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#67 灯火のあと

その時ふっとランタンの明かりが消えた。ユアディアルは更なる闇に包まれる。フィノ・クラリスちゃんたちがこれまで照らしてくれた明かりたちだけが足元をゆらゆらと温かく照らしていた。しかし、それだけでは心許なかった。ランタンから分配した明かりは弱まっていて二人のランタンとは比べられるレベルじゃなかった。それに、開けた一面の蝋燭をまだほとんど照らしきれていなかった。

クラリスマスターは一本のマッチを徐に取り出し、それを擦った。それはこれまでユアディアルを照らしていた温かいオレンジ色ではなく、どこか冷たい青い炎が灯った。それをほいとフィノ・クラリスちゃんに投げる。フィノ・クラリスちゃんがニーナ・クラリスちゃんと手を繋ぎクラリスマスタからの炎を受け取った次の瞬間、凄まじい力がユアディアル内を駆け巡った。まるで大雷が落ちてきたかのように爆発的に一瞬でユアディアルが明るくなった。

シェイラ「“マーダー”だ…!」

フィノ・クラリス・マーダー&ニーナ・クラリス・マーダー「「〜♪!!〜♫!〜♪…!!」」

フィノ・クラリスちゃんとニーナ・クラリスちゃんは手を合わせ歌を歌う。その歌は躍起なような叩きつけるような攻撃的な、先ほどまでの二人を見ていては腰を抜かすほどの豹変ぶりだった。

死にたい、消えたい、辛い、寂しい、哀しい、もう嫌だ、やめたい

そんな想いを叫ぶ歌だった。

クラリス「別に感情は吐き出して軽くなったって消えるわけじゃない。貯まればいつか爆発するんだ。それが“マーダー”。」

あたりの蝋燭は全てメラメラと灯っていた。ずっと遠く、果てしなく、これまで辿ってきた小道を囲む全ての蝋燭が明るく輝いている。

やがて、歌は終わり、フィノ・クラリスちゃんとニーナ・クラリスちゃんも元の落ち着きを取り戻した。ただ、前と唯一違うのはユアディアル全体が来た時とは比べ物にならない明るさ、そして温かさに包まれていた。クラリスマスターはこんなに傷ついて孤独な人に寄り添う心優しい人なんだ。しっかり伝えなくては。この人とはもっといい関係をこれまでも続けていきたい。

シキ「…クラリスマスター。」

呼びかけると彼は何も言わずにこちらを振り返った。フィノ・クラリスちゃんとニーナ・クラリスちゃんの視線も集まる。

シキ「もしかしたら、これからアイディアル全土を巻き込んだ最悪な出来事が起きてしまうかも知れません。もちろん、そうならないように手がかりは集めますが…。ですが、予測しうることが起こった時アイディアル(ここ)を守れるのはグランドマスターだけなんです。だから、みんなで協力しあってアイディアル(ここ)を守りたい。…協力してくださいますか?」

クラリスマスターが答えるまでには少し時間があった。きっといろんなことを考えたんだと思う。クラリスマスターにも思い当たる節があったんだ。ここ最近のアイディアルの雲行きが何やらただならぬ雰囲気であることに。

クラリス「連携とか、そういうの苦手だし、他のグランドマスターなんてほぼ初対面だから…約束はできない。けど、グランドマスターとしての仕事はするよ。」

シキ「!それで十分です。ありがとうございます。」

一番聞きたい頼もしい言葉が聞けた。先を急がなければ。改めてクラリスマスターにお礼を言って、後日改めてのインタビューや有事の時のために連絡先を交換した。去り際、一瞬フィノ・クラリスちゃんと目が合った。彼女は小さく微笑むと、横には『またね。』という吹き出しが出た。そうか、あの子は喋ることができないんだ。だから、出会った時も困ったようだったし、ニーナ・クラリスちゃんに耳打ちで代わりに話してもらってたんだ。フィノ・クラリスちゃんに手を振り返して、また長い長い小道を今度は煌めく明かりが絶えない中シェイラちゃんと二人並んでユアディアルを後にした。

