#48 ガッツ
シェイラ「マスター!」
シェイラちゃんが袖を引っ張り指さす先ではクレア・アレンちゃんとシェイラ・アレンちゃんがステージまで降りてこようとしていた。
クラウン君はちょうど曲の間奏で流れた汗を拭っている。パフォーマンスの区切りをつけた彼にひときわ大きな歓声が起こる。一方で一部ではクレア・アレンたちが降りてきたことにより道を開け静まり返ったところもあった。クラウン君もその異変に気が付きそちらの方を見やる。クレア・アレンちゃんは一切を気にせずステージに上がってきた。
クラウン「…アンタがクレア・アレンか。」
クレア・アレン「そうだよ。キミ面白いね。ダンスメインで育成してもらってんの?」
クラウン「…。」
クレア・アレン「ま、いいや。一曲やろうよ。アンタのガッツ見せてくれたら宣伝でもなんでも話聞いてあげる。」
そう言うや否や、クレア・アレンちゃんはタイトスカートの編み込みを指で引っ掛けた。すると編み込みが解け、その隙間からプリーツが現れる。タイトスカートは瞬く間に可動域の広がったプリーツスカートへと早変わりした。
突然の王者の登場に会場は狂ったように盛り上がる。
クラウン「…。」
クラウン君は何も言わず、前を向いた。彼がこちらを見ているような気がする。彼から見たら自分は今どんな表情をしているのだろうか、不安で情けない顔を向けていないだろうか。心のざわざわは止まらない。そんなこちらの気も知らずに、プライドと度胸とテクニックの戦いが幕を開けてしまった。
先攻はクレア・アレンちゃんから、準備運動がてら軽くバク転を披露し視線を一気に集めるとそのまま滑りだすように踊り始めた。技の難易度の差とかは分からないけれどクラウン君の時と同じように全く重力を感じさせない軽い身のこなし…でも、踏んでいる場数の差が歴然とするようなパフォーマンスだ。きっとお互いレベル的にはそう遠くない。だけど、クレア・アレンちゃんは会場を盛り上げるのがとても上手だ。パフォーマンスの合間合間に観客を煽る余裕まである。音に乗って楽しんでるのがよく伝わって、会場はどんどんクレア・アレン色に染め上げられていっているのが分かった。
シェイラ「これが、アリアと共演しても食われなかったIDollのレベル…。」
その一言にハッとした。アリアちゃんはこのアイディアルで間違いなく一番の存在だ。そんな子と共演なんて最初からアリアちゃん‘だけ‘に向けられる期待に呑まれず噛みついて覆す必要がある。今のように見ている人をアレンシリーズ色に塗り替えないと、でないと、共演はただのお飾り、引き立て役となってしまってアリアちゃんにすべてを持っていかれてしまう。特に相性がいいということで叶った共演だ。属性としてはそう遠くないためその方向性での突出の仕方は期待できない。つまり、単純に技術でアリアちゃんに食らいつかないといけないのだ。それを乗り越えルーキーがグランドマスターにまで駆け上がったのだからそのガッツとレベルの高さは計り知れない。
クラウン「…。」
シキ「!?」
クラウン君が踊りだす。まだ、クレア・アレンちゃんのターンは終わっていない。
シェイラ「ちょっ!?クラウン…!?」
ステージを半分に分けて2人が一斉に踊りだしたのだ。
シェイラ・アレン「はぁ…?あれあり?」
クレア・アレン「…!…へぇ、本当に面白いね。」
ダンスバトルってこちらの知識が正しければ先攻後攻に別れて交互に行うものだと認識していたんだけど…。観客も同じように戸惑っているのかさっきまであんなに沸いていたフロアに一瞬の静けさが降りた。しかし、当の二人はそれを気にせず踊り続ける。パフォーマンスが止まらないのであれば、観客が止める必要はない。一瞬でも静かになったことが嘘のように、会場は二倍、いや三倍もの熱狂に包まれた。わぁーーーーーー!!!!!!!
