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#59 開発者

こうしてとりあえずの収束が見えたことで、イーサンマスターはさらに運営の方にも報告に行くということだったので、また進展があれば報告し合うことを約束に分かれることをした。最後までイーサンマスターには感謝されっぱなしで、だんだん早く退場すべきなのではと思えてきたのでありがたかった。別れ際最後まで首がもげるほど頭を下げていた、イーサンマスターだったが、ニーナ・イーサンちゃんをとても大事そうに抱えているところが最後に見えた。二人がまた元の関係に戻れるといいな。

マイディアルに戻るとクラウンくんが出迎えてくれた。

クラウン「マスター、客人が来てるぞ。」

シキ「お客さん?」

リアムさんでもリズさんでもないお客さんがこんなところに来るなんて珍しい。だって、マスターとしては音楽活動のおの字もしてないのだ。誇れることではないけれどもイストなんているわけがないからここを訪れる人なんて当然まずいない。

クラウンくんと一緒にマイディアルに入っていくと、シェイラちゃんがそのお客さんをもてなしてくれていた。その客人とはとても端正な顔立ちの青年だった。彼はこちらに気がつくとすぐに立ち上がり、駆け寄った。

端正な顔立ちの青年「あなたが、シキマスターですか?」

いきなりそう問われて何事かと一瞬思考が停止してしまった。慌てて後ろからシェイラちゃんが補足を入れてくれる。

シェイラ「マスター、この人アーサーマスターだよ。」

シキ「えぇ!?アーサーマスター!?」

その驚きと同時のタイミングで死角となっていた部屋の奥から白と黒が入り混じった髪の少女が顔を出した。そう、アリアちゃんだ。そして、アリアちゃんを連れているということはこの青年が間違いなくアーサーマスターである。それにしても予想外だった。運営は他に任せているとはいえ、一人でIDollを作り、アイディアルを生み出した人がこんなに若いなんて。てっきりそれなりに年はいっているのかと。そういえば、アレンマスターがアーサーマスターは結構若いって言ってたっけ。アーサーマスターの正体に驚いたが、更なる驚くべきポイントがある。どうしてうちに…!?

アーサーマスターはというと、シェイラちゃんの紹介と同時に丁寧にお辞儀をした。

一瞬いろんなことを考えた挙句に思考が停止して遅れてしまったが、こちらも慌ててお辞儀をする。

アーサー「急に訪ねてしまい申し訳ありません…。」

シキ「あ、いえ…。先の事故から回復されたんですね。」

部屋の奥からこちらに近づいてくるアリアちゃんの様子が見える。よかった。あの事故から回復したんだ。

そう安堵しかけて、違和感に気づく。彼女の姿は以前見た時とは異なり美しいホログラムの羽が跡形もなく無くなっていたのだ。

アーサー「えぇ、その件はお騒がせしてしまい申し訳ありません。取材のアポイントも結局お返事できないまま有耶無耶になってしまいましたね。ですが、おかげさまでおおよその復旧は終わりました。しかし、いくらかは事故の詳細を辿るために依然として回復を停止している状況なんです。」

それでアリアちゃんは羽が無いのか。思い返してみるとバグのような存在はアリアちゃんの羽にダイレクトに蝕むようにぶつかっていた。それなら大量の痕跡が残っているのかもしれない。

シキ「それでここには何のご用で…?」

アーサー「はい、シキマスターに折り入ってお尋ねしたいことがありこうして参りました。」

シキ「それくらいなら、連絡をいただければこちらから出向いたのに。」

アーサー「いいえ、お気になさらず。今回は内密にお話したかったので。それに、現在中央サーバーはイーサンマスターのライブの件で慌ただしくなっておりますから。」

開発者が内密に会って話したいこと…?その響きに胸の奥がざわつく。しかし、何にも心当たりがないため焦る。アーサーマスターはそんなことは気にしていない様子で「ですからこれから話すことはどうかシキマスターの中だけに留めておいてください。」とつけ加えた。

アーサー「ですが、その前にシキマスターもイーサンマスターのライブにIDollと訪れたんですよね。あれから、運営サーバーに立ち寄りましたか。」

シキ「あ、いえ。これから行こうと一旦マイディアルに戻ってきたところです。」

アーサー「そうなんですね。よければ俺が見ましょうか?今は運営から身を引いていますが、開発者なので直すことはもちろんできます。一回生で実際の状況を見てみたいですし…。」

その提案に甘えてお願いすることにした。オフィスにある間仕切られた休息スペース。そこなら一応くつろげるようにとソファなどを置いているのでそこで治療をしてもらうことにした。治療は一人ずつ行うことになるということでまずはシェイラちゃんからお願いすることにした。どんなことをするのかと思っていたが、アーサーマスターはシェイラちゃんを横たわらせると、手早くシャットダウンをし、イーサンマスターと同じようにシェイラちゃんのプログラムを確認した。シャットダウンした瞬間イーサンマスターのユアディアルでのやり取りを思い出したが、アーサーマスターはそんな余地すら与えず手早くシェイラちゃんの活動を止めたのだった。

アーサー「…イーサンマスターの元での被害報告では従属プログラムと感情プログラムの改ざんとのことでしたよね?」

シキ「そうですが、どうかしましたか?」

アーサー「どうやら、シェイラ・シキにはその他にも人為的に認識プログラムの一部が破壊されているようです。こちらも直しておきますね。」

プログラムの異常箇所をいくつかメモするとあとはアリアちゃんと何やら専門的なことを話し指示を出した。「あとは任せて戻りましょうか」と促されて結局具体的にどんな処置を施すのかはわからずじまいだった。仕切りはすのこのような素材なので、二人のいる場所からは淡い光が漏れている。でも、一体誰がシェイラちゃんを改造?したのだろうか。内蔵プログラムを閲覧することはできてもいじることはできない。だから、イーサンマスターは状況を確認することはしても肝心の治療は運営サーバーに任せんたんだ。じゃあどうしてシェイラちゃんは…?バグや故障?いや、アーサーマスターは確かに“人為的”といった。…なのになんで心当たりを聞いたりとか犯人探しをしないのだろうか?できないことが成されたこの状況にもっと動揺したりしないのだろうか?そんなことを考えつつももしかしたらアーサーマスターとのこれからの話に何か関連することがあるかもしれないと思って、立ち話も何なので、席に案内して話すことにした。しかし、ここは元々実際にある職場を再現したマイディアル。かろうじて休息用に置いてあるソファは現在治療で使っているため、失礼ながらもアーサーマスターにはそこら辺のオフィスチェアに腰をかけてもらった。端正な顔立ちのアーサーマスターがオフィスチェアに座っているのが微妙に調和が取れず浮ついている。しかし、それでもアーサーマスターの真剣な表情を見ていると、自然と喉が鳴った。

アーサー「単刀直入に聞きます。都市伝説について調べているのはシキマスターですよね?」

シキ「え、あ…?都市伝説…?」

アーサー「はい、現在掲示板を中心に実しやかに囁かれているIDollのプロトタイプについての都市伝説です。最近それについて聞いて回っているtypeシエルとニーノ、フィオがいると聞きました。それらはシキシリーズのIDollで間違いありませんか?」


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