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#9 勝算

シキ「だから効率のためにもこれからのためにも全種類のIDollを揃えました。」

ルベン「う〜ん…まぁ、有用性はわかった。あとはここまで高額になると社長の許可も必要となってくるから…社長からGOサインが出たら一社員の僕なんか口を挟む余地なんてなくなるしね…それにしても金額を確認したけど、相変わらず高いは高いけど、それにしては随分と安いね?僕も一度IDollを買ってみようとした時金額を確認したから、それからだとこんな金額にはならないはずなんだけど…。」

シキ「複数購入には割引が効くとはアリアちゃんが言ってましたけど…あとはリズさんが何やらやり合ってたみたいなのでその結果かと。」

ルベン「なるほどね、確かにあの人ならやってのけそうだ。」

ヴィンセント「そういうの不正購入って言わない?コネとかなんか使ってサァ。律儀にまともな金額支払っている人に申し訳なく思わないの?みんなと足並み揃えられない人にはわからないか。外れ者に”みんな”とか。」

リズ「それはこちらのセリフだよ。」

突然のリズさんの登場に場にいた皆が驚いた。リズさんはそんな反応など意にも介さず続ける。

リズ「他人と関わることを恐れ、己の殻に閉じこもった隠遁者ばかりじゃないか、この世は。ま、それを君個人に言ったってどうしようもないのだろうけれど。少なくとも、“自分”を相手に曝け出す勇気のない人にはねぇ?」

ヴィンセント「!」

リズ「ついでだからもう一点反論させてもらうよ。僕は一方的な値引きは要求していない。きちんとした交渉のもと互いの合意の着地点さ。ビジネスとはまさにギブアンドテイク。こちらからもお金ではない別のものでその対価はきちんとお支払いしているのだよ。さらにいうと、たった今社長から許可をもらってきた。ルベンくんたちの大好きな書面でね。これでもう誰にも文句は言えないだろう。」

ルベン「わぁ!本当に許可下ろしてきちゃったんですね!あの頑固な社長を…よくできましたね?」

リズ「まぁ、アイツにはちょっとしたコツがあるのだよ。それこそ脅しのような、ね。」

ルベンさんは先ほど渡した書類とリズさんからもらった書類を合わせて丁寧に確認していく。

リズ「ところで、企画運営チームはなんだか難航しているようだね。このイベントはアイディアルのこれまでの中で最も大きなイベントになる、まさかそれがただのコンサートライブなんて面白味のない平凡なもので収まるわけがないだろう?我が社が全て担っているイベントなんだから。ねぇ、ヴィンセントくん?」

ヴィンセント「えェ、もちろん。ご心配なく。現在打ち合わせ中ですのでリズサンが口を挟む余地はないかと。」

リズ「そうか、それは楽しみだ。だが、まだ打ち合わせ段階とは難航しているのは本当だったようだね。」

ヴィンセント「えェ、せいぜい指を咥えて楽しみにしていてください。聞こえませんでしたァ?抜かりなく粛々と進めておりますのでご心配なく。」

リズ「君は本当に可愛げがないねぇ。実力が上な先輩を敬うことを知らないのかい?」

ヴィンセント「リズサンにだけは言われたくないですねェ。貴方だって人を敬う心はお持ちでないでしょう?」

リズ「…。」

ヴィンセント「…。」

え、笑顔が怖すぎる。空気が完全に氷点下の如く冷え切ってしまった。お願いだから早く、ルベンさん書類確認を終えてなんとかしてほしい…!

