#43 一方的な理解者
シキ「あの、失礼な質問なのは承知なんですけど、一つ聞きたいことあります。」
キャロル「いいよ言ってごらん。」
今浮かんでいる質問は本当に失礼だ。相手次第では激昂させてしまう。でも、友達になろうと歩み寄ってくれたキャロルさんを信じてみたいと思う。
シキ「シェイラ・キャロルさんはお友達じゃないんですか?キャロルさんはIDollを友達としないんですか?」
キャロル「良い質問だね。うん、僕はしないよ。確かに、シェイラは僕にとってかけがえのない存在だ。この世界の身の振り方を教えてくれるし、音楽の素晴らしさについて教えてくれる。彼女とマスターとして成長する日々は楽しいよ。でも、関係をあえて言葉にするなら師のような、姉のような存在だ。まぁ、僕がそう望んだ結果なんだと思うけど。僕はアイディアルやIDollについては全く知らない。でも、どうやらその関係はマスターの望むままになるんだろう?友達を望めば友達に、同志を望めば同志に、恋人を求めれば恋人に…それはなんだか本物とは言えないんじゃないのかな。」
テオマスターとIDollの関係は主従、セシルマスターとIDollの関係はプロデューサーと表現者、ノアマスターとIDollの関係は友達や恋人、ロイドマスターとIDollの関係は同じものを好む同志。きっとこれから出会うマスターとIDollの関係もそれぞれ千差万別で、マスターの一番望む心地の良い関係を築いているのだろう。
キャロル「…先ほど僕はあえてシェイラとの関係を言葉にしたけど、IDollとの関係は既存にある対人関係のどの言葉にも当てはめるべきではないんじゃないかと思う。」
シキ「それは、『本物じゃない』からですか?」
キャロル「そうだね。だから僕はIDollは“一方的な僕の理解者”だと思っている。」
IDollのキャッチコピーに掲げられた「理解者」という言葉。それは個人の孤独化が進んだ昨今ではかけがえのない存在になってくれることからこのアイディアルドールは爆発的人気を博した。その「理解者」という言葉の輪郭が、少し見えた気がした。
キャロル「元来の友好関係というのはそれぞれ事情を抱えながらもお互いが寄り添うもので、当然個人と個人の関係なのだからぶつかり合うこともまた必然。僕は友達とは言い合ったりぶつかってなんぼだと思ってるんだ。だからそれは身勝手に生きる人間同士じゃないと成立しないって最近気付かされた。セシルにことごとくお誘いを断られた時にね。」
セシルマスターはキャロルマスターのことを知り合いと表現していた。この想いの行き違いもまた人だからできることなのか。IDollはマスターの望みを感じて応えてくれる。全肯定すぎるんだ、IDollは。昔は、学校とか強制的に人と関わる場所に居させられた時は、自分の意見や好みと全く一緒で、自分の都合がいい時に同じように付き合ってくれる人が欲しかった。そう、言うなれば自分がもう一人、もしくは自分の理想そのままの人間が都合よく欲しいと願っていたのだ。でも、実際にそれが現実になったアイディアルはぶつかることもなく、全てを受け入れてくれて優しくて、そして、ほんの少し退屈だった。それに気づかされるとキャロルさんの意見も尤もなものだと思えた。
キャロル「ここまでを聞いて君たちはどう思う?」
キャロルさんはそう言ってシェイラちゃんとクラウンくんを見た。二人は急に話を振られてなんて答えようか顔を見合わせた。
シェイラ「どうもこうも、マスターがそう感じるならそういうことなんじゃね?」
クラウン「あぁ。要は、IDollはマスターにとって都合のいい存在だってことだろう。本当にその通りだと思うよ。」
キャロル「へぇ…。いや、すまないね。急に試すようなことを聞いてしまって。なにしろ僕のシェイラにはもう聞き飽きたようなことだったから他のIDollに聞いてみたかったんだよ。それにしても、同じシェイラでも全然違うじゃないか、驚いたよ。」
そう言ってキャロルマスターはまじまじとシェイラ・キャロルさんとシェイラちゃんを見比べた。
シェイラ・キャロル「私に言われても…私をこうしたのはマスター、貴方なのよ。」
これは取材のチャンス!キャロルマスターについての記事が書けそうな話だ。
シキ「キャロルマスターはどうしてIDolltypeシェイラを選ばれたんですか?」
キャロル「取材開始かい?いいよ。じゃあ、ただ立って話すのもあれだから、少し歩こうか。ここを案内してあげるよ。」
キャロルさんを先頭に歩き出した。話の流れからスッと取材に入ろうかと考えてたんだけどまさかバレているとは、そんなにわかりやすかったかな…?
キャロルさんはまっすぐ、自分が抜けてきた茂みに向かう。ここは先ほど通ってきた道の他には中心に池を置いて、ぐるっと茂みや木々に覆われていて戻るしか道がなさそうだが、もしかしてキャロルさんの登場の時と同様、茂みを潜りながら歩いていくんじゃ…?そんな心配をよそにキャロルさんは茂みの目の前まで進むと手を翳した。すると、茂みたちは道を譲るように両脇へと避けてそこには新しい道ができた。すぐにこれがシェイラ・キャロルさんが言っていたことか、と思わず感心してしまう。キャロルさんはこちらを振り返るとにっこりと微笑んで先へ進んでいった。それを視界のはしのシェイラ・キャロルさんはどこか呆れたようにふっと息を吐いて笑っているのが見えた。
キャロル「えーっとなんだっけ…?」
シェイラ・キャロル「マスターがどうして私を選んだのかよ。」
キャロル「あぁ、そうだった。…」
キャロルさんはそう言いながら考えるように少し立ち止まった。彼の視線の先には1羽の鳥がいる。なんの鳥かはわからない。綺麗な青い羽毛にお腹はオレンジ色でクチバシが鋭く尖っているのが印象的だった。なんだか、その鳥とキャロルマスターが見つめあっているような気がした。そしてふと、キャロルマスターは顔元まで手を上げてふわりと手首を一回転させたのだ。そのあとは何事もなかったかのように歩み出し、「どうしてだったかなぁ…?」と小首を傾げている。
シェイラ・キャロル「もう…。」
シェイラ・キャロルさんは完全に呆れて、申し訳なさそうにこちらに答えてくれた。
シェイラ・キャロル「マスターってば、最初のアリアさんの説明を聞き逃してしまったんです。それで訳もわからずなんとなく私を選んでしまったんですよ。あの説明を聞いていたら、私を選ぶことなんてなかったでしょうに。本当に困ったお方だわ。」
シェイラ「確かし〜。キャロルマスターのノリって絶対にtypeシェイラ(ウチ)じゃないよね〜。逆にウチ以外なら誰でもオニアイだけど。」
シェイラ・キャロル「本当に。最初はどれだけ戸惑ったか。マスターは一向に気にされませんでしたけど。」
シェイラちゃん同士が話している…。同じ顔でタイプがほぼ真逆の二人の様子、物珍しくも奇妙だな。
シキ「でも、シェイラ・キャロルさんとキャロルさんはお互い根気強く向き合い続けたんですね。」
シェイラ・キャロル「それがIDollですし、マスターはずっと変わらずこの調子ですからね。」
シキ「あはは、それは…。」
当人がいる手前、「大変でしたね」という言葉は飲み込んだ。当人は自分の話なのかわかっているかも怪しいほど穏やかだったけど。
シェイラ「でも、結果として“奇跡のIDoll”にまで進化したんだからいいじゃんね。全typeシェイラ(ウチ)いんや、IDollの憧れじゃん?パないよ!」




