#37 屋上の双子
リアム「さすが、卒業生だな。その侵入の手つきは手慣れたもんだ。」
シキ「別に、在学中にやったことなんてないですよ。ただ、昔卒業生がこうして部外の人と一緒に入っていくのを見たことがあっただけで…。」
そのときの人たちの煌めくような髪色のポニーテールは妙に記憶に残っていた。
そのまま校舎に入って階段を登っていく。リアムさんは黙ってついてきていたが、あまりにもキョロキョロしているので不自然な動きしないでくださいと注意した。
続く階段を登った先、踊り場で思わず足が止まってしまった。沈む西日に濃く刺す影。そして謎の…
リアム「おい、シキ大丈夫か?顔真っ青だぞ?」
シキ「!!」
そうだ、違う。ここはあの踊り場と似て非なるもの。それにここは現実世界。夕方でもないお昼の強い日差しが窓から踊り場の全てを照らし出しているし、出てくるものは何もない、怯えさせるものだって何もないんだ。
シキ「いえ…大丈夫です。行きましょう。」
リアム「なぁ、行くってさっきからどこに向かってんだ?どんどん上に登ってるけどよ。」
シキ「思い出してみてください、リアムさん。ノアマスターがどこを拠点にされてたのか。」
リアム「どこって校舎だろ?」
シキ「校舎の、どこでしたか?」
リアム「!…なるほどな。まぁ、可能性はあるか。」
シキ「なんでもやってみなくちゃわかりません。」
リアム「いいねぇ、その推進力。シキも“らしく”なってきたじゃないか!」
そう言うと、リアムさんは階段を一段飛ばしに駆けていった。そして先の屋上へと続く扉を掴んで…。
リアム「…シッ。誰かいるぞ。」
リアムさんに合図をされて音を立てないように速やかに扉に近づいた。しかし、何かが聞こえてくることはなかった。怪訝な顔をしているとリアムさんが示すように扉に触れたため、扉に耳を欹ててみた。
??《いい…くれ…マスター!…から…は…だって…!》
リアム「マスターって言ってたぞ。」
シキ「この声…おそらくクラウンくんですかね?」
リアム「じゃ、当たりだな!」
-バン!
言い終わるとほぼ同時にリアムさんが屋上へと続くドアを開け放った。
あぁ、まだノアマスターって決まったわけじゃないのに…!他のマスターの可能性だって…!
そして案の定、その予想は的中した。屋上の扉の先は3段のみの下りの階段があって屋上となっていた。そこの側面に壁としてもたれかけて、驚いたように目を見開いた少年が二人…いや、一人?違う、老眼はまだ早い。ボヤけて二人に見えているのではなく、全く同じ顔の少年二人に見上げられていた。
リアム「おっ、やっぱマスターじゃん。」
ビンゴと言わんばかりの口笛を吹くリアムさんの視線の先には、片方の少年の端末画面があり、その中には金髪を高い位置のツインテールにまとめて、ゴシックな衣装に身を包んだクレアちゃんがいる。
瓜二つの少年「新しい先生だろうか?」
目つきの鋭い瓜二つの少年「なわけ。あの、部外者の学内立ち入りは禁止なんですケド。」
シキ「急に驚かせちゃってごめんね。ここの卒業生だから大丈夫だよ。」
そう言いながら学生証を見せる。
瓜二つの少年のうち、片方は素直にそれをじっくりと見たが、目つきの鋭いもう一人は見向きもしなかった。
リアム「俺は全くの部外者だがな!」
目つきの鋭い瓜二つの少年「そすか。じゃ、ごゆっくりドゾ。俺たちはこれで。」
少年はかなり警戒しているのか、それとも自分たちの時間を邪魔されたことを不機嫌に思っているのか、もう一人を引っ張り出て行こうとした。
瓜二つの少年「あ、おいラルド!流石に失礼だろ。」
目つきの鋭い瓜二つの少年–ラルド「どうみたって怪しいだろ。あんなの関わんねぇのが吉だ。下手なことすんなよ。俺に合わせてりゃいいんだ。」
