#21 絶対会えるよ
シキ「どちらにせよ、街を相手に人探し、かな?」
クラウン「そうでもないんじゃないか?目星はある。」
そう言ってクラウンは真っ直ぐとある方角を指差した。
シェイラ「あーね?学校か!」
リアム「学校にいるのか?」
フィノ「ユアディアルには基本的にイストが訪れられる場所とマスターだけのスペースに分かれていることが多いです。」
シェイラ「人によっては許可を得たイストだけが入れるプライベートルームがあったりなかったりもすっけどねぇ。」
フィノ「それで、ノアマスターの場合は学園を舞台にした曲を多く書かれるので本拠地として学校を選ばれる可能性が高いんじゃないかって。」
リアム「そんな当て勘なのかよ。」
フィノ「うぅ…ごめんなさい…。」
リアム「違っ、責めてるんじゃねぇよ!!ただそういうのってマップとかでわかったりしねぇのかって…!」
縮こまるフィノちゃんにリアムさんが必死の弁明を見せる。
シェイラ「ん〜それはあったりなかったり。マスターによるっかなぁ。でも、大抵のマスターは自分の居場所は明らかにしないよ。それで面倒なイストとかが勝手に入ってきたらガン萎えだろうし。」
なるほど、マスターの居場所は“王座”じゃなくて、本当に個人の空間なんだな。
リアム「んじゃ、まぁ、当てもないしとりあえず学校を目指しますか。」
リアムさんのその一言で向かうべき場所が決まった。
街の中を歩いていると学生服を着ている人を多く見かけた。なんでもアイディアル内では想像するだけで自由に服装が変更できるため、ユアディアルの世界観に合わせた格好をして訪れることがブームになっているらしい。
学生服のイスト達は寄り道をしたり、土手でおしゃべりをしたり、それこそ本当に一昔前の学園をテーマにした作品のように放課後を満喫していた。
自分達が学生の頃は、学校をただの義務としか捉えていない人の方が多かったと思う。だって、気の合う友達なら、既にチャット上にたくさんいるから。わざわざ同じクラスに分けられたというだけで、よく知らない相手と仲良くするのは面倒だというのが彼らの言い分だった。
かつて学校は人と共生するための場所だったはずなのに、いつの間にか人を凌ぐための能力を競う場になってしまった。だから意味なんてないと考える人も多かった。必要最低限の会話だけを交わす、上辺だけの関係ばかりだった。
いや、正確には学校が嫌いだったんじゃない。あの場所を無碍にする人達が苦手だった。
だからなのか――
このユアディアルにいるイスト達は、失われた青春を取り返すように見えた。気の知れた友達と、理解してくれるIDollと共に。
それからしばらくして、学校に到着した。それは嫌に見覚えのある校舎だった。
リアム「ほぁーこれぞ学校って感じだな。…?どうかしたか?」
シキ「いや…。」
どこの学校も同じようなものなのかもしれない。だって他校を一度も見たことがないから、学校と言ったら確かにこんなもんだ。先ほど学生時代のことを思い出したせいか、無理に脳内で重ねようとしすぎていた。よく見たら見覚えのない箇所もある。もしかしたら、アイディアルの思いの力で脳内補正がかかってしまっていたのかもしれない。
校門をくぐると、同時にチャイムがなった。気が付けば日が夕日に変わり始め、空が赤みを帯び出している。そういえば、ユアディアルによっては陽の上り下りがあるとこもあると教えてもらったことを思い出した。しかし、不思議なことにあたりを見渡すと先ほどの街を歩いてきた時よりもぐっと人の数が減っていた。リアムさんが「なんだ、おねんねの時間か?」と茶化す。それもあながち間違っていなようで夕方以降は一時的に施設が閉鎖したり、イベント(街で偶然ノアシリーズの子達に会えたり、彼らのやりとりに遭遇したりできるらしい)がめっきり減ってしまうから、大抵のイストは一時的にユアディアルを出たり、どこか入ったりして時間を潰すらしい。この時間変化は現実とは連動していないらしい。理由も公表されておらず、一部ではノアマスターの采配だと噂されていた。マスターの権限が自由だとは聞いていたが、まさかここまでとは。
どうやら、ここのイスト達は楽曲で登場した場所の聖地巡礼や、この場そのものを楽しむことを目的としているらしい。そうなると色々できなくなり始める夕方が潮時なのも納得だった。
下駄箱にたどり着く頃には西日が差していた。校舎の中ならそこまで広くない。時間優先で手分けしようというクラウンくんの意見に賛同して、下駄箱の段差を跨ぎ、校舎に足を踏み入れた。夕日に染まる校舎はまさしく放課後の学校で、しんと静まり返った様子が最終下校時刻後の時と酷似している。他の人に下の階は任せて3階に上り、上から順に探してみることにする。長い廊下、変わり映えしない教室、整頓され並べられた机椅子。理科室や音楽室などの特別教室も特に鍵がかかっているわけでもなかったので立ち入ることができたが、どこもがらんと静まり返っていた。何度か窓辺の向こうには中庭を通過するフィノちゃんや、変な場所を探して大声で呼びかけているリアムさんの姿が見えた。あの感じだと二人もまだ収穫はないのだろう。そもそも学校にノアマスターがいる可能性が高いとはいえ、ノアマスターが今アイディアルにいるとも限らない。そうなると頼りになるのはノアシリーズのIDoll達だ。けれど夕方以降は遭遇率が下がるという。そう考えると急に不安になった。そのことを同じく3階で遭遇したクラウンくんにこぼすと彼は特に気にした様子はなかった。それどころか何処か余裕があるようにも見える。
クラウン「いいや。絶対会えるよ。…とにかく、マスターは考えすぎだな。そうだ、ここは大方見終わったし、俺が残りも見ておくからマスターは下の階を見てきたらどうだ?」
そう言ってクラウンくんはエスコートするように背を押した。
シキ「じゃあ、そうさせてもらおうかな。」
クラウンくんの提案を受け入れて下の階へ向かうことにする。一方クラウンくんは踵を返して影の濃くなってきた廊下に溶け込むように歩いて行くところまでを視界の端に収めた。
階段を降りて踊り場、さらに階段、それから下の階の途中で足を止めた。何かの気配がする。 クラウンくん?いや、彼は反対へ歩いて行ったはずだ。それに踊り場を降りる時までは本当に何も感じなかった。背筋が凍るような思いでなんとか振り返ると逆光の影が差し込んできた。
シキ「あ」
そこに立っていたのは、いや、そこにあったのは黒い何かだ。一瞬逆光によってうまく見えないのかとも思ったが、違う。逆光で黒いのではなく、それそのものが深淵のように黒いのだ。一度こんなのに出会ったことがある。そう、アリアちゃんのライブ帰り、クラウンくんに襲い掛かった『ノイズ』だ。
——動いた。
ズシリ




