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#29 逆さの来訪者

シキ「じゃあ、その時間まで園内を散策してセシルシリーズのIDollを探すって流れが妥当かな。」

シェイラ「OKまる!せっかくの遊園地だし、マスターも羽を伸ばしてテンション爆上げで楽しんじゃおう!」

シキ「仕事で来ているからそういうわけにもいかないけどね…。」

シェイラ「わーってるよぉ…マスターってば真面目〜。んじゃ、マスターのIDollであるウチも合わせますかー。…と、いうことでぇ、ここでまたまたシェイラちゃんの〜パーペキレクチャー(セシルシリーズ編)!!」

シキ「え、ここで?」

シェイラ「そ、ここで。予定の時刻にはまだまだあっからさぁ。と言ってもこんなユアディアルの入り口真前じゃなくて、ちゃんと邪魔にならないゆっくりできる場所に移動するけどね?」

そう言いながら、シェイラちゃんは目の前にあるユアディアルの園内と思しきマップを目の前に表示してくれた。現在位置を示す場所には丸が囲まれており「今ここー」とかわいらしく書き込まれている。それから、ここから近い場所をシェイラちゃんがマップ上に指差して、その方角をもう一度実際に指し示してくれた。それに従って進むと並木とベンチが並んでいる園の端の休憩場のようなところに着いた。そこに腰をかけるが、シェイラちゃんとクラウンくんはレクチャーを進めるためか、一緒に座ってはくれなかった。シェイラちゃんは軽く咳払いをすると、どこから持ち出したのかメガネをくいっと上げた。

シェイラ「んじゃ、約束どーりレクチャー始めてくね?セシルシリーズはもう、最古参。アイディアルで古参村作るならまず間違いなく入るね。打てば必ず響く。バケモノ級のマスターだょ!」

また、あたり一面が画面で埋まる。もっとも、これは個人の視界に直に映しているらしいので、周りのマスターに迷惑がかかることはないらしい。それにしてもさすが最古参というべきか、曲数だけならノアマスターを越えるのではないだろうか?視界に映される楽曲たちが正面いっぱいでは収まりきらず360°囲まれてしまった。これは全ての曲を試聴するだけでも骨が折れるのでざっくりとサムネイルなどを一瞥する。

シキ「なんか…バラバラだね。」

はっきりと全部の曲を聞けた訳ではないが、どの曲も雰囲気や曲調、テーマなどが大幅に異なっているように感じた。

シェイラ「それな!それそれ!そこに気づくのさっすがマスター!セシルシリーズはセシルマスターが一人で楽曲を制作しているのにも関わらず、毎度毎度曲調諸々全てが大幅に違うことから、創作の幅的にもその才能は褒め言葉としてバケモノ級なんて呼ばれてんの!」

それは褒め言葉として言われて、果たして嬉しいものなのだろうか…。

シキ「それをクレア・セシルちゃん?が全部歌い上げてるんだね。」

そう、言葉に迷うのも曲ごとに歌っている女の子が一人ではあるのだけれど、同一人物かと言われると自信をなくすほど、曲と同様に変容していた。曲に合わせているのだから当然といえば当然なのかもしれないけれども…。共通するのは全て金髪という条件だけで、やや強引にtypeクレアと判断したわけだ。

シェイラ「セシルシリーズを端的に表現するならアイドル×演劇。だから、異なる演目でも完璧に演じ分けちゃうってわけ!」

今注目している目の前の画面にはクレア・セシルちゃんが登場する場面が映し出されていた。アイドル衣装に身を包み、薄紅と金のツインテールの中央では王冠が輝いていた。

クレア・セシル『み〜んな〜!!おっ待たせ〜!とぅっとぅるー!おはこんにゃんにゃちは☆みんなのバーチャルアイドル、クレア・セシルだよ!!今日は会いに来てくれてありがとう〜!ボクも会いたかったよ〜☆』