先を急ぐため、とりあえずクラリスマスターのユアディアルは去ったものの、行く宛自体は決めていなかったため、まっすぐマイディアルに帰ってもしょうがないし、とりあえず冬サーバーを経由して歩いて帰ることにした。途中で行き先が決まればそこに向かうまでだ。きちんと連絡の取れない状態にあるマスターは残り5人。そのうち、2人は玉砕したノアマスターとテオマスターなので、実質初対面はあと3人だ。時間帯を考えるとノアマスターの元を凸するのは失礼だし、テオマスターには応対してもらえる資格が揃っていないので、今すぐとなると残る3人を攻めるべきだろう。もっとも、この昼時にアイディアルにいてくれればいいのだが。冬サーバーは名前の通り冬を模しているので、厚い雲に覆われ全体的にほんのり暗い。と言ってもさっきまで薄暗いクラリスシリーズの元にいたからそれでも街頭故か眩しく感じるくらいだった。止むことを知らない綿雪が街頭に照らされてイルミネーションのように輝いている。

シキ「…あ。」

シェイラ「どったんマスター?」

不意に立ち止まってしまったことでシェイラちゃんが不思議そうに振り返る。

シキ「今、考えてて思ったんだけど、残りのリゲルマスターはリアムさんいないと伺えないし、星月夜シリーズのマスターはそもそも誰かも居場所もわかってないから、これから向かえるのって実質ジョゼマスターの1人だなぁって。」

シェイラ「ほほう、それに気がついてしまったか。」

にまりと笑うシェイラちゃんを尻目に再び歩き出そうとしたその時。

ーぎゅ。

何かに裾を掴まれて進めなかった。

シキ「?」

振り返ると小さな男の子と女の子が裾を引っ張っていた。背格好や顔立ちが似ているから双子だろうか。それにしても、2人の目には今にも溢ればかりに涙が溜まっている。一体どうしたというのか。

2人の視線に合わせるように屈み、顔を覗かせると、2人はゴニョゴニョと口をつぐんで両手を弄んだ。

何かを話そうとしてそれがうまく言葉にできないのか、恥ずかしいのか、とにかく耳を傾けてよくその話を聞いてあげることにした。

男の子「…だってにいちゃんのはなししてたから…。」

やっとの思いで出た言葉はそれだった。

シキ「にいちゃん?」

聞き返すと、今度は女の子がぎゅっと男の子の手を掴んでまっすぐとこちらを見上げた。

女の子「ジョゼにぃのとこにつれてって!」

そこまで言うと堰を切ったようにどっと泣き出してしまった。男の子もギリギリまで堪えていた涙がポタポタと溢れる。それがだんだん止められなくなって2人してわんわん泣いてしまった。

シェイラちゃんと顔を見合わせて慌てて宥める。どうにか具体的な話を聞き出さなければ。

シェイラ「〜♪〜♪」

シェイラちゃんが歌い出す。それは聞いたことのないフレーズだった。これまでグランドマスターの歌ばかり聴いていたから、どこか不器用な歌声だったけど、泣いている2人への想いが詰まった歌声だった。そういえば、typeシェイラの歌声は聞いたけど、シェイラちゃんに歌を歌ってもらうのは初めてだった。これが、シェイラ・シキの歌。

女の子&男の子「「…。」」

シェイラちゃんがワンフレーズ歌い終わる頃には子供達の涙は引っ込み、ただ、まっすぐシェイラちゃんを見ていた。

シェイラ「あー…ジョゼマスターの話してたから好きなんかなって思って…違った…?」

どうやら、今の曲はジョゼシリーズのものらしい。

男の子「シェーラのほうがうまい。」

シェイラ「なっ!?」

女の子「…でも、あなた(シェイラ・シキ)のおうたもすきだよ。」


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