#27 奥の扉
「あのタイプのクレア・テオがいるなんてウチも知らんかった…!マスターの側を片時も離れないタイプのIDollなのかもね。」と今の驚きを伝えてくれた。
シキ「そういうIDollもいるの?」
シェイラ「おん。楽曲作成やマスターのサポートをメインにやるから、マスターが表に出ない限り表に現れないIDollはいんのよ。大抵その場合はそのIDollがシンパサイザー。」
そっか。でも、確かに一人だけ特別な衣装?制服?を着ているし、寵愛具合がワンランク違うことが窺える。宝物は手元に置いておきたい、みたいなものか。
通路の両サイドは厚手のカーテンで約一部屋ごとに仕切られており、もしかしたらVIPルームなのかもしれないと思った。
クレア・テオ「表にいるクレア・テオとは同位体なんですよ。…疑問に思われましたでしょう?」
シキ「あ、はい…。」
見透かされて心なしか恥ずかしさを感じた。その様子を先を歩くクレア・テオちゃんがチラリと見てふふっと笑った。気がついたらシェイラちゃんは通常の距離まで下がっていた。
クレア・テオ「もっとわかりやすく言いますと、一卵性の双子のようなものでございます。まぁ、厳密に言いますと私がオリジンで向こうは複製体なのですが。ご納得いただけましたか、マスターシキ様?」
シキ「それはわかりました。けど、名前…。」
クレア・テオ・オリジン「ふふ、ご主人様はなんでも知っていらっしゃるんです。それ以上は私の口からは言えませんが…。」
そこでクレア・テオちゃんが立ち止まって振り返った。
クレア・テオ・オリジン「続きは、もしよろしければご主人様本人からお聞きください。」
クレア・テオちゃんの背後には豪華な作りの重厚な扉があった。クレア・テオちゃんはまたくるりと向きを変えると扉をノックした。
クレア・テオ・オリジン「ご主人様、クレアです。マスターシキ様とそのIDollを連れて参りました。」
テオ「どうぞ。」
扉の向こうからテオマスターと思しき声で返答が返ってくるとクレア・テオちゃんは目の前の扉を丁寧に開け、中に通してくれた。中には一人の青年が向かい合うソファの片一方に悠然と座っていた。
テオ「さ、立ち話もなんですから、おかけになってください。」
青年もといテオマスターは向かい合うソファを指してそう愛想よく笑って促した。が、なんだかその目は笑っていないように見えた。やっぱり世間の評判通り少し食えない人なのかもしれない。
シキ「…失礼します。」
促されるままに座るとシェイラちゃんとクラウンくんは余裕のあるソファの隣に座るのではなく後ろに回って背後に立った。正面を見ると対照的にクレア・テオちゃんも同じように立っていた。背後に控えられる形になって、まるで大御所にでもなったみたいで落ち着かない。
テオ「事前にアポイントを頂けたら、おもてなしの一つでもできたのに申し訳ありません。」
笑顔は崩れない。あんまり申し訳なく思ってないんだろうな、どちらかというとアポもなしにくるなんて、という皮肉なんだろう。
シキ「すみません。アイディアルに慣れていなくって…。でも、アポイントを取ったとしたらこうして直にお会いすることは叶いましたか?」
テオ「…。」
テオマスターは少しだけリズさんに似ているような気がした。あの人もあの人で食えないところがあるから。でも、リズさんは真っ直ぐな物言いの人だからそこに好印象を抱いていた。だとすると遠回しな言い方はヴィンセントさんに似てるのかも…?
