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#51 グレー=コンドミニアム

アレン「ありがとうな。でも、実際そのきっかけを掴むのが運よく早かったのは事実だ。それは本当にただの運で、言えることは『日ごろの行いは良くして運気上げとけ』かなぁ。ま、俺たちが言えたことじゃねぇけどな!」

シリウス「…あとは、自分の才能や作ったものが誰にも負けねぇと信じてただ、やれ。続けろ。やめんな。テメェが疑ったら誰がテメェのもんの良さ証明すんだよ。自分が好きじゃないもん人に押し付けんな。」

シキ「続けることもある種の才能ですよね。努力や成功は結果論に過ぎませんが、続けている分それだけきっかけやチャンスが訪れる確率は増えますから。素晴らしいアドバイスありがとうございます。」

アレン「なんにでも挑戦してみることがいいさ。フットワークが軽くて悪いことはねぇし、それこそ路地で踊ってみるとかな。…いろいろやってみてわかったけど、取り返しのつかない失敗なんてそうそうねぇんだし、尻込みしててもいいことが起きた試しがねぇ。だから、まぁ何事にも挑戦して頑張ることさな、辞めずに。」

シキ「なるほど…。チャンスをものにしても尚、ひたむきに努力を続ける前向きな、アレン&シリウスマスターに伺います。ズバリ、今のアイディアルを、引いては“鎖界”と揶揄される完全ネット社会の現在についてどう思いますか?」

アレン「なりたい自分になりやすく、偽りやすく?なったなぁとは感じるよ。まぁ、その分何が本当なのかもわかんなくなっちまったけどな。知りたいものだけ、やりたいことだけできるようになったから、自由になったのかぁ…?」

シリウス「本性、欲望丸出しでキメェんだよ。」

アレン「シリウスはこの通りアイディアルやってるくせにアイディアルやってるやつが嫌いなんだ。だから、アイディアル内で必要なことは大体俺がやってたわけなんだが…。」

シキ「シリウスマスターが仰ることなんとなくわかります。反対にアレンマスターはなんというかお優しいというか、寛容なんですね。」

アレン「俺は別に万人に優しいわけじゃないし、優しくしようとも思ってない。ただ、手ぇ広げて収まる範囲のもんだけ大切にしたいんだ。」

シキ「なるほど、とてもいいお考えですね。」

シリウス「アンタ、グレー=コンドミニアムって知ってっか?」

シキ「グレー…?」

クレア・アレン「げっ、そこの話するの?」

クレア・アレンちゃんが“グレー=コンドミニアム”という単語を聞くだけで嫌悪感を示す。何か、アイディアル内の用語だろうか?シェイラちゃんに確認すると彼女も正確に意味を計り知っているわけではないようだった。一部で流通する造語、ということだろうか?

シェイラ「えっと“コンドミニアム”っつーのは、各サーバーにあるアイディアルを音楽目的で利用しないから、ユアディアルのサイズが最小限のユーザーをまとめた区画のこと。マスターたちのリアルのマンションに似た形だからそう呼ばれてんの。今のマスターのユアディアルもそこに収容されてるよ。イストが増えてユアディアルの規模が大きくなると晴れて独立するんだ。」

クレア・アレン「実際多くのユーザーがこの区分だよ。」

シキ「それのグレーっていうのは…?」

シリウス「IDollだけを所有したい人間のイストですらねぇ奴らの掃き溜めだ。」

クレア・アレン「サーバーに接続せずユアディアルに籠り続けると段々とサーバーとの接続も離れて孤立するの。その行き着く先がダークウェブすれすれの“グレー=コンドミニアム“って通称言われている。」

だから"グレー"なのか。

シキ「IDollを買う事だけが目的の人って?」

世界とも誰とも干渉せず、ただIDollだけが欲しい人なんているのだろうか。

シリウス「奴隷が欲しい奴だよ。」

シキ「奴隷!?」

そんな時代錯誤な単語が出てくるとは思わず、驚いて声が上ずる。

シリウス「自分の欲求や労働を押し付けられる都合のいい人間が欲しいんだから要するに奴隷だろ。グレー=コンドミニアムにはそういうのがうじゃうじゃいて最高にキモイぜ。全部まとめてぶっ潰したくなる。まさしく、ありゃあ、アイディアルの闇だ。」

たしかに、IDoll購入当時、説明としてIDollはもともと介護やコミュニケーションを目的としたAIプログラムをベースに作られた音楽サービスで別にユーザーに音楽活動を強要するものではない、むしろ生活をサポートするのもIDollの役目でそういった用途で使ってもいいと説明を受けていた。だから、実際アイディアルの取材を手伝ってもらっているのだが、確かに今その作業を丸ごとIDollに頼むことだってきっと可能だろう。ほかにもアイディアルを携帯端末に接続するとき接続可能機器一覧に電化製品一式が表記されていた。もともとご飯などはフードプロバイドからAIが自動で必要な栄養素の食事を提供してくれるが、それだって接続可能となっていて、そうした際生活はすべてIDollに任せることすらできてしまうのだ。

アレン「なんだよそれ…!聞いてないぞ!なんでそんなところに行ってんだよ!ダークウェブすれすれって危ねぇじゃねぇか!!」

アレンマスターが声を荒げる。それに反発するようにシリウスマスターが鼻で笑った。

シリウス「あ?んなの俺の勝手だろ。それともあれか、いちいち行くとこ行くとこお前に報告義務があんのかよ!あぁ??」

シリウスマスターの喧嘩腰に普段は軽く諫めるアレンマスターが相当怒っているのか、同じ勢いで怒鳴った。

アレン「無鉄砲に危ないことしてんじゃねぇって言ってんだよ!!頭沸いてんのか!?」

燃え上がった炎が何倍にも膨れ上がるように、怒りが焚きつけられ、その怒号は徐々に大きくなっていく。

シリウス「テメェこそ、保護者面下げてんじゃねぇよ!」

一歩間違えれば、つかみ合いの大喧嘩、そんな一触即発状態をクレア・アレンちゃんが慌てて仲裁に入る。

クレア・アレン「待ってアレン落ち着いて!シリウスも!…シリウスに口止めされてたから言ってないけど、インスピレーションを得るためにシリウスがアイディアル内の廃れた所に行きたいって言ったんだよ。それで、アタシが紹介したの。もちろん、シェイラとアタシがついてたから安全だよ。」

アレン「…。大声出して驚かせて悪かったな、記者サン。」

アレンさんが冷静さを取り戻し、こちらに謝ってくれたが、まだ何か言いたそうにその顔は苦い顔をしていた。

シキ「いえ…。」

クレア・アレン「こう言っちゃなんだけど、記者サンは行かないことをお勧めするよ。あそこは正真正銘ダークウェブの入り口。そこにまともなセキュリティーのないIDoll連れて行ったらどうなるか、わかんない。実際アタシらだって、少し回ってすぐ撤退したし。」

イスト100万を超えるグランドマスターのIDollのセキュリティシステムを持ってしてもそこまで警戒するレベルであるのなら近づくことすら難しいのは当然だろう。

シキ「わかりました。それにしても、そんな凄惨な現実があったとは…。」

シリウス「キモさで言うなら専用のアンドロイドの器を買えば、リアルにもIDollが干渉できるようになる。それをセクサロイド扱いしようとしてる、なんて話も聞いたな。」

シェイラ・シリウス「うげぇ…。」

シリウス「ご主人様が命じることだからIDollはなんでも受け入れるって、望むなら調教して特殊なプレイまで…。」

アレン「そこまでにしろシリウス。」

シキ「…。」


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