イストはクレア・セシルちゃんの登場に割れんばかりの歓声を上げ、挨拶の口上が始まると彼女のセリフに合わせてコールがホール中に響き渡った。たったそれだけの映像だったのに、アリア・アーサーちゃんのライブを思い出した。登場したその一瞬で観客全ての視線と関心を虜にし、掴んで離さない絶対的なカリスマ性、それが二人の共通点のように思えた。

シキ「あれでも、セシルシリーズって…。」

シェイラ「おん。ノアシリーズと同じく、全typeを揃えてるんだけど、それも割と最近の話なんだよね〜。ノアマスターは最初から全type使ってたけど、セシルマスターは追加で全type揃えた感じ。typeを追加してからはこれまでソロで活躍してたクレア・セシルの曲を順次カバーリメイクして、やっと最近新メンバーを踏まえた新曲を出してんの。」

シキ「男女でユニットは分かれてないの?」

シェイラ「う〜ん…。分かれてある曲もあるけど、全員のも、男女ペアもソロもあるから、テオシリーズほどはっきり分かれてないんじゃね?どっちかっつーと、個人のプロデュースに力入れてる的な。その点ではノアシリーズの方が近いかもね。」

シキ「そっかぁ。」

シェイラ「IDollのキャラクター性が濃くて、その物語に重きを置いてんのもノアシリーズとオソロだね。」

シキ「…と言うと?曲を聞いてる感じは物語楽曲ってわけじゃないと思うけど…。」

シェイラ「あーね?いや、曲とは別にIDollの活動を発信してんの。セシルシリーズのIDollは全員アイドル兼役者だから、そんなIDoll達の共同生活、活動が漫画化されていて、それが人気爆上がりしたからアニメ化とか諸々展開してってんだってさ。」

目の前の楽曲一覧の上からさらに電子書籍やアニメ情報、劇場版の情報、サブスクライブでの放映などなど関連作品のページが次々と表示された。その中でも、彼らの日々をまとめた漫画は試し読みが可能であったため、拝読させてもらった。それは、トップアイドルクレア・セシルちゃんに憧れてアイドルの世界に飛び込んだフィノ・セシルちゃんがクレア・セシルちゃんと同じ小さな芸能事務所に所属できることになり、同じく所属するセシルシリーズみんなで共に寮生活をして研鑽し合うシンデレラサクセスアイドルストーリーだった。

シェイラ「こうして歌声やパフォーマンスの他にキャラクター性でファンを獲得するってワケ。で、イストがそれをさらに二次創作としてイラストや漫画、動画、さらには音楽ゲームをはじめとしたゲームまで作っちゃったりして拡散し続けるってゆー原理。」

なるほど。セシルシリーズはわかりやすくオタク文化に根付いているのか。

シキ「ということは、セシルマスターのシンパサイザーはクレア・セシルちゃんになるんだね?もうこの際、会えれば誰でもいいけど、欲を言うならやっぱりシンパサイザーのクレア・セシルちゃんに話を聞きたいな…。」

シェイラ「そだねー。…あ、以上、シェイラちゃんによるパーペキレクチャー(セシルシリーズ編)でしたぁ!」

シェイラちゃんは勢いよくメガネを外してウィンクを送り、こうしてレクチャーが終わった。

??「ふむふむわかりやす〜い。」

シェイラ「でしょでしょー。…って」

シキ&シェイラ「「誰!?」」

声のする方を振り返るとさっきまでいなかったはずの隣に女の子が逆さにいる。…逆さに。

??「誰ってぇ〜またまたご謙遜なさるなぁ〜。」

クラウン「別に謙遜はしてないと思うけどな。」

逆さづりの女の子はクルッと一回転して後ろの並木に掛けていた足を外し、スタッと両手を上げて地上に降りてきた。決まったようにピンと格好をつけていたが残念ながら後ろ向きであった。

その女の子は着ぐるみのような大きな耳付きフードの振袖パーカーを被っていた。パーカーの背面の裾には二股に分かれたしっぽがついている。少女はクルッと回ってこちらを見た。そのパーカーにはパークで先ほどイストと触れ合っていた謎の生き物たちのマスコットやグッズがたくさん付いていた。金髪と薄桃の髪を三つ編みに結い上げた女の子……typeクレアちゃんかな?


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