#31 完璧な関係
セシル「この子がいいって言ったんでしょ?なら、喜んでお引き受けするわ。」
その返答はクレア・セシルちゃんの予想通りのものだった。
セシル「でも、ここで長話をするのもなんだから、プライベートルームでおもてなしの準備をして待っているわ。その間にこの子に色々案内してもらっててもいいかしら?」
シキ「わかりました。」
セシル「ごめんなさいね。それじゃあ自分はこれで、クレアお願いね。また後で会いましょう。」
クレア・セシル「あいあーい。それではセシルツアー発車いたしま〜す☆」
そうしてクレア・セシルちゃんによるパークツアーが始まった。その道中でクレア・セシルちゃんがこんなことを言い出した。
クレア・セシル「あ、そーだ。アイディアルのIDollについて聞きたいことがあったらボクちんになんでも聞いてくれたまえ〜。多分ボクちんが一番知っているからね。」
シキ「そうなの?」
クレア・セシル「うん、だって、アリアはアイディアルのIDollじゃないし、同じくらい古参のクレア・ノアもカナリアだから。」
シキ「カナリア?」
クレア・セシル「そー。檻に閉じ込められて美しく鳴き続けるカナリア。だから檻の外がどうなっているか知らないしー、飼い主と自分だけで世界が完結している。自分がどれほど綺麗な羽を持って飛べるのかも知らずにね。」
クラウン「IDollにしては随分と否定的なんだな。」
クレア・セシル「え〜?そーお?」
クレア・セシルちゃんの物言いには手厳しいところがあったけれども、クレア・ノアちゃんにクレア・ノアちゃんの安全のためにマスターを守らせることを禁止したノアマスターを見てしまっていたから、的を射ているようにも感じた。
クレア・セシル「他所のマスターとIDollの関係にとやかく言う資格はないけどねー。あそこはあそこであれだけマスターから愛されていればIDollとマスターの関係としては完璧だとも捉えられるし。でも、ボクちんは自由気ままだから〜ボクちんには無理って話☆」
シキ「でも、ノアシリーズはマスターとIDollが対等だったよね…?」
クレア・セシル「それは檻の中だからねん。自分の聖域に相手を入れてるから余裕ができるんだよ〜。ノアマスターはそもそもマイディアルから出てこないから、なんか自分の世界以外の全てを拒絶してるみたーい。」
『お前なんてもういらない!!!こんな世界いらない!!!』
あの時の言葉が、ふいに脳裏をよぎった。
シキ「…他のシリーズたちはどうかな?」
クレア・セシル「ほかぁ?マスターとIDollの関係で言えばテオシリーズもある意味完璧な関係なんじゃないかなー。IDollをIDollとして適切に認識してるから迷うことなき主従関係だよねん。」
シェイラ「あーまぁ…言いたいことはわかりみ。」
クレア・セシル「でしょー。」
シキ「適切な認識って…?」
クレア・セシル「ボクちんたち音楽サービスではあるけどさ、このプログラムの大元って介護とか人間の生活サポートAIのものなんだよね。だから、当然のように音楽以外でもそういったIDollの使い方をするマスターもいるわけー。それを踏まえると〜マスターは音楽を作る、IDollはマスターの命令に忠実に従うって言うのもお互い役割をちゃ〜んとやってていい感じじゃな〜い?ってボクちんは思うなぁ。」