瓜二つの少年「でも、もしかしたら迷って屋上まで出てきてしまったのかもしれない。この学校は広いからな。在校生の僕ですら迷子になる。」
ラルド「そんなんオメェだけだわ。…あー、あれだ。あの人たち屋上に用があんだよ。だから俺たちがいて邪魔しちゃ悪いだろ?」
瓜二つの少年「そうなのか?よくわかったな。」
ラルド「あ〜そう言うわけで、邪魔者の俺たちは退散しようぜ。」
小声で話しているから聞こえていないつもりなのだろうが、全部筒抜けだ。そそくさと退場しようとする瓜二つの少年達を慌てて引き留めた。
シキ「待って!…その、盗み聞きがしたかったわけじゃないんだけど、君たちマスターなんだよね?ちょうど今日は最近流行りのアイディアルマスターについて若い子の話を聞きに母校を訪れたんだ。よかったらお話し聞かせてもらえないかな?」
“マスター”と言う単語を聞いて二人に動揺の色が見えたような気がした。瓜二つの少年は少し不安そうにラルドと呼んだ少年を見て、二人は一瞬目を合わし、ラルド少年はこちらに目を移した。
ラルド「それして俺たちに何の得があるんすか?」
瓜二つの少年「ラルド…!いいだろ、ちょっとくらい協力してやっても。僕たちのこと知らないようだし。」
リアム「得、ねぇ…。じゃあ、ここだけのとっておきを教えてあげようじゃあねぇか!これはまだ関係者以外には非公開にしているから絶対に秘密な?俺たちはな、今度アイディアルで開催されるでっけーイベントの主催なんだ。そのイベントがまぁ、デケェデケェ!なんと、グランドマスターが全員揃うんだぜ!!」
リアムさんが盛り上げようと抑揚をつけて話すが、少年たちの反応はイマイチだった。
リアム「…だから、俺たちの取材は前夜祭みてぇなもんだ。今回のイベントは大会っつーか総選挙っつーかイストからの投票で勝敗が決まる。だから、俺たちの記事もイストにとっては立派な判断材料なんだぜ。」
シキ「ちょっと、リアムさんそこまで話さなくても…。」
リアム「な〜ん〜で、お前らと話がしたいんだ。グランドマスター達の平等性を図るためにも、イベントを楽しみにしているイスト達のためにも、な。だから頼むぜ?話を聞かせてもらえないか、グランドマスターさんよ。」
少年達「!!」
リアム「……いや、もっと正確に言うなら。ロイドシリーズさんよ。」
二人は揃って目を見開いた。
リアム「大人を出し抜くにはまだまだだな。爪が甘かったぜ!」
瓜二つの少年「すごいですね!どうしてわかったんですか?」
リアム「まぁ、運がよかっただけだけどな!…元々扉を開ける前にIDollとやりとりしているところは聞こえてて、んで、扉を開けたら一瞬画面が見えた。それがな〜んか見覚えあってなぁ…。俺、あんま音楽とか今まで興味ねぇから、知らなかったんだけど、カッケェって思って聞いてたグランドマスターの曲がいくつかあって、そのIDollと似てた気がしたんだよ。そんで、話してみたらグランドマスターの話しても全然乗ってこねぇし、まるで知ってる話を何回も聞かされているような気まずそ〜な顔してたから…そんなのグランドマスターしかいねぇじゃん?それで確信ってワケ。」
シキ「要するに見覚えあったからカマかけたんですね。」
リアム「まぁ、そうとも言うな!でも、俺がコイツらのイストなのは嘘じゃないぜ?」
シキ「リアムさんもちゃんとアイディアル利用してたんですね。」
リアム「いや〜、好んで聞いてた曲がみんな同じシリーズのだったなんて、最近フィノに教えてもらったんだけどな!」
瓜二つの少年「僕たちのイストだって。こうして対面で会うのは初めてだな。」
ラルド「…。」
リアム「なんだか必死に名前隠していたようだが、お前がロイドなんだろ?」




