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#32 圧倒的な光

シェイラ・セシル「違う!そういうの聞いているんじゃなくて、レッスンを抜け出すなって毎度言っているでしょう!?サボタージュなんて美さに欠けるわ!」

クレア・セシル「ごめんちゃーい。でも、ボクはいつでも美しいから大丈夫なのだー☆」

シェイラ・セシル「アンタつくづく勘に触るわね…。今日の公演が間近なのにセンターがいないなんてありえないし、最悪アンタだけいればステージは成り立つ。それで、お客さんは満足するんだから…!」

クレア・セシル「ううん。ボクだけじゃダメだよ。でも、逆にみんなだけならダイジョーブ。そこがボクの居場所だから。みんながいればボクはいつでもどんな時でも帰って来られるんだよ。」

シェイラ・セシル「また、意味わかんないこと言って…。」

シェイラ・セシルちゃんは頭が痛そうにため息をついた。

ニーナ・セシル「お帰りなさい。今日のマイディアルはどうだった?」

クレア・セシル「右よし左よし、今日もイストの笑顔が咲き乱れていたのだー☆…でも、雲行きが怪しくなってきたね。」

ニーナ・セシル「雲行き?前は『風向きが変わった』って言ってたよね。」

クレア・セシル「風が雲を運んでくるんだよ。」

ニーナ・セシル「…それはマイディアルに何か良くないことが起こるってこと?」

クレア・セシル「どうだろう…風は外から吹いてきてる。」

それからシェイラ・セシルちゃんはクレア・セシルちゃんの後ろにいたこちらに気がついて、近づいてきた。

シェイラ・セシル「あなたたちがマスターの言っていた取材の人たちね?マスターから話は聞いているわ。もう少しでレッスンを休憩にしようと思っているから、もう少しだけ待っていてもらってもいいかしら?」

シキ「おかまいなく。レッスンの様子も取材させていただきますね。」

シェイラ・セシルちゃんは肯定の意で笑うと踵を返していった。

シェイラ・セシル「フィノ!誰が休んでいいって言ったの!?誰も休憩なんて言ってないわよ!!立ち上がりなさい!!」

フィノ・セシル「は、はい!」

フィノ・セシルちゃんはシェイラ・セシルちゃんに喝を入れられたことによって立ち上がる。しかし、その体は重そうであった。

シェイラ・セシル「さ、今日の仕上げよ。クレア、アンタ暇してるんでしょ。なら、併せなさい。最後に通して終わるわよ。」

フィノ・セシル「はいっ!」

クレア・セシル「りょ〜か〜い。」

そう、気だるそうにクレア・セシルちゃんがいうと徐に耳の生えた大きなフードを脱いだ。すると三つ編みに編み上げられた薄桃色の髪が赤みを増し、薄紅色になり、くるんくるんとツインテールに巻き上げられていった。パークのマスコットがたくさんついたパーカーは瞬時に他のセシルシリーズの子たちと協調の取れたクレア・セシルちゃんの衣装へと早変わりしていった。

クレア・セシル「気合十分☆パワフル超絶完璧IDoll!クレア・セシルちゃんみんなのご期待に応えてオンステージだよん!!」

エネルギーに満ち溢れた声色だった、先ほどまでずっと一緒にいたクレア・セシルちゃんとは程遠く、それでもよく知られているクレア・セシルちゃんだった。それから、クレア・セシルちゃんはこちらを見て「とぅっとぅるー☆」と明るく元気に例の挨拶でファンサービスをしてくれた。クレア・セシルちゃんがフィノ・セシルちゃんから間隔を空けて位置につく。フィノ・セシルちゃんは少し緊張の眼差しを彼女に向けるが、すぐにシェイラ・セシルちゃんの厳しい視線に気がついて前を向き直した。それを確認したシェイラ・セシルちゃんが楽曲を再生した。楽曲は二人の曲だったようで、パート分けされたメロディーを鮮やかに歌い上げながら華麗に踊る。

