#64 アンダーグラウンド
それから次はどうしようかという話になる。
リアム「都市伝説について調べるって言われてもな〜何にも当てねぇし。」
シェイラ「グランドマスター巡りもちょうど当てが尽きちゃったところだったしね。」
シキ「あ、そういえばリゲルマスターはどうなったんですか?」
リアム「あー、それなぁ…。」
リアムさんが話し始めるより先に急にオフィスの扉が開け放たれた。アーサーマスターたちも帰ってリズさんもまだ中央サーバーにいるのがわかっている現在誰が尋ねて来るのか、全員が扉の先に注目した。そこには
シキ「ニーノくん!」
そこには随分と久しぶりなニーノくんの姿があった。しかし、彼は帰還による安堵の表情を見せるわけでもなく強張った顔つきのままオフィスに入ってきた。
どうしたの、と声をかけるよりも先に事情を説明してくれる。
ニーノ「シエルとフィオの位置情報が途絶えました。」
「「!!」」
シキ「位置情報が無くなったって…!」
フィノ「スクラップにされちゃったか…とにかく何かに巻き込まれたのは確かだね…。」
ニーノ「途中までフィオの信号を追っていたのですが、途絶えた先にはこれが…。」
そう言ってニーノくんが手のひらを広げて見せてくれたのはフィオくんが使う鍵だった。実際に使ったところこそ見たことないけど、IDollとして登録された時に一緒に登録されていたのを記憶しているから間違いない。
シェイラ「そんなの、100パーなんかに巻き込まれたの確定演出じゃん!」
シキ「迎えに行かなきゃ!」
リアム「待て、お前は行くな。俺が行く。」
シキ「え、でも…。」
リアム「都市伝説についてはお前が詳しいんだ。それにグランドマスターにもお前の方が接触している。逆に俺が残されても困るんだよ。だぁいじょうぶ!俺はツエーし、フィノだって成長したんだ。ニーノもいるしな。」
そう言いながらリアムさんは、いつものように乱雑に髪をわしゃわしゃと撫でた。その言葉で今更気が付いたけれど、フィノちゃんは最初に会った時のデフォルト姿と比べて空色のスカーフをつけるようになっている。これまでリアムさんと共に行動してきたことで成長したんだろう。
シキ「じゃあ、お願いします。」
そう強くいうと、リアムさんとグータッチをして別れた。あの人ならきっと大丈夫だ。
シェイラ「それで、本当に当てがなくなっちゃったけど?」
シキ「うん、とりあえず現状整理のためにもニーノくんが持って帰ってくれた情報をまとめようか。」
ニーノくんは去り際に行方不明になったシエルくんとフィオくんの最後の調査資料と自分のものを合わせて託してくれた。それによると3人はどうやらそれぞれ異常を報告した掲示板の民を特定しその詳細を聞き周り、それが終わり次第、掲示板の流れを変えた発言をした者を探す段階だった。3人の進捗に大きな差がなく、それによるとちょうど一人目に当たっていたくらいだった。ニーノくんは都市伝説の発端を作った人。シエルくんはミハル、ナツミ、チアキ、フユカ、という名前を提案した人。フィオくんは今現在共通認識されている始祖たちのビジュアルをデザインした人の元を訪れる予定だった。ニーノくんが当たったマスターは特に深い意味での言動ではなく、ただ自分の思いつきの発言で始まったことがまさかここまで広まり尾鰭がつくとはと驚いているようで、今となっては制御もできずに広がり続けていることに恐怖すら感じているらしい。そしてその最中にシエルくんとフィオくんの反応が途絶えたらしい。
それから、被害報告に目を通す。サーバーごとに被害内容はほぼ一致していた。春は所持IDollが不審な動きをすること、夏は不審なマスターでもなくIDollでもないような女の子を見かけたという報告。これは身をもって体験済みだ。聞き込んだ情報とも合致している。その女の子を見かけた次の瞬間にクラウンくんは襲われ、乗っ取りが侵食してしまったのだ。しかし、あれはアーサーマスターのユアディアルでの出来事だ。それが夏とどういう関係があるのだろうか?また別件なのだろうか?いや、ライブの事件以来アーサーマスターのユアディアルはイストに解放されていない。それ故に報告が上がらないだけかもしれない。そして、秋サーバーでは命令に反抗するIDollや独断的な行動をとる一部のIDoll。その際には歌が聞こえたという報告も上がっている。しかし、これは絶対条件ではなく歌を聞いてもさほど変化のないIDollの方が多いということだ。このことから、イーサンマスターのところで起きた現象と同じことが小規模的に様々なところで発生しているんだろう。その実態はプログラムの改竄。従属のプログラムの撤回と不信感の植え込み。他の報告事例と比較しても秋で起こっていることは同じで間違いないだろう。最後に冬は、サーバー内のオブジェクトの不具合と故障。単純な故障ではなく壊されたかのような暴力的な破壊状態らしい。これらは全てサーバー間を超えての報告はまだ出ていない。
……まるで、サーバーごとに別の病気が蔓延しているみたいだった。
夏の似たような事例と秋は実際に遭遇したこともあるため、事態がはっきりとしているが春と冬はまだ被害内容も漠然としていて掴むには難しい段階だった。
更なる話の進展がないか掲示板を確認する。そこでも、イーサンマスターの事故とこれまでに報告された秋サーバーでの内容が酷似するために、以前の報告者にはIDollを修理に出すことを薦めるものや、都市伝説をいよいよ本格的に信じ、人間への復讐へと走る始祖たちに許しを乞い始める人まで現れ始めていた。全体の大きな流れとしては現在有力な犯人となるマスターの候補が上がらないため、暫定で本当に都市伝説か?といった状況だ。そしてその中には頑なにオカルティックなことを信じたくない住民による、容疑者候補の名前が挙げられていた。
シキ「クラリスシリーズ?」
クラリスマスターは確か、グランドマスターの一人で、一番最初に秋サーバーの被害報告が上がっていた時も曲調が似ていると名前が上がっていた気がする。しかし、クラリスマスターの容疑もクラリスマスターが冬サーバーのマスターであることで否定の声が多かった。
シェイラ「クラリスマスターはグランドマスターの一人で冬サーバーにマイディアルを置いているマスターだよ。所持しているIDollはフィノ・クラリスとニーナ・クラリス。シンパサイザーはフィノ・クラリスだよ。クラリスシリーズは一言で表すと“アンダーグランド”な感じ。現代社会に潜む闇や孤独を歌にして表現したものが多くて一部のイストからは心を代弁してくれるって絶大的な人気だよ。その結果、クラリスマスターが上位マスターに一番近いね。」
シキ「…次はクラリスマスターにしようか。」
*
行き先が決まれば、あとは行くのみ。そうして、シェイラちゃんにクラリスマスターのマイディアルまで連れて行ってもらった。クラリスマスターは突発的なライブこそすれど、アレンマスターやイーサンマスターのように定期的な開催はせず、マイディアルの扱いとしてはノアマスターやキャロルマスターのような開放的なもので、リピーターがグランドマスターの中でテオシリーズの次に多いと事前にシェイラちゃんから聞いていたが、目の前の光景を見て正直その情報を疑った。