テオ「それで、要件は?」
シキ「イベントについての追加情報を持ってきました。」
テオ「それから?まさかそれがメインではありませんよね?それなら、本当に文面でいい。」
シキ「その代わりに取材に答えていただきたくて…イベント用に掲載するものです。」
テオ「そちらがお伝えしなければいけない情報を交換条件に持ち出すのは随分小癪ですね。伝えなければ困るのはお互い様なのに。」
シキ「そうでもないですよ。ただ、イベントが人気投票を用いたグランプリ式というだけです。その時の評価対象に我々の取材が大きく反映される恐れがある、と。なんといっても公式掲載ですからね。イベントに興味を持つ多くのイストが閲覧することでしょう。」
テオ「…なるほど。」
相手と冷静さを合わせて、どうせ全部まだ虚勢なんだから淡々と真摯に話を続けていく。
シキ「そういう理由で取材の依頼をさせていただきたく、伺いました。具体的な内容につきましては、テオマスターとテオシリーズのIDollの皆さんへのインタビュー。それから、ユアディアルなどの写真撮影の許可を頂けたら、と。もちろん掲載予定の記事や使用する写真は必ず事前に確認を取ります。撮った写真のデータも全てお渡ししましょう。それから…」
テオマスターの表情は変わらない。相槌のひとつも打たずに話を聞いている。その様子が妙に焦燥感を煽った。でも、一応ノアマスターの説得には成功したし、それをなぞれば…それがテオマスターに有効かはわからないけれども…。
シキ「我々は既にノアマスターを始めとするグランドマスターたちに…。」
テオ「あぁ、いいですよ。実績とか。他の人に興味がないので。」
一切の興味を持たない、というより——切り捨てているような言い方だった。
シキ「えっ…あ、えっと…それじゃあ…。」
用意していた道を、いきなり断ち切られたようで、頭が真っ白になる。これ以上は何を言えばいいのか…。
結局何も思い浮かばなくて黙ってテオマスターを見上げた。彼はしばらく視線を外した後「えぇ、お受けいたしましょう。」と言った。
テオ「私やクレアたちの細やかな力でイベントを少しでも盛り上げることができるならこれ以上に喜ばしいことはありませんよ。」
よかった。思わず安堵の息が漏れる。嬉しさと驚きのあまり後ろにいるシェイラちゃんを振り返る。彼女も心なしか嬉しそうな顔で目が合い、頷いてくれた。
テオ「ただし、こちらからも条件があります。」
シキ「えっ…条件?」
不意をつかれたため、素っ頓狂な声が出た。その声にテオマスターが噴き出す。……いい趣味してんな、この人。
テオ「えぇ、こちらはあなたたちの実力が知りたいので。仕事をお任せする以上信頼できない相手とはやっていけないでしょう?ですがあなたに取ってはそれほど大変なお話ではないはずです。多かれ少なかれやられると思うので。」
シキ「えぇっと…その条件って…?」
テオ「こちらは星月夜シリーズに関する情報を求めます。」
シキ「星月夜シリーズ…。」
テオ「えぇ。今回のイベントには全グランドマスターが参加されることは知っています。となれば、当然星月夜シリーズも参加される。それでマスターシキさんは全グランドマスターに取材をされるのでしょう?このように直接お会いして。そうしたら、かのマスターにもお会いするはず。でしたら、かのシリーズについての情報を差し障りない範囲で教えていただきたいのです。」
シキ「…。」
テオ「あぁ、もしかしてもう取材は終えられていますか?業務の範囲内ですものね、本当に子供のおねだりのような簡単な話です。」
シキ「あ、いや…まだ…です。」
テオ「…。」
シキ「でも、なぜそこまで星月夜シリーズにこだわりを…?他の人には興味ないと…。」
テオ「…。あぁ、そうですね、訂正します。星月夜シリーズ以外のシリーズには興味がありません。かのシリーズに関しては特別興味があるんです。所属はタイプクレアとクラウンのみ。マスターもサーバーもユアディアルも不詳——謎だらけのシリーズです。それが同じグランドマスターで、仲間だなんてあまりいい状況じゃないでしょう?それにこれから同じイベントを盛り上げていくというのに。マスターに協調性なんて求めてはいませんが、ここまでいくと困りものです。…最低でもユアディアルの位置だけでも教えていただければあとはこちらで調べますので。」




