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#19 一方通行

***


次の日、アイディアルを開いてみるとクラウンくんから都市伝説についてまた動きがあったと、報告を受けた。それは、例の掲示板の続きから、突如一つの匿名アカウントが都市伝説たちの名前を募り出したことから始まった。人々は面白半分で口々に名前を言い合っていたが、最終的に決まった名前を見た瞬間、思考が止まった。

——ミハル、ナツミ、チアキ、フユカ。

昨日、自分が口にした名前だった。まるで、昨日の一連の流れをもう一度見させられているかのような気分だった。クラウンくんはこのことについて何も言っていない。なんだか気味が悪くも感じたが、偶然だと言い聞かせて、昨日の収穫の追記として現状を纏めるだけに留めた。



??「…きて!…起―きーてー!ノア!起―きーてー!!」

少女の呼びかける声が部屋中に響く。ノアと呼ばれた少年はその声が頭に響くのか顔を歪めて煩わしそうにただ寝返りだけ打った。

ノア「うぅ…。」

朝の陽だまりが大雑把に占めたカーテンの隙間から溢れる、少年の部屋。

??「『うぅ』じゃないよ!!ノア!遅刻しちゃう!」

ノア「あと5分…。」

??「無理だって!今がその5分後!もうこれ以上は本当に遅刻しちゃう!!」

ノア「いいじゃん、遅刻したって…うるさいな…。」

??「あ〜はいはい。じゃあもう起こしてあげないから!勝手に遅刻すれば?その代わり、端末全部シャットダウンしてやるし、進めてたゲームデータも作曲データもどうなっても知らないから!!」

