97 設定通りにしなかったのは現実的な理由だった
図書館のライブラリーってなに?
よく解らないワードに戸惑っていると、エクレアがこんなことを聞いてきたんだ。
「もしかして、アイリス様。城の図書館に行ったことなかったりします?」
「えっ? ああ、そう言えば行ったことないかも」
ゲーム時代にLサイズの家を買って建てた時に、一応すべての部屋は見て回ったのよ。
でもこの世界に来てからは、城が広すぎて流石にすべての部屋を回るなんてことはしてなかったんだ。
だから行ったことが無いと素直に打ち明けると、エクレアからそれはもったいないですよと言われてしまった。
「それじゃあ、今から行きませんか? この子たちも、今じゃ図書館のとりこなんですよ」
「すごいんだよ!」
「おもしろいの、いっぱいだもん!」
エクレアの言葉に賛同の声をあげる子供たち。その様子からすると、私も知っている図書館とはまるで別のもののように思えてくるのよね。
「それなら行ってみようかな」
「やったぁ! それじゃあグレイターZを仕舞っちゃうので、それが終わったら一緒に行きましょう」
エクレアはそう言うと、横でひざまずいているグレイターZの元へ。軽く手を触れると足元に大きな魔法陣が現れて、その巨体はその中へと静かに沈んでいったんだ。
「なんか、ロボットアニメの格納シーンみたいね」
「出てくるときも同じように地面からせり出してくるから、余計にそう見えますよ」
呼ぶと頭から順番に出てくるグレイターZ、それってまさしくアニメの通りじゃない。
そう思った私は、それは無いだろうなぁと思いながらも気になったので聞いてみることにした。
「操縦席との合体は? アニメだとバイクがジャンプしてひざまずいているグレイターの頭に飛び込んでたけど」
「ゴーレムでは、流石にそこまではできなかったです。そもそも、操縦もしてないし」
操縦席を模したところに乗ってはいるものの、流石にゴーレムを自分で動かしているわけじゃないみたい。
ある程度の命令はできるけど、そこからはゴーレムが自分で判断して動いているそうな。
「一応自立型のままなんだ」
「馬型のゴーレムを走らせるのと違って、人型は動きが複雑だから操縦するなんて無理ですよ」
確かに木が倒れないようにつかんでから斧で切るなんて芸当、自分で操縦しようとしたらとんでもなく大変かも。
それなら命令だけして、あとはゴーレムの意思に任せてしまった方がはるかに楽だろう。
と、ここで斧で木を切ると言うワードから、私は先ほど疑問に感じたことを思い出したんだ。
「そう言えば、なんでグレイターZなの? 斧ならゲットマジン1だと思うんだけど……。それとも、図書館のライブラリーになかったとか?」
「ありますよ。でもゲットマジン1はマントがひらひらするし、何より飛ぶでしょ。これは元のゴーレムの形を変えただけだから」
そう言って笑うエクレアを見て、私は納得する。
元々のゴーレムって私がゲーム時代に手に入れた希少金属を材料に使って作ったから、もしはためくマントを追加しようと思ったらそれらに匹敵するほどの布か魔物の素材を新たに追加する必要があるもの。
子供たちに見せるという理由で形を変えただけなんだから、流石に別の素材を使ってまで原作設定にこだわろうとまでは思わなかったみたいね。
「15メートル級の巨体に付けるマントとなると、かなりの素材がいるだろうからなぁ。そんなのミルフィーユが許すわけないか」
私が苦笑していると、その話題からエクレアがなにかを思い出したみたい。
「あっ、そうだ! アイリス様からも、ミルフィーユに頼んでくださいよ。グレイターの翼を作らせてくださいって」
「翼って、もしかしてスクランブルジェッターまで作るつもりなの?」
スクランブルジェッターと言うのは物語の途中から追加されるグレイターZの翼装備で、それとドッキングすることで空を飛ぶことができるようになるんだ。
「でも、そんなの作ってもあの巨体を飛ばすなんてできないでしょ」
「できますよ。外見はともかく、巨大なガーゴイルと同じようなものを作るだけだし」
なるほど。空を飛ぶゴーレム自体はそれほど珍しいものじゃないからなぁ。
巨大ガーゴイルがゴーレムをつかんで運んでいると考えれば、グレイターZとドッキングして空を飛べたとしてもおかしくはないかも。
「それに空を飛べるようになれば行動範囲もかなり広がるでしょ。別の場所に拠点を作る時が来るかもしれないから、作っておいてもいいんじゃないかなって思いませんか?」
「作業ゴーレムの移動用にかぁ」
エクレアの提案に、思わず納得しそうになる私。でも次の瞬間、それが大きな間違いであると気が付いたんだ。
「エクレア。ゴーレムは魔法陣の中に仕舞うことができるんでしょ。それならあんな巨大なものが飛んで行かなくても、あなたが出向けばいいだけじゃないの」
「ばれたか」
さっき目の前で見た通り、ゴーレムは制作者が格納しておけばどこでも呼び出すことができるんだ。
だからわざわざ空なんて飛ばなくても、エクレアがそこに行って呼び出すだけですべては事足りるもの。
私が気付いたくらいなんだから、ミルフィーユがそれに気が付かない訳がない。
「でも、カッコいいと思いませんか? 紅の翼で空を飛ぶグレイターZ]
「う~ん、それを言われると確かに見てみたいかも」
別のアニメのロボットだけど、実際に動くものを神奈川県にまで見に行ったことがあるのよね。
すごくゆっくりとしか動かなかったけど、その迫力には圧倒されたもの。
それに対してこちらは空まで飛ぶんでしょ。それを見たくないかと言われると、オタク心がムクムクと湧いてきてしまう訳で。
「多分無理だけど、頼むだけならただよね」
「えっ、ミルフィーユを説得してくれるんですか? やったぁ!」
エクレアはそう言うと、近くにいるエルフの子供たちにグレイターが空を飛べるように私がミルフィーユに頼んでくれると話し始めちゃったのよ。
「ちょっと待って。私は頼んでみると言っただけで……」
「ぐれーたー、おそらをとぶの?」
「やったぁー!」
「えくれあねえちゃん。おそらとぶならぼくものっけてね」
慌てて否定しようとしたんだけど、もはや後の祭り。
目をキラキラさせながらエクレアと一緒に大喜びするエルフの子供たちを見て、私はもう後に引けないところに来てしまったのだと気が付くのだった。