割れんばかりの歓声と熱気。アウェイのなか踊り切ったクラウン君にクレア・アレンちゃんが手を差し伸べた。その手を握り返さずクラウン君は滴り落ちる汗を拭った。
クレア・アレン「先攻後攻に分けるとムードを持っていかれるから、無理やりでも乱入して同じ熱狂を共有する。…なんか、勝負に勝って試合に負けた気分。」
クラウン「勝ち負けじゃなく、ガッツを要求したのはアンタだろ。」
クレア・アレン「…はっ、生意気。でも気に入ったよ。キミ何者?マスターは?」
クラウン君は黙ってこちらを指さす。クレア・アレンちゃんの視線も全観客の視線も一斉に集まってきて息が詰まった。
*
結局ステージはクレア・アレンちゃんVSクラウン君の最高潮で幕を閉じた。というのも、約束通り取材のことを話してアレンマスターを紹介してもらえることになったからだ。クラウン君を気に入ってくれたクレア・アレンちゃんは二つ返事でアレンマスターを紹介することを了承してくれた。ただ、取材は直接アレンマスターと交渉してくれとのことだった。多分大丈夫だろうけどとはフォローされたけど、少し緊張する。道中で交渉材料を練っておかないと…。まぁ、あんまりないから今回も同様にほとんど出たとこ勝負になると思うけど…。
シェイラ・アレン「クレア。」
ちょうどそこにシェイラ・アレンちゃんが降りてきた。
クレア・アレン「おっ、シェイラ。」
シェイラ・アレン「やっぱり二つもいらない。アイスは分け合うのがおいしいから1人で全部食べると飽きる。」
そう言ってシェイラ・アレンちゃんは中が完全に溶け切ったチューブ型のアイスをクレア・アレンちゃんに突き出した。
クレア・アレン「だからって何も溶け切ったものを返さなくてもいいでしょ。」
シェイラ・アレン「だってクレアのだし。」
クレア・アレン「はいはい。」
クレア・アレンちゃんは液状になったアイスを受け取るとごくりと一気にのどに流し込んだ。
クレア・アレン「はぁー!ぬるい!!…んで、紹介すんね。こっちがアタシの相棒のシェイラ。この人たちがアタシのお気に。」
クレア・アレンちゃんがざっくりお互いを紹介してくれる。ぺこりと会釈をしたがシェイラ・アレンちゃんは一瞥するだけで特に気にしたりとか話しかけたりとかはしなかった。な、なにか粗相を働いてしまったのだろうか…?すでに嫌われている…!?
クレア・アレン「ごめんねー。シェイラはアタシやアレンたち以外には人見知りすんのよ。ま、気にしないで~。」
クレア・アレンちゃんが強引にシェイラ・アレンちゃんに肩を回し引き寄せる。シェイラ・アレンちゃんはそれをげんなりとされるがまま受け入れるが、クレア・アレンちゃんが指でほっぺをつんつんし始めた次第にはいい加減うっとうしそうにしていた。ついに、突き放すように腕を振りほどく。
クレア・アレン「シェイラ、アタシはこの人たちアレンに紹介しに行くけど、来るでしょ?」
シェイラ・アレン「…。」
シェイラ・アレンちゃんは相変わらずの無表情だけど、否定も肯定もせずただついてきた。
クレア・アレン「…にしても、ひっさびさに面白いステージだったなぁ!デフォルトのビジュアルであそこまで踊れるIDollは初めてみたよ!デフォルトのままなのはわざと?マスターがダンス好きなの?」
シキ「いや!全くの素人です!!何にも知識の無い…だから本当にクラウン君にはこっちも驚かされたというか…とても助けられたというか…。」
クレア・アレン「…ふぅん。ま、IDollが土壇場でマスターの期待に応えたくてマスターの予想より大きく成長することもたまーにだけど、あるからね。そういう事なんじゃないの?なんにしてもいいステージだったよ。」




