆け寄る。
アイリス「コニー!ケニー!」
コニー&ケニー「「アイリス姉ちゃん!」」
2人は姉と慕うその少女に抱きついた。
その様子を先ほどまで落ち着きなく歩き回っていたこの場で最年長と思われる青年は安堵の息を大きく洩らした。彼がきっとジョゼマスターなんだろう。
マリ&ランディ「「コニー、ケニーごめぇん!!!」」
ステージ中央で正座をさせられている女の子と男の子が半分泣きべその状態で2人に大きく謝る。正座中の2人を囲んでいるのは順番にシエル・ジョゼくん、クラウン・ジョゼくん、フィノ・ジョゼちゃんだった。
フィノ・ジョゼ「よかった。どこも怪我してない?兄さんがとても心配していたんだよ。」
ケニー「うん、平気ー。」
シエル・ジョゼ「お、泣いてないじゃん。偉い偉い♪」
ジョゼ「シェイラ、ありがとな。」
シェイラ・ジョゼ「いんや。」
そこで、ジョゼマスターがこちらに気がつく。
ジョゼ「シェイラ、後ろの人は?」
シェイラ・ジョゼ「コニーとケニーを見つけて相手してくれてたんだよ。んで、ジョゼにぃに会いたいっていうから連れてきた。」
ジョゼ「そうか。弟と妹が迷惑かけちまったな。礼を言わせてくれ、助かったよ。」
シキ「いえ。」
ジョゼ「…。」
シエル・ジョゼ「クラウンはオコだからな〜?お説教だぞ〜?」
コニー&ケニー「「やー!!!」」
クラウン「俺を悪役みたいに言うな。ただ、ちゃんと話をするだけだよ。全員の話を聞かなくちゃな。兄貴だってそうするだろ?」
これで全員が揃ったのか、賑やかになるライブハウスにジョゼマスターの様子が落ち着きなく感じる。きっと来客に対応するどころじゃないんだろう。
シキ「どうぞお構いなく。」
ジョゼ「悪いな。そういってもらえると助かる。シェイラ、任せていいか?」
シェイラ・ジョゼ「もち〜。」
シェイラ・ジョゼちゃんに案内され壁際のソファに腰掛ける。ステージの上ではジョゼマスター、クラウン・ジョゼくん、フィノ・ジョゼちゃんの保護者組?による、お説教タイムが始まり、子供達は横一列に綺麗に並んで座らさせられていた。
シェイラ・ジョゼ「ごめんね賑やかで〜。」
シキ「ううん。楽しそうでいいね。」
シェイラ・ジョゼ「楽しいのは間違いないわ!」
ニーナ・ジョゼ「…。」
ステージの縁に座っていたニーナ・ジョゼちゃんがこちらをじっと見ていることに気がつく。シェイラ・ジョゼちゃんもその視線を感じ取ったのか、ニーナ・ジョゼちゃんに手招きをしてこちらに呼び寄せた。彼女はギターを大事そうに抱えてこちらに駆け寄り、空いている席に座った。
シキ「それはギター?」
覗き込むように尋ねると、ニーナ・ジョゼちゃんはギターを見せてくれた。
ニーナ・ジョゼ「…ベースギターだよ。」
シキ「へぇ〜。楽器なんて珍しいね。」
電子音が蔓延ったこの世界。技術は進化し生音と音圧も遜色がなくなってしまい、生演奏を見る機会も楽器に触れることも皆無に等しくなってしまった。だってその方が楽だし、順当にやれば習得までにとても時間も労力もかかるものだ、安くないし。そんな世間故に楽器を見るのはとても珍しかった。




