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#33 特等席

シキ「…。」

シェイラ・セシル「…それが真実よ。はっきり言ってアンタたちのパフォーマンスは見るに耐えないお粗末なものだった。イマジナリーライブステージで私は五度も席を立ったわ。」

フィノ・セシル「…だから…だからこそ…。」

シェイラ・セシル「自覚するのはよし!でも自惚れるんじゃないわよ!!アンタなんかまだひよっ子!一朝一夕でどうにかなる訳ないじゃない!そんな焦ってもアンタのスペックじゃガタがきておしまい!焦ってどうにかなるなら、私なんてとっくにクレアを超えてるわよ…!…だから、今は休みなさい。」

ニーナ・セシル「フィノ、シェイラの言う通りだよ。子には成長するために休息が必要。これも成長するために必要なことだよ。」

フィノ・セシル「…はい!」

シェイラ・セシル「…まぁ、心意気はよかったわよ。その調子でこの王様の鼻っ柱をへし折ってやんなさい!」

クレア・セシル「そしたら、フィノノンがシェイのことも超えちゃうことになるけど〜?」

シェイラ・セシル「馬鹿言わないで、その頃には私はもっと先にいるんだから!」

クレア・セシル「それは楽しみですな〜!」

ニーナ・セシル「私もみんなと並んで頑張る。」

シェイラ・セシル「クレア!アンタまだ余裕でしょ、付き合いなさい!」

クレア・セシル「クイーンの仰せのままに☆」

シェイラ・セシル「フィノ、休みながらでもできることはあるでしょう?今から見せてあげる(教えてあげる)。」

フィノ・セシル「はい!!」

みんな全力全霊でそれでいて楽しそうだった。イストを楽しませるために彼女たちがここまでの努力を積み重ね、そこにドラマがあること。スピンオフではそう言われてても改めて目の当たりにすることで生の温度で実感が湧いた。

―パシャ

その光景が微笑ましくて思わずシャッターを切る。

フィオ・セシル「より良きパフォーマンスのために研鑽し合うことは結構だが、客人を忘れるとはプロ意識に欠けるね。」

シエル・セシル「デフォルトに近いtypeシェイラとか珍しいじゃん。雪の精と見間違うほど美しいお嬢さん、オレと一緒に遊ばな〜い?」

シェイラ「アンタも同じようなものデショ。」

クラウン・セシル「すまないレディ、俺の連れが御無礼を。」

気がついたらセシルシリーズのメンズに囲まれていた。

シキ「キミたちは…。」

シェイラ「セシルシリーズの“メール”だよ。セシルシリーズは別に正式にユニット分かれてるわけじゃないんだけど、イストからは男女で分かれて“メール(男子)”“フィメール(女子)”として親しまれているの。今目の前にいるのはクレア・セシルとはまた違ったカリスマ性を見せるセシルシリーズ第二のセンター、リーダー格のフィオ・セシル。セシルシリーズをまとめ上げるシリーズの良心兼お兄さん役、ニーノ・セシル。それから、シリーズの帽子ハットと王子様担当、クラウン・セシル。最後に顔の良さと飄々としたダウナー系に帯びるクズみが女性イストを沼にズブズブさせてるダークホースのシエル・セシルだよ。」

シエル・セシル「ちょっと!?全部聞こえてるしオレだけチョー辛辣じゃね!?」

クラウン・セシル「すべて事実だろう?」

シエル・セシル「このエセ紳士が…。一人だけ王子様とか言われて女の子からウハウハだっていい気になるなよ!!」

ニーノ・セシル「ははは…まぁまぁ。僕たちは隣のレッスン室でレッスンしてたんです。今は一足先に休憩で、ちょうどレッスン室の交代の時間だったんです。」

シキ「普段は男女バラバラで練習しているの?」

フィオ・セシル「そうでもないよ。でも極力少人数に分けた方が質の良いレッスンになるからおもに今力を入れてレッスンしている曲によってチームは変わるよ。」

フィオ・セシルくんからそんな説明を聞いているとクレア・セシルちゃんがなんの合図もなしに突然ムクりと起き上がり、「…あっ☆ままの準備が終わったみた〜い。行こ行こ〜。みんなばいば〜い。」と、まだ状況が理解できていないこちらを置いてぐいぐいと手を取りレッスン室を抜け出す。

