#26 ご主人様
*
結局ワープ移動してしまうから距離なんて関係がなかったが、次の提案をしてもらえることはありがたい。そうして、今日の目標の次なるグランドマスターは冬サーバーにいるテオマスターに決まった。
それから、ノアマスターの時と同様にユアディアルに行く前にテオマスターについてのレクチャーを受けた。また、視界いっぱいにこれまでのテオマスターの作品を並べてもらって講義を受ける。
……量が多いな。
テオマスターの所持IDollはクレア、シェイラ、クラウン、シエル。ノアマスターに比べるとIDoll数も少なく、また、シェイラクレア通称“シェレア”、クラウンシエル通称“クラエル”と二つのユニットに分かれているため、楽曲数はそこまで多くなかった。なんでもこの2ユニット体制は珍しく、一般的にはノアマスターのように基本1個体単位でプロデュースするか、所持IDollをまとめて1ユニットで扱うらしい。と言うのも、テオマスターが2ユニットをプロデュースするようになったのは割と最近の話で、もともとテオシリーズはシェレアだけだったとか。
…ふむふむ。
この、“シェレア”と言うカップリング名もテオマスターがクレア・テオとシェイラ・テオをプロデュースし、人気に火をつけたことで始まったんだとか。それから、人気も落ち着いて、周りの人もビッグウェーブにあやかりシェレアで活動する者が増えてきた現在、新たな波を起こすべく“クラエル”の活動が始動した、と囁かれているらしい。
…なるほど…そういうタイプの人か。
肝心の曲についてなのだけれども、なんと言うかとてもアダルティックだった。言葉で表すのなら妖艶、蠱惑、魅了、そこら辺の言葉が妥当なラインは決して超えていないのだけれども、聞いているだけでドキドキしてしまうとても大人な曲達だった。テオシリーズのIDollたちもそれに合わせた格好をしており、露出の激しさはIDollによりはするものの、どれも目のやり場に困るような、でもドキドキして目の離せない魅力的な子達だった。さらに目が離せない特徴として、彼らには耳としっぽがあった。いや、耳は通常でもあるのだけど、そういう通常の耳ではなくいわゆるケモ耳と言ったもので、クレア・テオちゃんならうさぎ、シェイラ・テオちゃんならねこ、クラウン・テオくんなら犬、シエル・テオくんならトラといった感じで動物と掛け合わされた姿をしていた。
愛玩動物かぁ…。
テオシリーズは本当に楽曲の配信しか行っていないようで、物語調のノアシリーズとはまた違う。テオシリーズにはテオシリーズで他のシリーズにはないことを行っているそうなのだ。それがテオマスターのユアディアルが一番リピーターが多い秘訣であり、それはユアディアルについてからのお楽しみ、とはぐらかされてしまった。
早速ユアディアルまで移動すると、その景色にノアシリーズとは違った驚きで立ち尽くしてしまう。シャンデリアが絢爛ではなく、意味深く照らす、暗さの方が目立つ先の見通せないほどの広い部屋。そこにはラウンジが広がっていて、カジノテーブル、ダーツ、ビリヤードを嗜む人々、バーカウンターやラウンジのブースで目の前の大きなステージで行われている…ライブの再現だろうか?テオシリーズの楽曲がホログラムライブで行われておりそれを見ながら社交を楽しむ人々で賑わっていた。わかりやすく大人な世界が目の前にあって、強引に引き上げられるような、背伸びを強要される感覚になる。さらに異様なことに、思い思い楽しむイストにはそのイストのIDollと思わしきIDollの他にどのイストにもテオシリーズの子がついていた。そう、同じクレア・テオ、シェイラ・テオ、クラウン・テオ、シエル・テオがたくさんいたのだ。
テオシリーズのIDollたち「「ようこそ、テオマスターのユアディアルへ。」」
シェイラ「ここは他のユアディアルと違ってぇ、ユアディアル内でほったらかしにされずにテオシリーズのIDollが接待してくれるんだよ。」
確かにどのイストも自分のIDollそっちのけでテオシリーズのIDollたちとの交流を楽しんでいるように見える。
シキ「この子たちは…。」
もしかして全て購入したIDollなのだろうか…?そしたら8人であの金額だったからこの数になると…目の回るような額になることは間違いなかった。
シェイラ「んー、クローン体じゃね?コピー&ペースト。みぃんな性能は一緒だと思うよ。」
それを聞いて少しだけ安心した。
しかし、ここは…古のキャバクラやホストクラブといったものだろうか。いや、もっと遊技場に近い気もする。
愛想よく相槌をし、お酌をしたり、うまくプレイを流し、イストを褒め囃してもてなす、テオシリーズをぼんやり眺める。今どきこんなことを自然にできる人間はまずいないだろうに、いや人間には難しいからこそIDollたちが得意なのだろうか…?ストレスを感じないから。でも彼女たちにも感情が…
『いつまで「好き」って言わなくちゃいけないの?』
『作られた(プログラミングされた)“愛”を伝えられて嬉しい?』
……
クレア・テオ「ここではお好みのIDollをご指名いただけます。」
ひょこんと長い耳が跳ねる。思わず視線が釘付けになる。生でケモ耳を見ると「うわぁ本物だぁ」という小学生並みの感想しか出てこないが、実感が持てて謎の感動を覚えた。そんなこちらの戸惑いなど意に介さず、クレア・テオちゃんは流れるように案内を続ける。う〜ん職人技だ。うまく決めきれなかった人には後がつかえないようにそのまま案内にあたった子が担当するのだろうか?当然、今日はそれが目的ではないため断りさせていただく。
シキ「今日はテオマスターにお会いしたくて伺いました。」
クレア・テオ「ご主人様に、ですか?そのようなご予定は伺っておりませんが…。」
シキ「…この度テオマスターが参加なさるイベントの運営の者とだけ伝えていただければ。」
クレア・テオ「…かしこまりました。それではお掛けになってお待ちください。」
今度こそ、クレア・テオちゃんの案内に従いラウンジのソファに腰をかける。それもほんの束の間で、すぐに奥から別の子がやってきた。その子はこちらの正面まで歩み寄り、裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をする。金色の髪。おそらくtypeクレアのIDollだろうが、先ほど対応してくれたクレア・テオちゃんとは異なり、際どい衣装の代わりにクラシックメイド服に身を包み、垂れ耳だった。雰囲気も蠱惑的な大人っぽさより、柔らかさがあった。
クレア・テオ?「お初にお目にかかります。ご主人様のシンパサイザー、クレア・テオでございます。この度はご主人様のマイディアルにお越しくださったこと、ご主人様に代わり御礼申し上げます。マスターシキ様。」
シキ「あ…えっ…?」
教えてもいないはずの名前を呼ばれて、思わず顔を上げる。
——なぜ、知っている?
クレア・テオ「どうぞこちらに。ご主人様の元へご案内いたします。」
半ば流されるように、抗う間もなく案内される。ラウンジの奥、今度は広間とは異なり一本の道のりになっていた。
歩き出したタイミングでシェイラちゃんが側に寄る。少し小声になってクレア・テオちゃんに聞こえないように




