#5 あなた専用
シキ「博打にかけたり、お金をかけるよりかは安定で確定のデフォルトを選ぼうと言った感じかな?」
アリア「そんなところです!ではでは、恒例のご挨拶タイム〜!」
アリアちゃんがちょんとフィノちゃんを押すと、簡単にフィノちゃんの体が斜めに傾いた。斜めの体にノイズが走る。倒れそうになったフィノちゃんは状況が把握しきれず驚いた顔をして手をバタバタと動かし、倒れ込むのを防ごうとしていた。それでも重力には逆らえず、どんどん傾いていく体に咄嗟に足を出して体制を立て直して安堵の息を漏らした。
フィノ「!?」
息をついて顔を上げたフィノちゃんはその場にいる全員から視線が集まっていることに気がつくのに時間がかかった。視線が自分に集められていることに気がついて、顔を真っ赤にしたフィノちゃんはスカートの裾を引っ張り、指先を弄んでモジモジとする。
フィノ「あ…えっと…しょ、少女型IDollタイプフィノ、です…。その…お洋服とかお勉強するのが好きで…だから、沢山ライブして、沢山の衣装が作れたら嬉しい、です。マスターのために精一杯頑張ります、よ、よろしくお願いしなしゅっ!!!」
側から見てもカチコチに緊張して自己紹介してくれたフィノちゃんは最後の最後に盛大噛んでしまい、転びそうになった時よりもさらに顔を真っ赤にして、逃げるように元に戻ってしまった。
リアム「AIでも噛むんだな。なんか親近感。」
アリア「そういう風に設定されているので。」
リズ「わざわざミスをプログラムするなんて…。君たちにとっては不要なことだろう?」
アリア「はい。ですが、誰しもがやってしまう細やかなミスは共感を生み、親近感をもたらすというデータがありますので。」
そう明け透けもなくネタバラシをされてしまうとなんだか情緒がなくなって複雑な気分になってくる。リアムさんを見やると彼も同じ心境のようで複雑というより、眉を顰めて黙ってしまった。根本的に、なんでもメタバースへ移行している時代だ。生のものにこだわり、わざわざ対面で仕事を行っているココと、メタバース最新サービスであるアイディアル。根本的に、この二つは相性が悪いんだ。
アリア「…。」
アリアちゃんが何か言葉を発しようと口を開くが、何を言うでもなく口を結んだのが見えた。それからくるっと向きを変えて反対側にいるフィオくんを起動させる。
―ブブッ
聞き慣れてきたタイプの異なるノイズ音とともに薄緑の瞳に光が宿る。
フィオ「あー…青年型IDollフィオ。…。…ま、よろしく。」
リアム「え?それだけか?」
フィオ「…だって、ボクの説明はそこにいるアリアがやってるんでしょ?それで十分だから。」
それだけ告げてフィオくんは戻ってしまった。
アリア「あ〜あはは…タイプフィオ、フィノのシリーズはマスターにのみ心を開きやすい傾向があります。みなさんはまだマスター登録をされていないので、だから『対その他』の対応になっちゃったってことかな?でも、レビューによると、自分にだけデレてくれる存在って滾るってお声が多く寄せられています。それと他には…調教のし甲斐がある、とか…?」
どこからともなく現れた電子スクリーンをスワイプしてアリアちゃんがレビューと思われるものを読み上げてくれる。言われた言葉はまぁ、わかるようなわからないような、自分優遇の特別感が愛おしいといったところなのかな?アリアちゃんが電子画面から顔を上げる。
アリア「私のマスターも言っていました!彼女たちは他のタイプとは異なり、愛されるよりも愛すことに重点を置いたって。」
シキ「へぇー!」
ロボット、AI、人工物ならなんでもそうだけど、普通人が所有者に立ち、命令を受けそれを遂行するのが一般的だ。なので常にそれらは何処かしらで受動の位置をとる。でも今のアリアちゃんの話によると、フィノちゃんたちは『愛す』という精神的能動を取ることができるというのだ。これにはAIの技術の進歩を感じ、感心せざるを得ない。
アリア「最後に、ニーナ、ニーノのご紹介ですね。」
アリアちゃんは一番右端に移り、水色の瞳にメガネをかけ赤ちゃけた天然パーマのショートヘアを持ったDollの肩越しから顔を出した。
アリア「このタイプはクレア、クラウンタイプに並ぶ、IDollから音楽を始める方々におすすめの性能となっています!彼女たちは音楽に関する知識が初期から大量にインストールされており、その知識からみなさんの作曲活動をサポートします。他にも、デジタル関連に強く、プログラミングなどにも明るいため、音楽活動以外のみなさんの活動に対するサポート体制も優れています。えーっとあとは…パフォーマーとしては透き通るような歌声が特徴ですかね。ロングトーンが美しく響くのがとっても聞き心地がいいので、ゆったりとした曲調やバラードなどの方向性の方が自分に合うな〜と思われるのであればプッシュします!」
アリアちゃんがプッシュに掛けてニーナちゃんを押した(プッシュした)。
ニーナ「…。ご紹介に与りました。IDollサービス所属、少女型IDollタイプニーナです。私の保有する全てのスペックを駆使してあなたのライフを快適にサポート致します。以後お見知り置きを。」
そう言ってニーナちゃんは丁寧にお辞儀をして戻っていった。
ニーノ「続いて私ですね。同じくIDollサービス、ニーナの対の存在、青年型Dollのニーノです。性能諸々何一つニーナと遜色ありませんので、まぁ、男体か女体かお好みの方をお選びになればいいと思いますよ。」
さっぱりとした挨拶を終え、ニーノくんもまた丁寧にお辞儀をして戻っていった。
アリア「クールですよねぇ〜!ニーナたちはえっとぉ…クーデレ?ってタイプなんだそうです。あ、言い忘れてましたけど、」
アリアちゃんはそう言って顔を画面に近づけてまるで周囲を警戒するように声を潜めて続けた。
アリア「シェイラ派生の子たちについてなのですが、彼女たちは、実はああ見えて所有者たちの間で有名なツンデレですって…!本人たちは皆一様に認めなかったり隠したがったりするみたいですけど、それも良ければ判断材料にしてみてくださいね。」
アリアちゃんは元に戻ると8人のDollの前で、大袈裟に大きく腕を広げた。
アリア「さぁ!これで全ての導入が終了しました!!とりあえず一旦、お疲れ様でした。ではでは、ここからは〜?今の説明を以ってお好みのDollを、あなたのパートナーをお選びください!一体になんて選べないよ〜って場合は2体3体、って増やしちゃってもいいんですよ…?まぁ、その分お値段は嵩みますが…。」
シキ「ですって、リズさん。どうします?」
リアム「気に入ったやつでいいじゃねぇの?」
シキ「それか安定の機能性やデフォルトの使いやすさから、初心者向けのDollさんとか…?」
リズ「何をそんな躊躇っているんだい?どうせ彼女たちDoll一人一人にも詳しく取材をするんだろう?その時に他人の子を借りるなんて手間だ。どうせ会社の経費から落とせるんだし、全員引き取ればいいだろう?」
アリア「まぁ!」
シキ「え!?」
アリア「まぁまぁまぁまぁ!随分と太っ腹なんですね!!えっと…Doll8体となりますと大体このくらいになっちゃうんですが…」
アリアちゃんはまたどこかから電子スクリーンを生み出し、それを何回か叩いて画面をコチラに見せた。そこにはあまりの0の数に正直数えるのも嫌になるほどの金額が表示されていた。これだけのお金があれば、現実のオフィスをどれだけ改装できたか…。
リアム「高っ!?」




