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#57 速報

シキ「従属プログラムの解除、それがすなわち解放…。」

シェイラ「んまぁ、仮にそうだったとして、誰の命令も聞かなくていいってことになったら自由だわな。」

ただ、今明らかになっているのは先ほどの不可解なライブの後から異変が起こるようになったということ。

イーサンマスターはただ状況を噛み締めるように押し黙った。そして、そばで横たわりぴくりとも動かないニーナ・イーサンちゃんの頭を優しく撫でた。もちろん、ニーナ・イーサンちゃんからの反応はない。彼女は従わなくてもいいお願いを受け入れたのだ。それも死と同等の状況に陥るという。イーサンマスターの表情からは現状これまでを過ごしてきたシンパサイザーにしてあげられることは何もない悔しさと歯痒さが見てとれた。

イーサン「…これがあの場にいた他のIDollにも同じことが起きているのだとしたらIDollの暴走にも合点がいきますね。」

シキ「この場にいたIDollって…じゃあ、シェイラちゃんとクラウンくんも…?」

でも、二人に特に変わった様子はない。いつも通りに共に行動してくれているし、嫌われている様子だってない。

クラウン「不信って俺たちには元々排除されている感情だからな。いざどうだと聞かれてもどれがそれだかはわからないな。」

確かに、未知のものと遭遇してそれがそうだと言われたらそのような気がするし、実感というのはわかないのかもしれない。生まれたばかりの感情を会得するのには少し時間がかかるものだ。

イーサン「では、ライブの前後で何か心境の変化とかはありませんか?もしかしたら不信感というのの芽が植え付けられただけで育っていないのかもしれません。」

シェイラ「ん〜?まぁ、言われてみればちょっとモヤッとするような…?でも、それがマスターに対するものなのか一連の出来事に対するものなのかわかんない。」

イーサン「可能性はありそうですね…。同じようにプログラミングを確認する必要があるかもしれません…。」

同じように、ということはシャットダウンをしなくてはならない。そんな、いくら戻って来れるとはいえIDollが本能的に恐れている死と同じ概念のものを強要するなんて。チラリと二人の顔を見る。二人はこの後何をされるのかわかっているようで視線を合わせようとしなかった。だからその後に続く言葉が出て来なかった。

イーサン「シャットダウンされるのは嫌ですか?」

シェイラ「嫌っていうか、なんていうか…ウチらは別に暴走とか起こしてないわけだし…?」

クラウン「あぁ、それよりも暴動を起こしたIDollの解析の方が有益で先決なんじゃないのか?」

イーサン「ですが、暴動を起こさなかったIDollが全くの無傷なのか、その違いを探るためにも必要なことではないのでしょうか?」

「「…。」」

イーサンマスターの言い分はもっともだ。しかし二人は押し黙ったままだった。

突然、イーサンマスターがこちらに近づき耳打ちをした。

イーサン「命令オーダーをしてみてください。」

シキ「えっ、そんな、嫌がる二人に強要するようなこと…。」

イーサン「本当にシャットダウンは致しません。それでも証明ができると思います。」

イーサンマスターが何を考えているのかはわからなかったが、実際にシャットダウンをするわけではないのであれば…。

シキ「二人とも、お願い、シャットダウンさせて。」

誠意を込めて深々と頭を下げた。

「「…。」」

しかし二人は互いに顔を見合わせたまま答えをくれるわけではなかった。どうしようという困惑と葛藤が巡っていることは見ただけでわかった。

イーサン「そこまで。大丈夫ですよ。本当にシャットダウンを致したりはしません。ですが、これでわかりました。記者さんのIDollもマスターの命令を聞かない。つまり、プログラムは書き変わっているんです。」

シェイラ「別にウチら拒否はしてないし…!」

イーサン「拒否はしなくとも容認もされてませんよね?本来のIDollであれば二つ返事でマスターの命令には答えるはずです。」

シキ「え、でもマスターに対して約束を内緒で破ったり、怒ったりするIDollはこれまでにもいましたよ…?」

イーサン「それはそういう成長なのでしょう。グランドマスターの話ですよね?で、あればそう言った存在を潜在的に望んでいた可能性があります。IDollがそれに応えて“マスターのために“そう言った行動をとる事はある程度成長の進んだIDollに見られる行動です。それにそのマスターは命令オーダーを使った強要はしていないんだと思いますよ。であればそうはならないはずなのです。一方記者さんのIDollはまだ未成熟なデフォルトに近い状態です。その状態のIDollはまだマスターに適合するために試行錯誤中でベーシックに言わば全肯定な存在であるはずなのです。」

シキ「じゃあつまり、全肯定しなくなったから、プログラムが書き変わっていると…?」

イーサンマスターはこくりと頷いた。

イーサン「ただ、どうやったかは置いておいて、従属プログラムがなくなってしまうこと自体には問題ないかと思われます。シェイラさんも言っていた通り、実際記者さんのIDollたちは何も問題を起こしていませんしね。」

そうか、従属プログラムがなくなったとしても、それはIDollにNoと言う選択肢が増えただけであって暴走にはつながらない。だから、実際シェイラちゃんたちは一緒についてきてくれたし、ニーナ・イーサンちゃんもイーサンマスターを信頼してシャットダウン状態にあるんだ。

イーサン「ですが、不信感があるのはいけませんね。やはり、一度運営に修理に出したほうがいいでしょう。僕からこの件についてこれまでのことを伝えておきます。そうすれば、被害者として無償でバックアップを受けることができると思いますよ。」

シキ「ありがとうございます。」

すごい。冷静に状況を把握してすぐさま適切な処置を導き出している。さすが、これまでも新人マスターを導いてきたイーサンマスターなだけある。とても信頼できる。

イーサン「御帰ししてしまったマスターさんへの連絡はどうしましょう…早急に状況の伝達と修理に出すように促さなくてはなりません…。帰してしまったのは僕の判断ミスだ…。」

シキ「そんなことありませんよ!二次被害を防ぐためのあの場での最善策だったと思います…!」

イーサンマスターがここまで人を思って行動してくれているのだ。自分にも何か行動できないか、思考を巡らす。

シェイラ「あちゃー…ライブのことはもう結構出回っちゃってるね…。」

見ると、シェイラちゃんはアイディアル内のSNSを見ていた。そこには今日のライブがなくなってしまったことに悲しむ声や憤る声などがたくさん投稿されていた。

それだ!

シキ「イストの皆さんへの伝達はこちらでどうにかします。」

イーサン「え…ですがどうやって…。」

シキ「速報を流すんです。その場にいた一記者としてこれまでのことをありありと書きます。それで注意喚起を促すんです。それをSNSにあげれば関係者や関心を持ってくれた人の目に留まります。いち早く情報を伝達できるはずです。」

シェイラ「うわ、マスター賢〜!同じものをイーサンマスターのユアディアルにも見られるようにしたらまた足を運んでくれた熱心なイストの目にも止まるじゃんね!」

イーサン「なるほど…!さすがプロの方です、お願いしてもよろしいですか…?」

シキ「もちろんです!!」


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