#38 2人だけの世界
瓜二つの少年–ロイド「はい。僕とラルドは双子なんです。ロイドシリーズは二人で一緒にやってて…。」
ラルド「百歩譲って取材は本当だったとして、誰が本命でここに来たんだよ。」
シキ「!」
鋭いな。さっき面倒臭いうんぬんの小声から彼はずっとロイドマスターの名前を出さないように立ち回っていたし、本当に賢い子なのかもしれない。
ロイド「どういうことだ、ラルド。この人たちは僕たちを取材しに来たんじゃないのか?」
ラルド「結果としてそうなっただけなんだろ。グランドマスターの俺たちがたまたま屋上にいたことによって。」
リアム「あぁ。海老で鯛が釣れたっつーか、怪我の功名っつーか。」
ラルド「それで、その海老って誰なんだよ。若者の街頭調査に来たのなら、普通屋上には来ねぇだろ?」
シキ「ノアマスターだよ。」
ロイド「ノアマスターってあの上位の!?」
シキ「上位…?」
シェイラ《せっつめいしようー!グランドマスターと一口に言っても上位と下位に別れていてその差はダブルミリオン(イスト200万)と言う高い壁があるのだー!!以上、できないと思っていた講座が開けてご満悦のシェイラちゃんでした〜!》
シキ「なるほど〜。」
ラルド「そんなことも知らないのかよ。」
リアム「まぁ、俺たちこの仕事が回ってくるまでからっきしだったしな!」
ラルド「そんな奴らで大丈夫なのかよ…。」
ロイド「ってことはノアマスターは同じ学校だったのか…!?」
ラルド「同じクラスだったのに、気づいてねぇのかよ…。ほら、いつも向こうの貯水タンクの裏にいる。」
ロイド「あぁ!僕がラルドに置いてかれた時、遅刻ギリギリで乗るバスでいつも一緒の!!」
ラルド「それは知らねぇよ。」
ロイド「彼いつも遅刻ギリギリか遅刻なんだ。ずっと端末ばかり見てて…。ってなんでラルドは知ってるんだ?同じクラスでもないのに。」
ラルド「その端末がたまたま見えた時があったんだよ。まぁ今まで、もしかしたら程度にしか思ってなかったが…。」
シキ「今度はこちらが確信づかせちゃったか。」
リアム「それで、今日ノアマスターは?」
ロイド「来てないな。」
ラルド「アポもつけてねぇでなんでわざわざ会いに来たんだよ。」
シキ「それが彼と連絡つかなくなっちゃって…。彼のお家とか知らない…?」
ラルド「そんなの知るワケ…。」
ロイド「多分わかるぞ。」
シキ「本当!?」
ロイド「あぁ、僕は彼より前からバスに乗るんだ。その時に車窓から彼が家から出てくるところを見たことがある。目の前がバス停で家が美容院だったから覚えているよ。」
リアム「おっ!有益な情報だな。」
シキ「ありがとう!助かったよ!」
シェイラ《やったねマスター!これでまた一歩前進できる!》
??《…あっ、やべ、ちょ…イタタタタタタ!!ギブギブ!!》
唐突にあげられた悲鳴により、歓喜で賑やかだった場は静かになる。どうやら悲鳴の発信地は、ロイドくんが持っていた端末からだった。そこには先ほど見えたゴシックな衣装を纏ったクレアちゃんがシエルくんに羽交締めされていた。
シキ「えっと…。どういう状況…?」
シエル・ロイド《また、クラウンが主の許可なく盟約を破ろうとしたから。》
クラウン・ロイド《だって俺だけこんな…ぜってぇおかしいって…!》
シキ「えっ!?クラウンくんなの!?」
確かに言われてみれば、クラウンくんとクレアちゃんは他の対のIDollと比べても、背丈も髪の長さも同じでまるで双子のように見えた。それにしても全く区別できなかった。
リアム「男のクラウンが女の服着てんのかよ。」
シエル・ロイド《そういう盟約だからな!俺の右腕に宿る目醒ましき力、邪竜の封印と同じだぜ。》
