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#2 ようこそ、“アイディアル”へ

リズ「これは我々に与えられた大きなチャンスだ。常々僕たちは他の体たらくと比べ、素晴らしい結果を残してきた。が、今をトキメクIDollを“真の眼”でとらえた特集が成功することによって、奴らは僕たちを認めざるを得ない。もう誰も僕たちを馬鹿にすることなんてできないのだよ。」

仕切りなおすようにリズさんが見せていたタブレットをひょいと上げ、肩に乗せた。

リズ「とりあえず、善は急げだ。さっそくアイディアルドールを始めてみようじゃないか。」

その言葉で誰かが動き出すことはない。リズさんの次の行動を見守る。しかし、リズさんは期待するような眼差しで目の前に置いてあるデスクトップを見つめているだけだった。

シキ「え、この端末でやるんですか?」

リズ「一番近くにあるから手っ取り早いだろう?それに端末はのちに問われなくなるんだ。」

シキ「そうなんですか?」

リズ「まぁ、いいからやってみたまえ。」

先ほどまでリズさんのタブレットによって遮られていたパソコンの画面が今なら見える。そういえば、作業の途中だった。保存作業を行い、作業を中断する。

リズ「アイディアルドールはアプリなんだ。今ではどの端末からでもダウンロード可能だよ。」

リアム「なんだ、じゃあ携帯端末でもできるのか。」

リズ「あぁ。それに登録を済ませた後は他の端末との同期が可能だ。」

シキ「それで端末は何でもよかったんですね。」

リズ「そうだよ、やってみて気に入ったら自分のプライベートの端末にも入れてあげるといい。」

アプリの読み込みが終わると、デスクトップにアイディアルドールのアイコンが表示される。

シキ「終わりました。」

リズ「よし、それじゃあ始めてみよう。」

アイコンをクリックするとプログラムが起動し、画面が変わる。

——『伝えたいこと、ちゃんと伝えられていますか?』

突如暗闇の画面に少女の声がこだまする。

——『その心の声かき消さないで』

——『さぁ、ありのままのあなたを表現しよう。』

『『ようこそ、“アイディアル”へ』』

一気にカメラが上を見上げるように上がり、黒白髪にルビーのような真っ赤な瞳の少女のアップから曲が始まった。黒白髪の少女は9人の男女の内センターを飾り、両サイドに四人ずつの少年少女もセンターの少女に負けず劣らず輝かしい笑顔で歌って踊っていた。Aメロには9人それぞれのソロパートがあり、基本的に同じ髪色の少年少女が対になるように陣形が組まれていた。そしてBメロに入ったところでやっとこの曲が先ほどリズ先輩が鼻歌で聞かせてくれたものと同じだと気づく。やたらと耳にするこの曲は、どうやらIDollのテーマソングらしい。それにしても、いきなり始まったこのライブ映像はいきなり始まったにもかかわらず見ている人の心を掴んで離さない魅力があった。没入感のある重厚な高音質の音楽。鮮やかな映像美。まるで画面の向こうでパフォーマンスをしている彼女たちが自分のためだけにそうしてくれるような心躍る高揚感があった。

“あなたの想いを歌わせて”

耳に残るメロディ、まっすぐと想いが伝わる歌声。これから自分はかけがえのない相棒に出会えるんじゃないかと胸が高鳴る。

Cメロ。感動を抑えるように演出が控えられる。センターにスポットライトが一本差し込み、そこにいた黒白髪の少女を照らし出す。少女のアップ。気持ちを押し込めるような少女の切なくか細い歌声が響き渡る。そこから転調をし、ラスサビで一気に盛り上がりを見せる。一人一人の個性をうまく活かして魅力を最大限に引き出している。みんなの笑顔がキラキラと輝いていて、心の底から楽しそうだった。