後ろを振り返ると他のセシルシリーズのみんなは状況がわかっている様子で仕方なさそうにこちらを見つめていた。最後にフィノ・セシルちゃんが小さく手を振ったのが見えた。

クレア・セシルちゃんはどこかワクワクしているような上機嫌さで腕を引っ張りずんずん進んでいく。舞台の小道具と見えるものが並ぶバックを抜けて、企画段階の試作なのかなんなのか、現状未だガラクタのようなものが並ぶテント群を抜けて…果たしてどこに向かっているのか皆目見当もつかないが、今いる自分の感覚が正しいのであれば、ユアディアルの外周をグルッと回っているような感覚がした。

平坦な道だと思っていたのに、気づけば少しずつ視界が開けていた。

道を登り切ると、そこには見晴らしのいい丘が広がっていた。

そこは先ほどまでのテーマパーク(しばらくはその裏側だったけど)とは打って変わって、野花が咲き乱れる芝生に満ちた丘だった。そこには場違いのようにティーセットが盛られたテーブルと椅子がぽつんと置かれており、その側にセシルさんが立っていた。

クレア・セシル「まま〜。ついれてきたよ〜。」

セシル「えぇ。ありがとう。」

クレア・セシル「じゃあ、ボクちんはお仕事があるから〜。」

シキ「お仕事?」

セシル「もうすぐマイディアルで定時に行なわれているショーの時間なの。自分もここから見ているわ。がんばってね。」

クレア・セシル「えへへ〜。うん!」

クレア・セシルちゃんはオフモードにも関わらず見てとれるほど嬉しそうに笑っていた。これがマスターとシンパサイザーの絆なんだろう。そうしてそのまま嬉しそうに走り去っていった。

シキ「ここからショーが見えるんですか?」

セシル「えぇ。」

そう言ってセシルさんは丘の先を指差した。そこにはユアディアルの全てが麓に見渡せた。特に、何に邪魔されることもなくユアディアルの一番奥に大きく位置されたステージはよく見えた。しかし、こんなにもはっきりステージが見えただろうか。

パークにいた時よりも近い。

いや、違う。

距離の問題じゃない。

まるで、“見たいものだけが強調されている”みたいだった。

セシル「ここが一番の特等席なのよ。自分はここのマスターですもの。見たい景色くらい好きな場所で好きなように見られるわ。さ、かけてちょうだい。」

——まるで神様みたいだ。

好きな景色を、好きな場所から、好きなように眺める。

世界を作り変えて、自分だけの理想を並べる。

それはもう、“創作”なんて言葉では足りない。

……アイディアルで、人は一体何になろうとしているんだろう。

案内されるがままにテラス席に着くと、その振動でテーブルの紅茶が波を立てた。絵に描いたような可愛らしくオシャレなお菓子と共に完璧なティーセットがテーブルの上に展開されている。

セシル「これは言わば夢のようなものだから食べたり飲んだりは何も意味を成さないけれど、何もない寂しいテーブルよりかはマシじゃない?」

セシルさんは花のように微笑んだ。

セシル「…でも、食べもしないものを飾るのも虚しいわね。」

セシルさんはそういうとパンと手を一つ叩いた。すると、先ほどまでのカラフルで可愛らしいお菓子は全て一変してカラフルな花々へと変わった。確かにこの和やかな野原にはこっちの方が合っているのかもしれない。

セシル「それで?記者さんは何を聞きたくてここまできたのかしら?」

頬をつくセシルさん、その美しい髪を風が柔らかく揺らがせた。

シキ「えっと…あなたのユアディアル、IDoll、それから音楽に関する想いなどを聞けたらな、と…。」

セシルさんはそれを聞くと体を起こし、麓のユアディアルを見つめた。


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