そう言ってシエルくんは乱雑に巻かれ解けそうな包帯でぐるぐる巻きの右腕を見せてきた。
シキ「そんなことできるの?」
自分の端末のクラウンくんに呼びかける。
クラウン《…。》
クラウンくんは拒絶を意味しているのか、ニコリと笑うだけで特に何も返さなかった。
シェイラ「まぁ、マスターの意向ならそういうオプションを付けるのもありけりなんじゃね?にしても、相変わらず濃いな〜。これじゃわかりやすすぎて、シェイラちゃんがマスターにアイディアル講座開けないしぃー。」
シキ「確かに。これなら流石にわかるかも。厨二病でしょ?」
ラルド&シエル・ロイド「《厨二じゃねぇーし!!》」
クラウン・ロイド《否定のしようがないと思うけどな…?》
リアム「いんや。ロイドシリーズはそれだけじゃねぇぜ?もっといい感じに言うなら…『ザ・男子高校生』だな!曲聞いてるとスゲェー青春を思い出すんだよ。」
シェイラ《要するにガキってコト。》
ラルド「あぁ!?なんだこの生意気なIDollは!!?」
シエル・ロイド《俺たちの尊厳を侮辱するなんて…!さてはお前敵だな!?我が主よ、この性根の爛れた悪しき存在を封じるため、今こそ封印解除の赦しを!!》
ラルド「…いや、お前の力は来るべき時、数多を救う希望となるんだ。こんなところでこの程度に消耗させるわけには…。」
シェイラ《付き合ってらんな〜い。…けど、わかりやすく舐められててムカつくんだが??やっぱ一発殴らせろ!》
クラウン・ロイド《おい、いい加減茶番終われ。》
場を見ると、ロイドくんは調子付いているラルドくんを見て、嬉しそうにニコニコしていた。
シキ「ロイドくんはあのノリに混ざらないの?」
ロイド「あぁ。僕は正直言ってラルドが何を言っているのかよくわからないんだ。でも、今日は兄弟がいつも以上に楽しそうで何よりだ。」
シキ「“ロイドシリーズ”なのにロイドくんが主体じゃないんだ?」
ロイド「どちらかといえば半ば名前を貸している感じだな。ラルドが名前を公開したくないって、それで僕の名義を貸しているんだ。」
シキ「そうなんだ。どうして二人はアイディアルを始めようと思ったの?」
ロイド「それは…僕はラルドに好きなこと楽しいと思えることを堂々と満喫して欲しかったからなんだ。顔が似ているせいかラルドが楽しそうだと僕まで楽しくなってな。でもラルドはあまりそれらを表に出そうとしなかった。なんでだか詳しい理由は僕にはわからなかったが…。…昔はラルドが考えた設定でたくさん冒険ごっこをした。ゲームの世界みたいに勇者や冒険家になって、今と何一つ変わらない現実だったはずなのにあの時はなぜか世界がもっとずっと面白くキラキラしているように確かに感じたんだ。それはきっとラルドの紡ぐ世界観が、設定が、話がとても面白かったから、お互いが本気で楽しんでいたからだったと僕は思うんだ。…。」
シキ「…?どうしたの?」
会話の端切れが悪くなり、ロイドくんは何か思い詰めていた。
ロイド「…いや、こうして話しているとラルドのためだなんだと言って本当は僕がそうしたかっただけなのかもしれないと思って。僕はまたあの時みたいに二人で、二人だけの世界で、その世界を楽しみたかったんだ。」
それから彼の中で何かが腑に落ちたのか、すっきりした顔を上げた。
ロイド「…ラルドが何かをこっそり書いていることは知っていたんだ。その時のラルドは心なしかあの時みたいに楽しそうで…それが気になってある時そのノートを見たんだ。そこには詩なのか、歌詞なのか…あと何かの設定なのか、たくさんのことが書かれていて…だから僕、アイディアルを使って、IDollにラルドのことを勉強してもらって、そのうちの一つを曲にしてあげたんだ。そこからだな。」




