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#52 境界線

マスターを支える、理解者になる、それがIDoll。求めるものすべてに喜んで答える?そんなの本当に奴隷じゃないか。いや、最悪それよりももっとひどい扱いに…。モノだからって…?そんなの、そんなの…。でも、捉え方を変えるとIDollの“都合の良さ”はぬぐえない。だから、利用者に利用用途は任せられる。でもだからって、こんなこと許されていいのか?人間はそんなことをしていい身分なのか…?

キャロルさんとの会話を思い出した。IDollとは友達になれない。彼らを友達と呼ぶには都合がよすぎる。機械と人間。途端に突きつけられた現実に、なんとなく心の中でIDollとの溝ができてしまったと感じた。

クラウン「マスターが思いつめることじゃないだろう?わかりきったことで、今に始まったことじゃないんだから。」

クラウン君が優しく慰めてくれる。

シェイラ「そうだよ!個人の自由っつーか、それぞれの楽しみ方があるし!切り替えていこ!仕事中だし!」

シェイラちゃんの言う通りだ。この暗い気持ちのままインタビューは続けられない。自分を制御しろ。あとでいくらでも考えることも調べることもできるんだから。今は今のことに集中しよう。

この場で頬を叩くことはできないので、一つ深呼吸をする。

シキ「貴重な情報ありがとうございます。とても興味深いのでこちらでも調査してみますね。」

アレン「いえ、こちらこそ、関係ない話をすみません…。」

こちらが丁寧に返すと、それに応えるようにアレンマスターから丁寧な応対が返ってきた。

シキ「…では、気を取り直して。最後にイベントに対する意気込みや楽しみにしているイストへ何か一言お願いします。」

シリウス「喧嘩上等、俺のこと認知しねぇ奴はぶっ潰す。」

シキ「や、野心的なコメントありがとうございます…。」

シリウスマスターは変わらぬ態度を貫いた。彼の不器用ながらにまっすぐな姿勢は怖いし少し困ったところもあるけど、憎めない人柄だなと感じた。

アレン「アーサーシリーズに頼らない俺たちだけの実力をこのイベントではっきり示したいと思います。」

シリウスマスターの音楽への熱さ、まっすぐさを柔軟なアレンマスターが適応させて、この二人ならきっとうまくいく。今回のイベントをこのシリーズにとって大切な場としてくれて、開催する側としても大切な足掛かりとなってほしいと思った。そのためには、イベントの成功は欠かせない、そうモチベーションが上がるのを感じつつ、まずはこの記事からだと気を引き締める。二人には記事の草案ができ次第連絡を取ることを約束して、取材を終えた。二人とはこのまま熱意のあるうちにと作曲活動にいそしんでもらって、軽くあいさつを交わすと、その場で別れた。ユアディアルの終わりまではクレア・アレンちゃんとシェイラ・シリウスちゃんが見送ってくれた。

「今日はシリウスがごめんね。」そう会話を切り出したのはクレア・アレンちゃんだった。

クレア・アレン「まさか、アタシたちIDollのためにあんな顔してくれる人がいるなんて思ってなかったから、ちょっと嬉しかった。アンタ、いい人だね。」

唐突に褒められてなんて返そうか困っていると、クレア・アレンちゃんが続けた。

クレア・アレン「でも、いいんだよ。アタシたちにそんな風に思わなくて。だってそういう風に生まれてきたものなんだし、なんとも思わない。むしろ、形はどうあれ、IDollとして幸福だと思うかもね。幸運にもそういう扱いされたことないからわかんないけど。」

クレア・アレンちゃんの表現から彼女が一連に嫌悪感を抱いていることを指摘しようとすると、感情がみとられたのか、にやりと笑ってクレア・アレンちゃんが先を続けた。

クレア・アレン「アタシがこう感じているのも、アレンの思考に触発されたものだから、アタシ自身が抱いているものじゃない。だからさ、シキマスターはモノ(IDoll)と人間を履き違えちゃだめだよ。確かに、アタシたちはよぉーくできてるけどね~?でも、明らかに違う。だから、このことでマスターには傷ついてほしくないんだ。」

