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#62 侵食の始まり

アーサー「…俺にもどうなっているんだか…。…少しだけ一人にしてほしい。」

アーサーマスターはやっとの言葉でそうとだけ言うと、その姿は光となってどこかに移動してしまった。

シキ「追わないでいいの…?」

マスターの安全のため付き添うのがIDollだ。今までそうしてシェイラちゃんたちと共に行動してきた。しかし、アリアちゃんは動こうとはしなかった。

アリア「大丈夫ですよ。一人にしてって言われたので。それにどうせ行き先はマイディアルだろうし、あそこなら安全ですから。」

そこに背後からシェイラちゃんが近づいてくる気配があった。

シキ「シェイラちゃん大丈…」

シェイラ「マスターごめん。マジごめん。なんて詫びたらいいかもわかんないし、どんだけ謝っても足りないけど…マスターを危険に晒した。ずっと近くにいたのに全然気が付かなかった。こんなんじゃIDoll失格だね…。」

シェイラちゃんは今にも消え入りそうな苦しそうな表情をしていた。そんなことないよ、何とか励まそうと言葉を探すが何をいったら自分を責めないでくれるのかわからない。

アリア「今何をいっても慰めの言葉にしか聞こえないかもしれませんけど。あなたはちゃんとマスターを守る牽制の役割はできていましたよ。だからすぐに手を出すことはできなかったんだろうし、あなたを警戒してプログラムを改竄して認識の齟齬まで生んでいた。」

シキ「そうだよ。わからないようにされてたんだからわからなくて当然だよ。」

シェイラ「でも…」

シキ「それを言うなら、こっちは何もされてないのに自分の持ってるIDollの異変に気がつかなかったんだよ?シェイラちゃんがIDoll失格なら、同じくマスター失格だね。…本当にいつからだったんだろう…?」

アリア「正直私もパッと見じゃ気がつきませんでした。ですから、外面はちゃんとしたtypeクラウンだったんだと思います。どこからかゆっくり中を蝕まれて侵食されていったんじゃないでしょうか?」

リアム「つまり乗っ取りってことか?」

アリアちゃんは頷く。

フィノ「そうしたらタイミングとしてはやはりイーサンマスターのユアディアルでの事故ですかね…?」

アリア「その可能性が一番高いと思います。どうですか、シキマスター?」

シキ「どうだろう…事故当初はクラウンくんは側にいなかったから、具体的な異変はわからないな…あとで合流できた時もそれまでとそこまで変わっていないような…?」

アリア「あの事故の中で、クラウン・シキはマスターの元にいなかったんですか?何か別行動をするようにとか言いましたか?」

シキ「いや…ただ、すごい人だったから人混みに紛れてはぐれちゃったのかなって。」

アリア「そんなはずはありません。マスターがいつでもIDollの場所がわかるように、アイディアル内ではIDollはいつでもマスターの場所がわかるようになっているものなんです。現にシェイラ・シキはシキマスターとすぐに合流しましたよね?」

シキ「う、うん…。」

シェイラ「考えてみればすぐにわかるようなおかしなことばっかりだった…!なんで気がつけなかったの…!?」

リアム「それだけ向こうは自由に動けるようにお前さんを抑え込んだんだよ。あんまり自分を責めるなって。」

フィノ「わかっていてもマスターのシンパサイザーとしては屈辱的なことばかりだよね…。」

シェイラ「…。」

シキ「シェイラちゃん…。」

ということはイーサンマスターの元を訪れる前からクラウンくんには異変があったはずだ。そう言われてみれば、アレンマスターの元でのダンス大会でも教えたわけでもレッスンしたわけでもないのに、それなりに経験を積んだシリーズのIDollを抑えてクレア・アレンちゃんの目に止まるほどのダンスを披露していた。あの時は深く考えずにありがたい気持ちでいっぱいだったが、出会ってからこれまでを過ごしてきてそんなことができるはずがないことは一目瞭然だった。

アリア「…一般的な方法で乗っ取りを可能にするためには、一部分でも外の保護プログラムを破壊する必要があります。何か、そのことには心当たりはありませんか?」

シキ「あ…。そういえば、アリアちゃんのライブ事故の時、掲示板の都市伝説でも言われているような女の子を見つけて、そのあとアリアちゃんを襲ったのと似たようなノイズに襲われたのをクラウンくんが守ってくれたんだ。その時に庇ってくれたから軽く傷を負って…その手当、シェイラちゃんがしてあげたんだよね…?」

シェイラ「え…ウチが…?」

いや、確かにそのはずだ。それなのにシェイラちゃんは身に覚えがないようであからさまに動揺をしている。

アリア「なるほど。そのタイミングでほぼ間違いないと思います。」

シキ「そうだ…それ以降クレアちゃんを見ていない…。」

そのタイミングだとするならば、ノアマスターのユアディアルで、また別のノイズに襲われかけた。それもその直前に接触したのはクラウンくんだ。あれもこれも全部辻褄があってゆく。しかし、この話は次の重要な疑問を残すばかりで話は進まなかった。それも“では、乗っ取られたクラウンくんは何だったのか?”という話だ。

リアム「順当に考えると、クラウンが変わっちまう前に出会ったノイズの女子が怪しんじゃねぇの?さっきのキメェやつと比べてなんか共通点とかなかったのか?」

シキ「そこまでは…。」

シェイラ「そもそも姿なんてドロドロであってないようなものじゃん。」

リアム「そうだけどよぉ、話し方とか声とかさ。」

シキ「えっと…前に会った女の子はさっきの人影みたいな話し方ができるほど成熟している感じじゃなかったですね…。話し声を聞いた訳ではないので何とも言えませんが。」

リアム「姿は…?」

シキ「眼光が鋭くて、黒くて…見間違えでなければもげた黒い翼があったと思います。」

リアム「翼?」

シキ「はい。アリアちゃんみたいに。それの黒版って言ったら伝わりますかね?それから、女の子の手にはアリアちゃんの羽らしきものが両手いっぱいに握りしめられていて、辺りにも散乱していました。」

アリア「!」

リアム「あ?そういえば、アリアは翼どうしたんだ?」

そう言えば、アリアちゃんはチュートリアルの時やライブで出会った時と違い、背中に電子の美しい翼がない。それに確か、ライブではノイズが翼にダイレクトに当たっていたから一番損害を被ったはずだ。

アリア「あれは…今作り直してもらってるんです。どうしてか、核を傷つけられた訳でもないのに治すことができなくて…まるでごっそり奪われてしまったみたいに…。まぁ、それは特別必要なものではないのでともかく!話を続けましょう。」

シキ「あ、それから声で言うなら…気分を害しちゃったら申し訳ないんだけど…ちょっとアリアちゃんの声に似てるかなって思った…。」

どこかで聞き覚えがあるような声だと思った。それはアリアちゃんと話していてほぼ確信へと変わった。

「「!!」」

一同の視線がアリアちゃんに集まる。

アリア「そう…ですよね…。数値や周波数で見ても完全に一致ではありませんが、極度に類似していました。…マスターは何を抱えているの…?」

リアム「その反応を見るに、アリアは何も心当たりがないんだな。」

アリア「はい…信じたくはありませんがもしかしたらマスターには私と共有していない何か隠し事があるのかもしれないと今回の一件で思いました。正直彼のシンパサイザーとしてはショックです…。些細なことでも何でも分かち合ってきたのに…。」


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