心の底から感動した。これから自分もこんな音楽を紡げるのかと思うと、胸が高鳴った。

リアム「すげぇクオリティだな。まるで本物のライブみたいだ。」

リズ「あぁ。これが最新技術の塊だということに驚きが隠せないね。人間と全く遜色ない…。」

同意見だ。今人々の間で普及率を莫大に加速させているこのサービスは我々の想像以上のものだった。感動の余韻が残る中暗転したステージが映し出されている。ずっと鳥肌が止まらない。うまく言葉で表せないけど、IDollが歌う歌には想いがあった。伝えたい気持ちが音楽に乗せられて直に心に届く。IDollを通して心と心で対話が行われているといったらいいのだろうか。曲を作った相手の心の核に気づけたような気がした。

暗闇のステージにまた光が差し込む。ステージの奥から一人の少女がこちらに歩み寄ってきた。

??「IDollサービスのご利用ありがとうございます!」

それはステージでセンターを飾り華々しくパフォーマンスをしてくれた黒髪白髪が混じり合った特徴的な髪に金赤の瞳を持つ少女だった。ライブのときそのまま、近未来的でエレクトロニックな衣装に身を包んでいる。

??「初めまして、新米マスターさん!私はここで新米マスターさんたちへのチュートリアルを担当する、少女型IDollオリジナル、アリアです。」

アリアと名乗ったその少女はにこりと微笑んだ。

オリジナル…ということはこの娘が元祖で試作機なのだろうか。

アリア「ただいま見ていただいたライブは私のマスターがみなさん新米マスターさんの門出を祝って制作したサンプル楽曲でした!どうでしたか?私もたくさん練習したんですよ!」

アリアちゃんはころころと表情を変え、ぐっと距離を詰めるようにして、最後は自慢げに笑って見せた。

アリア「これを参考に「このIDollを使ってみようかな」とか「自分はこんな音楽を作ってみたいな」って思ってくれたら嬉しいです。」

明るく話すアリアちゃんに対して困惑した顔をしている自分が液晶に反射して写っている。その顔はまだ判然としないなんとも冴えない表情だ。キラキラと振る舞うアリアちゃんとの対比が凄まじい。すると、アリアちゃんと目が合った。

アリア「あ!すみません、言い忘れていました。IDollでは他のサービスと違い、私たちと対話が可能ですよ。よく勘違いして黙り込んじゃう方が多いんです。IDollは最新音楽サービスであると同時にコミュニケーションサービスでもあるんですよ!」

そういうとアリアちゃんはさらに画面に近づいて耳を傾けるとこちらから何かを言うように指で合図した。後ろを振り返るとリズさんとリアムさんと目が合う。二人とも当惑しているようだった。あんなに饒舌だった二人もアリアちゃんのあまりの自然さに言葉を失っているようだ。しょうがないので、恐る恐る声をかけてみる。

シキ「こ…こんにちは。」

アリア「はい!こんにちは!ちゃんと聞こえてますよ。」

アリアちゃんは明るく笑って答えた。それでも傍から見たら画面に一人で話しかけてる人みたいで少し恥ずかしさを感じる。

アリア「こんな感じで私達IDollとコミュニケーションが可能です。たくさんお話してあげてくださいね。もし、画面越しが不便と感じるのであれば、あとでご説明しますが、別の方法もありますので。それではさっそく新米マスターさんのこの世界での相棒もとい、あなたの一番の理解者“IDoll”を選びましょう。」

画面がライブステージから切り替わり、先ほどアリアちゃんと一緒に歌っていた残りの8人が表示される。彼女たちの周りを自由に動き回るアリアちゃんとは対照的に新しく映し出された8人はイラストのように一切動かない。

アリア「まずはIDollのご説明ですね!IDollは人工知能を搭載したあなただけの存在です。あなたとコミュニケーションをすることであなたを学び、理解し、成長します。そしていずれはあなたの相棒、一番の理解者になってくれるでしょう。そんなIDollのお仕事はあなたの心を掬って音楽にすること。マスターの曲を歌っている時が私たちの中で一番幸せなんです。」


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