#13 夢の歩き方
リアム「スッゲェな!テーマパークみてぇ!」
フィノ「マップもちゃんとあるんですよ。」
シエル「あっちの緑が生い茂ってるところは夜の森―。夜空や蛍がすげぇキレーなんだぜ。」
ニーノ「各サーバーその季節の美味しいとこ全部詰めパックみたいな内容になっています。」
シェイラ「そ!夕方はあっちで朝焼けはそっち!」
シキ「1日で日が登って降りたりはしないの?」
クラウン「サーバーではしないな。ユアディアルだとマスターの設定によってそういうところもあるよ。」
クレア「サーバー間を歩いて移動する場合は夏サーバーは南に位置しています。なので北を向けて歩けば移動ポットへ着きますよ。」
風鈴の天井、風車の壁、蛍の群れ、夕焼けの海、数えきれない絶景が過ぎてゆく。本来ならまっすぐ一本道でたどり着けるらしいのだが、今回は特別ということでマイディアルを置いたサーバーだからとアリアちゃんのライブが始まる時刻まで夏サーバーを案内して回ってくれた。道々にユアディアルに繋がるポイントがあって、途中グランドマスターのジョゼマスターのユアディアルに繋がるポイントは見つけることができた。他にも、同様にIDollから説明を受けながらサーバーを散歩しているユーザーや他のユーザー同士IDoll同士が集まって楽しんでいる様子もみえた。道中、アイディアルは人々の想像力や夢によって姿を変えるのだと説明を受けた。だから定期的なアップデートは必要ないらしい。強く願われたものほど、この世界では形になり、根付いていくのだとか。ここでいう意志の強さはユーザーの思い込みとその数らしい。例として、リアムさんが念じると鳥笛が蒼い生きた小鳥に代わり、リアムさんの首元から飛び立って肩に留まった。
リアム「何でも思い通りなんだな…。」
この面白い現象に興奮して喜ぶかと思ったけど、肩に留まる小鳥をじっと見つめ、つぶやくリアムさん。その表情はどこか複雑で、らしくない調子のつぶやきが妙に引っかかった。
クレア「そうなんですよ!そこがアイディアルのすごいところなんです!!」
そう熱く語るクレアちゃんとリアムさんは温度がチグハグで噛み合ってないように見えた。
何でも思い通り、というのは、理想であるはずなのに、どこか物足りなさも感じた。
しかし、これは一時的なものに過ぎないらしい。十分ほどすると小鳥はまたリアムさんの胸元へ戻り、木製の鳥笛へと姿を変えてしまった。それを長期的なものにするためにはたくさんの人がその鳥笛は生きた小鳥だと想えばそうなる、ということらしい。なんとなく理屈はわかる。でも馴染みがなさすぎて実感が湧かなかった。どうやらこれは端末からの接続では起こらない現象らしい。ダイブによってアイディアルへ接続した人間だけが持つ創造性で、それはまさしく寝ている時に見る夢と同じようなものだと言われた。なんとなく、夢に近いものだということだけは理解できた。
クラウン「さて…そろそろか?」
クレア「もちろん、完璧だよ。と、いうわけでここが他サーバーへと繋がる道になっています。本来ならここにある道をまっすぐ行くとたどり着くようになっているんですよ。」
クレアちゃんの指し示した道の終着点に鏡があった。
シキ「えっと…鏡、だよ?」
リアム「鏡だな。」
クレア「はい、鏡です。ここに触れることでサーバーの移動ができるんですよ。サーバーの移動にはどうしてもロードを挟まないといけないのでこのような仕様になっています。」
クレアちゃんの案内の元、そっと鏡に触れると、触れた先から優しく吸い込まれるように体が沈んでいった。目の前には理想の常夏はなく、真っ白な空間にオプションウィンドウと同じようなサーバー選択画面が表示されていた。そこの中央サーバーを選択すると次の瞬間にはネオンいっぱいの高層都市が広がった。その都市には見覚えがあったネオンとホログラムに満ちた明るい夜。そこはチュートリアルでアリアちゃんと出会った時の背景と全く同じであった。次に遅れて先ほどの夏サーバーとは比べ物にならないユーザーがサーバー内をIDollと共に歩いていることに気がついた。どうやらその人の波は同じ方向へと流れているようだ。
