#23 シンパサイザー
どうやら、ノアマスターはまだ学生のようだった。確かに、学園モノを細かく忠実に描くには学校関係者が最適だ。でも、まさか現役の学生さんとは。それが100万を超えるイストを抱えるアーティストだなんて、すごいな。
それからしばらくして校舎で散り散りになっていたみんなが集まってきた。それで、自分達はどういった者で、なんのためにここを訪れたのかもクレア・ノアちゃんに話す。その際、リアムさんにはお手柄だと誉められたが、余計な心配をかけたくなくてさっきのことは黙ることにした。クレア・ノアちゃんも察してくれたのか何も言わないでいてくれた。
クレア・ノア「今度の大きなイベント?うん、あたしもみんなと出るよ。イベントに出るなんていつぶりだろう…今からすごくワクワクしてるんだ!…へぇ〜みんなはそこの運営の取材を担当しているんだ!それでノアとあたしたちに取材がしたい、と。」
シキ「…どうかな?」
クレア・ノア「あたしはすごくいいと思う!その記事にノアのことが載ればもっとたくさんの人にノアのことを知ってもらえるんでしょ?だったら、あたしも手伝うよ!インタビューなんて初めてでドキドキしちゃうけど…。」
シキ「!じゃあ…!」
クレア・ノア「…でも、ノアがなんて言うかなぁ。あんまりいい顔しないかも。ノアってばそういうのみんな断ってるし、ちょっとシャイっていうか、人見知りっていうか、素直じゃないから…。…今、ちょっと聞いてみるね?」
クレア・ノアちゃんは肩にかけているスクールバッグから一昔前の携帯端末を取り出して通信をかけた。
クレア・ノア「…あ、もしもし?うん、あたし。実はノアに会いたがってる人がいて…まぁまぁそう言わないで〜!今度のイベント運営の人で取材をしたいんだって、話だけでも聞いてあげたら?ノアにとっても悪い話じゃないと思うんだ。いい刺激になるというか…う〜ん、そんなに嫌なら無理強いはしないけど…。あたしはちょっと…ううん、なんでもない!それじゃあ…」
話の流れが悪いことが容易に察せられる。
シキ「待って!通信、変わってもらえる?」
戸惑うクレア・ノアちゃんから若干強引に譲り渡してもらう。ここでせっかくの機会を拒絶されてしまったら今後ますます取り付く島もなくなってしまう。なんでもいいから興味を持ってもらわねば。
シキ「代わらさせていただきました。担当のものです。」
ノア「…俺は話すことないので。」
まずい、切られる。
シキ「そ、それとは別に耳寄りな情報も持ってきたんです!イベントについての!だから…」
ノア「じゃあ今教えてください。わざわざ会う必要もないでしょ。」
シキ「…。」
ノア「そもそも取材だって文面でいいでしょ。なんでわざわざそんな手間…。」
クレア・ノア「ノア!あんまりそんな物言い…!」
ノア「なに?間違ってないでしょ。それとも、クレアはそいつらの味方ってこと?」
クレア・ノア「違っ…!」
シキ「いいんですか?」
ノア「は?」
シキ「それだと、ノアマスターに不利に働いてしまう可能性がありますが。」
ノア「どういう意味。」
シキ「いえ、単に今回のイベント形式が視聴者投票の大会になったというだけです。いわゆる人気投票ですね。」
ノア「それが俺が不利になるのとどういう関係があるの。」
シキ「アーサーマスターやセシルマスター、他のグランドマスターの方々が快く取材を引き受けてくださる中、ノアマスターだけ文面となりますと、こちらも極力平等になるよう取り扱いますが…。」
ほとんど勢いだ。それでも、それを相手に勘づかれたらおしまいだ。なので、極力誠意を見せて申し訳なさそうに、時に真剣に考えるそぶりなんかも加えてみる。この結果がどう転ぶかはわからない、見透かされて怒らせてしまうかもしれない。でも、何もしないままこの好機を逃すよりかはマシだった。
シキ「我々は人と人とで生まれるものに価値を見出しています。だから、立ち会うことにこだわり、そして、その場にある雰囲気、ニュアンスを出来うる限りの力を使ってそのままお伝えできるようにする、そう心がけているんです。だから、どうかノアマスターの音楽に対する想いや、大切なIDollに対する想いを我々に伝えさせていただけませんか?」
ノア「…。」
クレア・ノア「ノア…無理しないでいいんだよ。ノアの思うように選べばいいと思う。」
ノア「…でも、クレアはやってみたいんでしょ?」
クレア・ノア「あたしはもっとたくさんの人にノアのこと知ってほしい。胸を張ってあたしの…大すk…自慢のマスターだって言いたい。でも、ノアが嫌がることを薦めるのは本望じゃないのも本当だよ。」
ノア「…じゃあ、話だけ聞く。別に承諾したわけじゃないから。でも、クレアにそこまで言われて断んのも情けねぇし。」
クレア・ノア「ノア…!」
クレア・ノアちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。
話が一段落ついてリアムさんが急いで耳打ちしてくる。
リアム「おい!イベントのことも取材のことも全部嘘じゃないか!大丈夫かよ!?」
シキ「嘘じゃないですよ。“まだ決まってないだけ”です。取材の件はどうせ通すつもりでしたし…。イベントのことは企画運営班もまだ決め兼ねてたみたいですし、ここは逆に貸しを作ったということで、なんとか話してみます…。」
リアム「ひゅ〜俺の後輩ちゃんってば大胆!」
シキ「企画運営班にはリズさんに話して通してもらおうと思いますがね。流石に勝てる気がしないので…。」
リアムさんが合わせて黙ってくれたことには助かった。今になって本当にボロを溢さないかヒヤヒヤしていた自分がいたことに気がつく。いや、まだ終わったわけではない。再び気を引き締めていこう。
それからクレア・ノアちゃんに案内されて。屋上に連れてこられた。どうして、学校を歩き回っているときに屋上は思い付かなかったんだろう。基本的に立ち入り禁止だったからかな。
そこは沈みかける夕日と街の全貌が見える絶景の場所だった。そこに一人の少年が作曲道具に囲まれて座っている。
クレア・ノア「ノア、連れてきたよ!」
ノア「…そんなことより、クレア、戦ったでしょ。」
人を連れてきておいて「そんなこと」で片付けられたことには驚いたが、それよりも先にクレア・ノアちゃんの動きが止まった。なんだかノアマスターは怒っているようだった。
クレア・ノア「う、うん…。この人が襲われてたから…。」
ノア「なんでクレアじゃないといけなかったの?他のIDollでもよかったじゃん。」
クレア・ノア「でも、あたしはノアのシンパサイザーだから。」
“シンパサイザー”と言う新しい単語に疑問を持っているとちょうどシェイラちゃんが耳打ちで教えてくれた。
シェイラ「“シンパサイザー”ってのはめっちゃIDollを持ってるマスターの中で一番のお気にのIDollにつけられる名前。そのIDollがマスターのシリーズの一軍的な。」
ノア「それ、理由になってない。俺、前に戦わないでってお願いしたよね?クレアにもしもがあったら気が気じゃなくなるから。お願いだからいなくならないで。」
クレア・ノア「ノアの気持ちはわかってる。でも、あたしノアのおかげで強くなったし、シンパサイザーだから一番力も強い。だから、絶対大丈夫な時だけ…」
ノア「俺の気持ち全然わかってないからそういうことするんだろ!?絶対なんてないんだよ!!それでなんかあったらどうすんの?取り返しつかないんだぞ。俺のこと悲しませる?失望させる?」




