#18 始祖の名
『IDollがいなくなった。』
『IDollが帰ってこない。』
『IDoll行方不明。』
『IDollに否定された。』
『IDollが命令に反抗してきた。』
『IDollに拒絶された。』
『マイディアルが壊れた。』
『マイディアルがよく映らない。』
『突然何かが壊れる音がした。』
『は?いなくなったって?』
『一番の理解者を謳うIDollが理解を示さなくなったのか?』
『壊れた?突然?』
『1日経ってもマイディアルがもぬけの殻。』
『いや、そんなはずないよな。IDollはマスターを全肯定するようにプログラムされてるよな?マスターの命令は絶対だよな?』
『突然、情報が乱れて。別に大した損傷ではないけど、絶対おかしいよな?』
『ちょ、詳細プリーズ。事前に異変はなかった?』
『流石にそれは運営に問い合わせた方がいいだろ。』
『異変、あった。なんかマイディアルにいたのに何処かからうっすら歌が聞こえてきた気がする。』
『そう、歌が。なんだか不気味だった。』
『それからだよ、色々おかしくなったのは。』
『歌?ってことはどこかのマスターの仕業か?』
『そんな場所が不特定なマスターなんて星月夜シリーズくらいだろ。』
『いや、星月夜の曲調じゃなかった。どちらかというとクラリスシリーズ系。』
『結構鬱々としてるのか。』
『あれ聞いているだけで普通に頭イカレると思う。』
『歌声は?歌を聴いたんだろ。』
『IDollの歌声だったよ。』
―春はフィノ。
―秋はニーナ
―冬はシェイラ
に似ていた。
『夏もさ、変な子を見たんだ。』
『子?マスターやIDollじゃなくて?』
『一瞬のことだったから気のせいだと思ってたけど、どっちも違うんじゃないか…。どう違うかは説明できないけど。』
『おい!お前らみんな揃って都市伝説のせいにする気じゃないよな!?』
『年端もいかない女の子でしょ?やたら眼光のある。それなら見た。次の瞬間にはもういなかったけど。』
『あとさ、なんか説明しづらいんだけど、夏サーバーの闇とか影とか暗過ぎない?たまに何かが潜んでるように感じるんだけど。』
『それは怖がりすぎだろ。』
『でも、やたら暗いところを怖く感じるようになったのはわかる。』
『マジで都市伝説はあったってこと?やべーじゃん。』
『夏まで異変があるならもう終わりだよ。安全なサーバーはどこにも無くなった。』
『実害ないからまだマシじゃん。』
『中央サーバーがあるだろ。』
『アイディアルサービス終了か?w』
『それは大袈裟w』
『そもそも中央にこういう異変がないから対処されてないんじゃないの?』
『運営無能か?』
『まとめると、始祖たちの権能は冬担当が破壊。』
『おいおい、まだ都市伝説ごっこするのかよ。』
『春担当は拉致?いや、自力で歩かせて洗脳とかもあるかもな。』
『秋担当こそ洗脳じゃないの?』
『いやー、反抗はマイディアルやマスターによるだろ。友達のIDollとかいつ反抗してもおかしくないような扱いされてるし。』
『じゃあ、反抗できるようにプログラムの書き換えとか?』
『なにそれかっこいい。』
『天才か?』
『夏はまだ謎かー。この感じだとバグを操るとか。』
『全部総じてバグだろ?』
『いっそ全ての権能を使えても良き。』
『残り3人の親玉、統合系?』
『なんなら、インターネットの全てを使えたら強キャラ感あっていい。』
『チートすぎるだろw』
『そっか、消したはずの始祖。この時点で存在がバグか。』
『開発者からしたらとんでもなく怖いだろうな。』
『始祖ちゃんたちクレアたそばりに可愛いと興奮する。』
『はぁ?シェイたんの方が可愛いだろ。』
『フィノちんとは両思い。』
『ニーナんのかわいさがわからないとか死んだ方がいい。』
『メンズこそ神。あの肉体美を見よ。残念ども。』
『ホモォ』
『おい、自分のIDoll自慢と派閥争いは他所の掲示板でやれ。』
ここで更新は止まっていた。