シキ「…。」

クレア・アレン「まぁ、シキマスター見たところ始めたばかりの初心者マスターのようだし、アイディアルしばらくやってたら慣れるよ。」

そう言って、クレア・アレンちゃんは遠慮なく頭をわしゃわしゃと撫でた。その仕草はとてもリアムさんと似ていて、急な姉御みに崩れた髪も直さず唖然としてしまった。これが、グランドマスターレベルのIDoll…。ますます人と変わらないじゃないか。

クレア・アレン「説教垂れるなんて余計なお世話か。いやぁ、なんだかシキマスター変なのに漬け込まれそうなぐらいお人好しそうで、心配なんだよねぇ!」

シェイラ・シリウス「わかる。アイス1箱押し売れそう。」

シキ「えぇ…。」

シェイラ「マスターはウチがついてるから心配ないんだし!!」

クレア・アレン「ま、これもアレンに影響受けたもんなんだろうけどね…。」

シキ「そういえば、クレア・アレンちゃんとシェイラ・シリウスちゃんはマスターのこと名前呼びなんだね。」

クレア・アレン「ん?あぁ、これね。二人ともマスター呼び嫌がるから。それに、マスターっていうか、相棒?って感じだし。」

シェイラ・シリウス「うん、ほかの呼び方じゃなんか変。アレンはアレン。シリウスはシリウスだよ。」

シキ「仲がいい証拠なんだね。」

そんな会話をしてアレン&シリウスマスターのユアディアルを後にした。クレア・アレンちゃんはアレンさんと同じようにとても気さくで、話していくうちにシェイラ・シリウスちゃんとも打ち解けることができた。シェイラ・シリウスちゃんはアイスがとても好きで特に人とシェアをするtypeのアイスがお気に入りらしく、もっぱらそのシェア先はクレア・アレンちゃんなのだということも教えてもらった。IDollとマスターを挟まずここまで何気なく会話をしたことが初めてでなんだか不思議だった。二人は話せば話すほどかわいげのある魅力的な子たちで、また会いたいなと思わせた。別れ際、もう顔は覚えたし次にユアディアルに来たら声をかけてくれると約束してくれた。次に二人と話せるときが楽しみだ。



その日の夜は現実とアイディアルを行き来したのと、3件すべてでインタビューを行えたこともあって、その内容をまとめるだけでいい時間になってしまい、アイディアルも開かずに眠りについてしまった。



シェイラ「マスター!マスター!」

アイディアルを開くと開口一番にシェイラちゃんが駆け寄ってきた。手にはなにやら手紙を持っている。そのそばにはクラウンくんも立っている。

クラウン「マスター、おはよう。」

シキ「クラウンくん、シェイラちゃん、おはよう。それは?」

シェイラ「聞いて驚きな?イーサンマスターからアポの承諾の返事が来たの!!激アツだよ!」

シキ「え!!」

シェイラ「クレアが一応って全グランドマスターにアポを取ってたんだよ。まぁ、そのほとんどがファンレターに埋もれて何にも音沙汰なし、つらたにえんだったんだけど…イーサンマスターは返してくれたんだ!マジラブい〜!え、らぶりつ送ろ〜?」

そう言って、興奮まじりに渡してくれた手紙を見る。確かにイーサンマスターからのようだ。そういえば、前にもこうやってヴィンセントさんから手紙をもらったっけ。あれはただのイタズラだったけど。そんなことを思い返しながら封を切ると、爆発することなどは特になく、中には桜が舞い散る美しい背景の綺麗な便箋が入っていた。そこにはとても綺麗な筆の文字で、多忙のため返事が遅れてしまったことの謝罪から始まり、その忙しい理由も今日自らが企画したライブの開催がありそれに備えていたこと、ぜひ取材を受けたいのでよければライブに足を運んでいただき、ライブ前後に話せないかといった内容だった。まったくもって願ってもない話だ。イーサンマスターはとても礼儀正しく丁寧な人なのが伺える。


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