要するに、駒として、物として扱うということなのだろうか?それは例えIDoll自身にお願いされても難しい話だと思った。だって、彼女たちは笑ったり驚いたり人間と変わらない。ノア・クレアちゃんの困惑と悲しみに包まれた姿は今でも鮮明に覚えている。そんな相手に気を遣ったり思いやるなと言われることは良心が痛む。…でも、だからと言って自分達がいつだって彼女たちを人間として優先させてあげることができるかと聞かれたら自信がない。綺麗事を言っても仕方ないので白状すると、調子がいいと人間として扱って、都合が悪くなると物として扱う、そうして完全に都合のいい所有物として自分の心も身体も全てが楽になるように利用してしまうかもしれない。それならいっそ、彼女たちにそんな人間の醜いところを見せるくらいなら、最初から彼女たちのオーナーとして、適度に距離を取ったほうがいいかもしれない。そのほうが残酷な仕打ちをしないで済む。
クレア・セシル「あと、関係が面白いで言ったら、アレンシリーズとジョゼシリーズは珍しいかも〜?でも、そこら辺はまだ会ったことないみたいだから、エンタメを司るボクちんとしてはネタバレはNG☆お口にチャック〜☆」
シキ「じゃあセシルシリーズについては?」
クレア・セシル「ボクたち〜?ボクたちはもっちろん完璧だよ☆アイディアルが始まってから人気が衰えたことないし、グランドマスターとしてたくさんの音楽を定期的に発表してイストを飽きさせないし、マイディアルも夢と笑顔と楽しみがいっぱい詰まったワクワクスポットで毎日たくさんのイストが来てくれるし〜。」
シキ「最近セシルマスターがIDollを追加したんだよね?新しいIDollのみんなとはどう?」
クレア・セシル「急に賑やかになってハピ〜☆でも、まーちゃん独り占めできなくなっちゃったぁ。今はみんながボクちんに追いつくために頑張ってる期間だから曲も順次カバーって感じだけど、みんながもっと仕上がったらボクの曲も減っちゃうんだろうなぁ。」
シキ「寂しい?それとも嫉妬?」
クレア・セシル「う〜ん、それはわかんない☆でも、まーちゃんが他のIDoll使うって決めたのも、ボクのためだから〜。ボクがこんなんになっちゃってね。」
その言葉に続きはなかった。
シェイラ「え、もっとなんかないの?一緒に曲やったり練習したりしてるんでしょ?」
クレア・セシル「え〜?んー…しぇーちゃんはぁいっつもカリカリしてるーでも、人を怒れるくらいには自分もしっかり努力してるし、フィノちんの面倒よく見てるなぁーって感じでぇ、ニーナナはクールで歌が上手〜☆もっと飾れば華が立つかなぁって思うしー、フィノちんはまだまだ頑張り中〜歌もダンスもまだまだ☆鈍臭いし〜?でも、誰よりも頑張れるガッツがあるし体力があるね。あとはぁ…フィフィ?フィフィはしぇーちゃんに負けないくらいストイックで…あ、でも、しぇーちゃんよりプロ意識が高いかも?あと男の人の魅せ方をよく研究してるね☆“メール“(メンズ)を引っ張ろうと頑張ってるみた〜い?…そのくらいかなぁ、あとはあんまり関わったことないから〜。」
シキ「あだ名をつけるくらい仲良いんだね。」
クレア・セシル「え〜そうかなぁ?その場で適当に呼んでるから☆んじゃ、ボクのお話はこれでおーしまい。」
気がつけばパークの端まで来ていた。パークの奥は舞台の緞帳のような重たい赤のカーテンが先までずっと続いていた。その先は関係者以外立ち入り禁止のようだった。クレア・セシルちゃんはお構いなしにそれをめくった。
その先は一面がガラス張りのレッスンスタジオになっていた。そこにはセシルシリーズの子たちが揃っている。我々がこちらにやってきたことに気がつき幕を開けた途端耳に届いた音は鳴り止み全員がこちらに注目していた。シェイラ・セシルちゃんがこちらを怪訝そうに見つめるとパンパンと2回手を叩く。その合図で、ポーズを決めたまま静止していたフィノ・セシルちゃんが倒れ込んだ。レッスン中だったようで、物凄い量の汗をかいて息が上がっている。
シェイラ・セシル「クレア!アンタどこほっつき歩いてたのよ!」
クレア・セシル「どこってーマイディアル〜。今に始まったことじゃないでしょ〜?」