リアム「は〜、人多いな!」
クレア「ライブが間もなく始まりますからね。アーサーシリーズはグランドマスターの中でもイスト登録者の数が最多です。加えて今日は単独ライブとはいえ一番人気のアリア・アーサーのライブですからこの人混みになってしまうのもしょうがないですかね〜。まぁ、定期ライブだから結構抑えられている方ですけど。」
シキ「少し気になってたんだけど、その呼び方って…?」
クレア「これはあたしたちIDollは皆同じ個体で同じ名前だから区別をつけるための苗字みたいなものです。あたしたちだったらクレア・シキ、フィノ・リアム、ニーナ・リズといった感じでイストの方々に呼ばれるようになるんですよ。」
リアム「でも、アリアは唯一の個体なんだろ?なら、必要ないんじゃ…?」
フィノ「確かにそうなんですけど、マスターの名前と一緒に呼ばれるとマスターのIDollなんだなって思えて嬉しいんです。だから、私たちは単に名前で呼ばれるよりシリーズで呼ばれることを好みます。」
IDollが呼び名に対して特別感を感じ、好みを示している…のか。
リアム「それにしても改めてすごい人だなー。」
シキ「こんなに人いて、そういえばチケットとかって…?」
ニーノ「必要ありませんよ。別にライブするのに場所代や特別お金がかかっているわけでもありませんから。マイディアルで勝手にライブをやってそこにたくさんのイストが見に来ているだけです。」
シエル「そーそ。突発ライブとかも結構やってるしなぁ。」
フィオ「新曲が完成した途端とりあえずライブで発表してみてイストの反応を見るマスターも少なくないよ。」
クラウン「もし、人混みが苦手や酔ってしまうようなことがあったら言ってくれ。オプションウィンドウから表示の変更が行えるからな。」
シキ「変更って…?」
聞くとクラウンくんがパチンと指を鳴らした。瞬間今までいた人が嘘のように街は騒然と静まり返った。
クラウン「こんな感じで他のイストをミュートにすることができるんだ。」
シェイラ「ライブは人と一緒に共有する空間が臨場感あってエモくて良きって声も多いから選べるんだよー。」
クレア「後は、端末から接続の場合一人称視点とあたしたちIDollと視覚を共有する2視点からも選ぶことができるんですよ。」
リアム「IDollの視点?それって何に使うんだ?」
フィノ「一番はユーザーが姿をアイディアル内に現さないで済むことですね。前にニーナちゃんが話していたことに引き継ぎますが、これも匿名性に関する話ですね。」
リアム「お前たちは大丈夫なのか?」
シェイラ「大丈夫って?」
リアム「ほら、人酔いしないか、とか。」
フィノ「私たちの心配をしてくれるなんておかしなマスターですね。」
フィオ「ボクたちにはそういう感覚はインストールされていないから大丈夫。」
リアム「そっかそっか!やべぇ、こういうのもお前たちには失礼なのか…?」
フィノ「私たちに失礼とかありませんよ。マスターのIDollなので。でも、気遣っていただいてありがとうございます。」
リアムさんの気持ちもよくわかった。彼らは本当に精巧に作られていて、一番の理解者になるという謳い文句は偽りでないと確信できるほど、人間的だった。人間と比べても違和感がないから、物として扱うなんて到底できない。なので、もちろん対等に扱うし気遣いも遠慮もする。それがIDollに対する適切な接し方かはわからないけれども。
——少なくとも、“ただの機械”だと割り切ることは、もうできそうになかった。
クレア「…さて、ここがアーサーシリーズのライブ会場です。」
シキ「ここは…。」
クレア「見覚えがありますか?ここはIDollユーザーが一番初めに見るライブ映像とアリア・アーサーによるIDollセレクションのチュートリアルを行った場所ですよ。」