ルベン「…はい!必要な書類は全て受け取りました。あとはこちらで処理しますね。」

ヴィンセント「おい。」

ヴィンセントさんは今度はこちらに声をかけてきた。腹いせに何をされてしまうのだろうか…。

シキ「はい。」

ヴィンセント「アイディアルの取材をするってことはIDollだけじゃなく今回イベント参加者のグランドマスターたちにも取材するんだろ?」

シキ「そうですけど…。」

ヴィンセント「グランドマスターはアイディアルに存在意義を見出した、お前の上司の言葉を借りるなら隠遁者、引きこもりばかりだ。精神的にも物理的にもな。そんな奴らに大衆への取材だって?笑わせるねェ。絶対に無理。特に土足で踏み荒らすようなお前たちなんかに姿だけでも表したら終わりだって、本能的に察されちゃうんじゃなァい?」

シキ「何が言いたいんですか?」

ヴィンセント「だからさァ、取引をしようよ。ビジネスはギブアンドテイクなんだろ?全部こっちに委ねちゃいなよ?お前たちはお前たちらしく機械に抗ってればいいじゃん。そこらにビラでも配ったりさ。受け取ってくれる人間がいるかは知らないけど。こっちはアイディアルの勝手がわかる。それに何だったら勝算がー」

リズ「ていっ。」

リズさんが自立式ホログラム投影機を蹴った。ホログラムは激しく映像を乱し、何も写さなくなってしまった。

ルベン「えー!?壊した!!?」

リズ「いやーうっかりうっかり!僕ってば足癖が悪くてねぇ。それに極度の機械音痴だからうっかり機械やっちゃった☆」

絶対嘘だ。さっきの異様なタイピング速度を見たあとで信じられるわけがない。

リズ「全く、自分の仕事をきちんと終えてからちょっかいを出せばいいものの。まぁ、彼なりの親切だったり不器用だったのかもしれないけれども、僕はシキくんほど心が広くないんだ。やっぱりあの物言いはムカつく!」

ルベン「まぁ、突飛な発想ならリズ先輩のチームの方が得意そうですけど、仕事量を考えるとチームの人数的にリズ先輩のチームでは無理がありますからね。だからと言っても仲良くできないんですかね…。」

リズ「向こうが相応の態度を見せたら僕だって考えるよ。」

シキ「あーあ。肝心の勝算とやらを聞き出すって手もあったんですよ?」

そう言ってみながら、機械を触ってみる。構造とかはリズさん以上にわからないけれども外傷は全くないことから、リズさんはどうやらピンポイントで電源を蹴ったようだ。ここまでくると、逆に本当に足癖が悪いのかもしれない。

リズ「それは僕のいないところでやってくれたまえ。何てったって足癖が悪くてねぇ。この足は僕の意識とは関係なく、言うことを聞いてくれないんだ。困った困った。」

微塵も困ってる風には聞こえない。でも、まぁ、反応には困ってたし助けられたと思って感謝はしておこう。心の中で。本人はただ純粋に腹が立って腹いせにやっただけかもしれないけれども。

シキ「そういえば、ルベンさん、ヴィンセントさんとはお取り込み中にお伺いしちゃいましたけど要件は大丈夫でしたか?」

ルベン「また後で通話繋げてみるよ。しばらくは本当に不機嫌だろうからね。」

リズ「おや、それはすまないことをしたね。いつも足を運んでくれていることといい。」

ルベン「いや、まぁ、リズさんにはいつも良くしてもらってますし、このくらいならどうってことないですよ。」

リズ「そうかい?僕、遠慮は全然しないからね?社交辞令は効かないよ?」

シキ「それは本当ですね。なので、無理なら無理ってちゃんと言った方がいいですよ。」

ルベン「ははは。それが通じるならまだいい方ですね。ウチの上は微塵も話を聞かないので。はぁ、移動が願えるのであればリズさんのところに行きたいかも…。」

リズ「それは僕たちとしては歓迎だけど。君の上が無理だろうね、現にホラ。」

リズさんがルベンさんの背後の廊下を指差す。あー確認できる。あの歩き姿は。

ルベン「げっ!?なんでアンタこんなところに来てるんですか!?」

ギルバート「ルベンクン!!元気してたかい?変わり映えしないぼんやりfaceはいつみても安心するねぇ!なぁに答えは簡単サ、あのリズ班がアイディアル参戦という面白い話を君に預けたmy honeyから聞いたから顔を出しに来ただけサ!」

ルベン「あー…そうですか…ちゃっかりディスんないでもらえます…?」


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