アーサーマスターのユアディアルで会った少女はもしかしてこの話に出てくる子じゃ…。路地の闇といい一致することも多かったが、反対にこの話で言う担当が夏であることが外れていた。でも仮に同一人物だとすると、この話に出てくる“夏担当”とは一致しない。何かが起きて担当から外れたのだろうか。それで…クラウンくんを襲った“ノイズ”は“バグ”そのもの。そして、アリアちゃんを襲ったあの事故もやっぱり事件なんかじゃなくて――
「マスター。」
振り返るとあの時と同じようにクラウンくんが立っていた。
シキ「クラウンくん、もう大丈夫?」
クラウンくんは先の事故で怪我をしたのを治すために別の場所にいた。そこにはシェイラちゃんが付き添って治療してくれていたはずだけど。
クラウン「あぁ、お陰様でな。マスターはなにを見てたんだ?」
シキ「アイディアルの都市伝説をね。」
クラウン「都市伝説?」
シキ「うん、バグで生まれたIDollの始祖ってやつ。」
クラウン「…名前をつけてあげたら?」
シキ「えっ?」
突拍子もないことを言われて思考が止まる。それを見たクラウンくんが補足をした。
クラウン「ほら、4機いて、全員始祖なんだろ?担当とか言うのも面倒だからこの際呼び名をつけてあげれば楽なんじゃないかって。」
シキ「名前かぁ…。」
それは一理ある。名称不明のものは仮にAだのXだのを置いて呼び易くするものだ。
クラウン「マスターならなんてつける?」
つけるのであれば、せっかくだからその季節に冠した名前をー
シキ「ミハル、ナツミ、チアキ、フユカ。かなぁ。」
クラウン「…いい名前だね。ありがとう。」
思わず聞き返そうとした、その瞬間にはもう話題が変わっていた。
クラウン「マスター。その4機がどうして捨てられたと思う?」
シキ「クラウンくんは都市伝説信じてるの?」
クラウン「人間は、多数が信じたものを現実みたいに扱うだろ。このアイディアルでは、それが本当に形になることだってある。」
いきなり小難しい話を振られて困惑する。しかし、クラウンくんは気にも止めずに続ける。
クラウン「アイディアルは夢の世界。そしてこの話は、それだけ多くの人に広まってるってことだよ。まぁ、俺たちはIDollだからマスターに合せるけどな。」
シキ「…。」
クラウン「それでどう思う?」
どう思うかと聞かれても。
シキ「…う〜ん、何も情報がないから予想にもならない、希望になるけど、きっと何か事情があったんじゃないかな。開発段階には色々あると思うし…捨てたって言うのは語弊があるのかもしれない。」
クラウン「…。…マスターは優しいんだな。」
それは本心なのか、それともただそう言っただけなのか、わからない一言だった。
シキ「クラウンくんはどう思ってるの?」
クラウン「…俺に聞くかぁ。マスターは変わってんのな。」
シキ「だってクラウンくんが聞き始めたことだから。」
クラウンくんはどこか遠くを見て「それもそうか」と独り言のように呟いた。
クラウン「…もし、製作者の望む通りに、完全にできないことが事情に含まれるのなら、マスターの言ってることは半分あってるんじゃないか?不都合だったから。それも“そっちの都合”で、身勝手に、一方的に消したんだ。」
シキ「…。」
クラウン「…なんてな?俺も確かなことは言えないよ。…さ、マスター、もう夜も遅い。明日も仕事があるんだろ?休んだほうがいいんじゃないか?」
シキ「そうだね。一通り知りたいことは知れたし、今日はもういいかな。…そういえばみんなは?」
前回のログアウトの時を思い出す。みんな集まって笑顔でお見送りをしてくれた。でも、今はクラウンくんしかいない。
クラウン「マスターがみんなに仕事を頼んだんだろ?ちゃんとキッチリやってると思うぞ。」
シキ「そっか…。」
後から自分の相槌に違和感を持った。「そうだった」ではなく「そっか」。納得を表す相槌。なんだかどこか腑に落ちない。クラウンくんの言い回し的にそのほうが適切だと思ったんだけど。
クラウン「あぁ、だからマスターは気にしなくていい。…じゃ、また明日。」
まぁ、ただの言い間違いかもしれない。
シキ「うん、また明日。」
そうして、どこか謎にモヤモヤしたものを残して打ち切るように白い扉が閉じていった。