ノア「…は!?」

少年は慌ててベッドから飛び起きる。少年の部屋に懸命に起こしてくれた少女はいない。それでも声は少年に話しかける。

??「だって、学生をちゃんとすることができなければそういうのダメってノアのお母さんと約束してるでしょ?」

少年はまだ眠そうに目をこすりながら枕元にある携帯端末に手を取った。その画面には少女型IDollタイプクレアが少年に話しかけていた。

クレア「だってあたしはノアのお母さんにノアのこと任されてるし、そういう約束でアイディアル買ってもらったんでしょ?…あ、起きた?おはようノア!」

ノア「…おはようクレア。」

クレア「ふふっ、すごい寝癖。」

ノア「え、マジ?」

クレア「さ!せっかく起きたんだからそのまま制服着替えて、朝ご飯食べて一緒に学校行こ!」

ノア「はぁ、めんどい…。」

クレア「でも、あたし制服着てカッコよくキメてるノア好きだよ?」

ノア「…!」

少年は起き上がり、いそいそと支度を始める。少女は端末の画面から滑り出るように現れた。

照明が勝手に点き、端末が起動し、制服が整えられていく。

クレア「それに、次のテストで頑張ったらご褒美にあたしのアンドロイド体を買うって約束でしょ?あたし、ノアに会えるの楽しみにしてるんだから。」

ノア「俺もすげぇ楽しみにしてる。」

クレア「だから、今日も頑張ろう?」

ノア「うん、クレアと一緒なら。」

少女は最後に少年の部屋の電子ドアを開けて少年をくぐらせた。少年が部屋を出ると、少年の家族たちが朝の穏やかな時間を送っている。

ノアの母「また今日もギリギリね。おはよう、クレアちゃん。いつもありがとうね。」

クレア「おはようございますお母さん!」

気がつけば、少年のすぐ隣に少女はホログラム体としていた。少年は少女の計らいで既に提供口に出されている、AIによる完全栄養食を食卓に運び、席に着いた。

ノアの母「あ、そういえばノア!あんた進路表勝手に捨てた(デリートした)でしょ!あれ、次の面談で話すんだから提出物なんじゃないの?」

少年の母親は進路表と書かれたPDFファイルを少年の前に出した。少年はちらりとそれを見るが特に気に留めず、すました顔で朝ごはんを口に運ぶ。

ノア「…別に。」

ノアの母「別にって…。提出物じゃないとしても、あんた進路はどうするつもりなの?」

ノア「知らない。」

ノアの母「ちょっと、人が真剣に話してる時はちゃんと聞きなさいって言ってるわよね?怒るわよ?…母さんは成績も申し分ないんだから将来のためにも進学を」

ノア「それ今話さなきゃいけないことなの?俺遅刻しそうなんだけど。ご馳走様。」

少年はさっさと食器を食洗機に下げる。

ノアの母「ちょっと…!朝ご飯くらいちゃんと…!」

ノア「食欲ないし、時間ない。じゃ。」

それから、隣の席に置いた鞄を引っつかみ足早に玄関に向かい、電子ドアは心なしかぶっきらぼうに閉まった。

それと同時に彼の姉が事態を見計らって眠そうに部屋から出てきた。

ノアの姉「ふぁ〜あ。遅刻しそうなのは自分がいつまでもぐずぐず寝てたせいでしょ。いつまで思春期拗らせてるんだか。クレアちゃんもあいつに何か言ってやってよ。」

クレア「…。お二人の意思は極力伝わるよう、努力しますね。それじゃあ、あたしもいってきます!」

少女型IDollは困ったように笑うだけだった。そうして家内のホログラム投影機は切れた。

ノア「将来のため、あなたのためって馬鹿らしい。俺の何を知ってるって言うんだよ。」

今日から本格的な取材活動が始まる。取材を有利に進めるには、対象の徹底的なリサーチが必要だ。早速アイディアルにダイブして、リサーチから始めようとしたら、既にIDollのみんながアイディアルにある持ちうる限りの情報を集めてくれていた。それをマイディアル内で合流したリアムさんと並んでレクチャーを受ける。リズさんは見当たらない。実際のオフィスでも見かけることはなかった。まぁ、それは実際よくあることで昨日も単独行動を宣言していたし、きっとその続きをどこかで遂行しているのだろう。それはそうとして、リアムさんと二人揃って初歩の「しょ」の字もわからないレベルなのが不安要素だったのだが、そこを理解してかIDollみんなのレクチャーは非常に丁寧なものだった。とりあえず、一度にたくさんの知識を入れても混ざってしまう可能性があるため(特にリアムさんは)ノアシリーズのレクチャーだけをシェイラちゃん、フィノちゃん、クラウンくんの元で聞いた。

シェイラ「…とまぁ、ノアシリーズはこんな感じ?」

視界いっぱいにはこれまでのノアシリーズのMV(楽曲映像)が一覧で再生されている。ノアシリーズは所謂『学園モノ』だった。アーサーシリーズに次いでイストの数が多い、実質グランドマスターの中で1番なのだとか。ここと同じく8人全員のIDollを所持しており、その全員が同じ学校の生徒として設定されており、彼らの恋模様を物語のように展開させる音楽様式が非常にユニークで面白かった。楽曲としてはソロ曲、カップリング曲、グループ曲など多様な組み合わせで展開されており、楽曲数がアイディアルの中でもトップを争うほどらしい。どこにそれほど多くの楽曲を生み出す発想力があるのか。それは、この話が現在なお進行しているところなのかもしれない。曲が更新されるたびに、彼らの心や関係がどう発展していくのか。それを心待ちにしているイストが多いことは容易に想像できた。そうやって掴んだ心を離さないところが人気の秘訣だと読み取れた。さらに聞いてみて面白かったのがその設定で、クレア・ノアとクラウン・ノア、シェイラ・ノアとシエル・ノアは兄妹であるが、一方でフィノ・ノアやニーナ・ノアは、対の存在だからといって血縁関係とは限らない。そうした設定もカップリングの幅を広げていた。

8人だけでここまで多彩な恋模様を描いていることに驚いた。むしろ、8人でよくここまでやったなと感心してしまう。シェイラちゃんたちが公式に発表されている相関図を持ってきてくれたが、それは非常に複雑で初見で覚えられるものではなかった。幼馴染、双子、兄妹、百合、BL、王道の男女の恋だけでなく、その関係性に関する曲もやっぱりどれもが人気で、彼らの歌から恋をする勇気をもらった。自分の恋の理想として参考にしている。そんなイストたちの声も数多く寄せられていた。しかし

リアム「みんな一方通行なんだな。」


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