ステップアンドステップ。ターン、ステップ。

キラキラ眩い笑顔と共に最初の滑り出しはとても好調だった。フィノ・セシルちゃんも先ほどの疲れなんて気がつかせないほどに軽やかに踊り、楽しそうな笑顔を携えていた。けれど、Aメロを過ぎたあたりから違和感が生まれ始めた。

フィノ・セシル「………………。」

雲行きが怪しくなってきた。別に特別ミスがあったとかそういうわけじゃないし、細かいことは素人目にはわからなかった。どこが悪いとかはきっとなかったんだと思う、でも雰囲気が…。サビに差し掛かる直前、徐々に強まる場の違和感が次第に輪郭を帯び出した。場がクレア・セシルちゃんに飲まれているのだ。視線がクレア・セシルちゃんに集まる。それ自体はきっといいことなのだろうけれども、デュエット楽曲としては異様だった。どんどんフィノ・セシルちゃんの存在感が食われていく。それは当人も感じるのか徐々に焦りが顔に現れるようになって、二人のペースが合わなくなっていった。クレア・セシルちゃん自体はきっと完璧なのだろう。けれども、一緒に踊っているフィノ・セシルちゃんが『合わせる』ではなく『追いつく』という表現の方が適切なほど、何かがずれ込み始めた。もはやその表情には焦りの他に恐怖すらも伺える。その気持ちが反映しだしたのか、曲の終盤に差し掛かる頃には

——タン!タタタ…

足音が乱れ

フィノ・セシル「ひゃっ…!?」

声が裏返ってしまっていた。いつからか、フィノ・セシルちゃんは笑っていなかった。

正直パフォーマンスとしては見るに耐えない。元々蓄積された疲れもあったのか、最初の軽やかさの面影はもうなく、体は重そうで笑顔はいつの間にか消え去ってしまっていた。

クレア・セシル「〜♪〜☆〜♫〜☆」

クレア・セシルちゃんは眩いほど楽しそうだ。

フィノ・セシル「………っ……!はぁ……っ………。」

なんだかフィノ・セシルちゃんが苦しそうで歌声も小さくなり、イントロに紛れもう彼女の言葉は聞き取れなくなってしまった。もう彼女のことを思うと止めてあげてほしくてシェイラ・セシルちゃんを見る。

シェイラ・セシル「…。」

が、彼女は厳しい目つきをしつつもただ真っ直ぐ見つめるだけで、その手が動くことや何かを発する気配はなかった。

ここまでくると圧倒的なカリスマ、そして才能が恐ろしく感じられた。全てを飲み込み、人のこれまでの努力を一蹴する天賦の才。それでもクレア・セシルちゃんの目が眩むほどのパフォーマンスは見惚れるほど美しく恍惚としてしまうのも事実だった。

なんとかしてあげなきゃと思うのに、どうすることもできない。勝手に慌てても時間がいたずらに過ぎるだけだった。考えを巡らすには一曲なんて瞬きで、そうこうしているうちに曲とまともに向き合えることもなく終わってしまった。

フィノ・セシル「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!!」

曲が止むと同時にフィノ・セシルちゃんがへたり込む。手は震えていて、言葉にならない何かを言いかけるが、それも飲み込んでしまった。

クラウン「これは…見ていられないな…。」

同じ思いをはっきりと口に出されて気まずくなり、観客側は重い沈黙が流れた。

シェイラ・セシル「…休憩よ。お疲れ様。」

フィノ・セシル「…!いえ!まだやれます!まだ、こんなんじゃ…!!レッスンを…!!」

シェイラ・セシル「休憩よ!!私が休憩って言ったら休憩する!!」

フィノ・セシル「!」

シェイラ・セシル「どうやら思うところがあったようね。それが事実よ。…現にあなた。」

シェイラ・セシルちゃんはこちらを向いた。驚いて、確認するように自分を指差す。

シェイラ・セシル「見るに耐えなくて、止めるように私を見たでしょう?」

シキ「!」

何も言い返せなかった。あの時はあまりにも可哀想で、彼女のためを思った行動だったけれど、今にして思えば、一生懸命やり遂げた彼女に対しては本当に失礼で最低な行動だったんだと、心を抉られた。


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