#63 真実への依頼
アリアちゃんはこれ以上の言葉は言わなかった。しかし、アーサーマスターが何かを知っているということは、最悪、どんな些細な形であれこの事件に関わっているということだ。被害はもう出始めている。 しかも、ただの噂話では終わらなかった。今やアイディアル全体を巻き込む社会現象にまで膨れ上がっている。それに開発者のアーサーマスターが関わっているとなれば陰謀論のような強大で凶悪めいたものを感じてしまう。
と、その時アーサーマスターが戻ってきた。顔色はさっきよりずっといい。まっすぐと見据えた目をしていた。
アーサー「お待たせしてしまい、すみません。」
アリア「落ち着いた?」
アーサー「うん、ありがとう。」
アリア「それで、話してくれるの?」
アーサー「…。いや、まだ確証を得られる段階ではないから、逆に皆さんに話して不安を煽るべきじゃないと思ったんだ。なので、シキマスター一つ依頼をしてもいいですか?」
アリア「でも、あんなの実質テロの予告でしょ!?そんなに悠長にしている場合じゃないでしょ!」
アーサー「わかっているよ。でも、だからと言って相手の情報がなさすぎて対策の立てようがないのも事実だろう?」
シキ「あの、どんな依頼でしょうか?」
アーサー「これまで通り都市伝説について調べて欲しいんです。それについて報告をください。それから、グランドマスターの元を回る際、万が一のことが起こるかもしれないこと、それに協力して備えて欲しいという協力体制の要請をすることはできないでしょうか?」
話を聞いてから考えようと思ったものの、想像以上に重大な依頼だった。
もし引き受ければ、これまでのように片手間で取材をしている場合じゃない。グランドマスター同士の連携、情報収集、警戒喚起——どれも急を要する。
だが、これは本当にそこまでの脅威なのか?
もし杞憂だった場合、イベント取材を放り出した責任はどうなる。これは早期キャンペーンの仕事だ。期限だってある。
それでも。
開発者であるアーサーマスター本人が頭を下げている。それに、このまま何も起こらない保証もない。
——どうするべきだ?
困り果て、リアムさんに助けを求めようとするも、彼がこちらを向き直ることはなかった。しかし
リアム「…こちらの一個人では判断しかねるため、ただいまお繋ぎするので上と直接掛け合ってもらってもいいですか?」
予想外にもリアムさんがとても大人な対応で助け舟を出してくれた。そうだ、リズさんの指揮の元ならそれがこのチームの方針になる。下っ端には追いきれない責任なのだからどうしてこう先輩や上司に頼ることがいつもできないんだろう、と一人反省してしまった。
アーサー「構いません。」
アーサーマスターが快諾してくれたので慌ててリズさんに取り繋ぐ。今まで報告もなくお互い自由に動き回っていたため、あの人が今どこで何をしているのかがわからず応答してくれるのかが不安だったが、流石というか、ツーコールで出てくれた。
全員が見られるようにウィンドウを大きく表示しテレビ電話でリズさんと繋がる。リズさんはどうやら中央サーバーにいるようだった。近未来的な無機質な壁が映っている。
リズ「やぁ、グランドマスターが見つからず根を上げにきたのかい?」
リズさんの開口一番はそんな皮肉だった。それから、これまでのことを話すとすぐに切り替えて真剣な表情で聞いてくれた。都市伝説と関わりのあるテロが起こりそうとは突飛な説明で正直いつもみたいに冗談だねと笑い飛ばされないか心配だったが、そんなものは杞憂でリズさんはどこか納得したように「なるほど」と言った。どうやらリズさんは中央の運営サーバーのもとで話を進めていたところ、イーサンマスターの元での事故でたくさんのIDollが運ばれてきたその対応を手伝っていたのだと言う。その不自然な改竄と集団的被害に何か良からぬ予感を感じていたらしい。そしてリズさんはアーサーマスターからの依頼を聞きこう尋ねた。
リズ「一つ。君は確証を得るために都市伝説の情報を要求しているが、それと同時にまるで都市伝説によるテロが本当に起こるかのように各グランドマスターに協力するよう要請するのだね?その割には現状を全く共有しようとしない。信用に欠けると思わないか?」
アーサー「それは不確定な情報で混乱を招きたくないと思い…。」
リズ「そうか…では、現段階でその怪しい人影が宣言したことはどのくらいの確率で起こると考えているんだい?」
アーサー「…俺一人の被害で済めば、希望的な観測です…。」
リズ「ま、君に恩を売っておくことは悪くない。」
アーサー「依頼の達成報酬としてこちらも以降は全面的にそちらに協力させていただくことを誓います。」
リズ「うん、よろしくね。脚だけが自慢のような子達だから思う存分こき使ってくれ。というわけで、今の仕事は一旦ストップだよ。全面的に協力してあげなさい。」
シキ「い、いいんですか?」
リズ「無駄足だったら、都市伝説特集を発表すればいいさ。それなりに食いつくだろうよ。」
シキ「そんなことになったら怒られませんか?」
リズ「いいや?うるさいかもだけど、金額的損失もそこまで生まないだろうし、何よりそれを上回るほど開発者兼アイディアルの頂点に君臨するアーサーマスターと良好な縁は魅力的な話だ。くれぐれも粗相のないようにね。」
シキ「は、はぁ…。」
この人は、今の会話だけで損害と利益を天秤にかけていたのか…。本当に1左遷チームのリーダーの枠に収まっているのが不思議な人だ。この人なら重役なんて苦でもないだろうに。しかし、リズさんは「じゃ、よろしく〜」と呑気な声を残し、そのまま通話を切ってしまった。
アーサー「ご協力いただき、ありがとうございます。グランドマスターは頼んでも協力、してくれないかもしれません…だた、一言“自分のイストは自分で守ってくれ”と伝えてくれるだけでいいので、どうかよろしくお願いします。できれば同じサーバーのマスター同士は協力して欲しいところですが…。」
それからアーサーマスターと細かい話を決めて、少しでも進捗があればアーサーマスターにメッセージを飛ばすことを約束した。それから、最初のアクションとしてこれまで出会い連絡先を交換していた、セシルマスター、ロイドマスター、キャロルマスター、アレンマスター、イーサンマスターにはメッセージを送った。一回会っただけで連絡先を交換していることにアーサーマスターはとても驚いていた。アーサーマスターは研究の名目で一部のグランドマスターの連絡先は持っているが、連絡はもっぱらアリアちゃんに任せており、自分は接触できないとのこと。そんな話をしていると早速5人のマスターは各々返事をくれた。返事の仕方こそ違えど、他のマスターと協力するのは不安だが、イストは守るし善処するという前向きな回答だった。それを見届けてアーサーマスターとアリアちゃんはこちらでも対策や別のアプローチで調査を続けるとマイディアルに戻って行った。




