96 なぜこんなところにこんな物が?
次の日の朝、しばらくの間留守にするというご近所へのあいさつ回りをシャルロットに任せて、私は転移ポートを使って城に帰ることにした。
目的は旅の最中に使うSサイズの家の購入。確かテント型のもあったはずだから、それに家具一式を設置して持って行こうと考えたんだ。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そう言って頭を下げるシャルロットに軽く手を振りながら転移ポートを起動。
転移先を城の入り口前に指定すると目の前の風景がゆら~とぼやけて行き、次の瞬間キャッスル・オブ・フェアリーガーデンの入口へと切り替わった。
それと同時に聞こえてくる、ゴーレムが木をへし折るいつもの……あれ? あの大きな音が聞こえてこないんだけど。
「今日は作業を休んでいるのかな?」
メキメキと言ういつもの大きな音が聞こえてこなかったものだから、軽く耳を澄ましてみたんだけど……。
「あれ? なんか歌が聞こえるような?」
遠くに聞こえる子供たちの歌声。そこではたと気が付いたのよ。
「そうか。エルフの子供たちの声だ」
少し前、私のNPCの一人であるクラフティのやらかしによってエルフの集落の結界が崩壊してしまったのよ。
それを修復するまでの間、自分で身を守ることができない子供たちを城で預かることになったんだけど、これってその子たちの声よね。
「親睦のためのお披露目会でもやってるのかしらん?」
それなら私も呼んでくれたらいいのにと思いながら、その歌声のする方へ引き寄せられる私。
するとある奇妙な事実に気が付いたのよ。
「歌声が聞こえてくるのって、もしかして森の方?」
土の上位精霊であるベヒモスが常にいるから、危険な魔物たちはこの城の近くにほとんど近寄ってこない。
でも世の中に絶対ということはないでしょ。だから子供たちの歌の発表会を、そんな危険な所でやるはずないと思うんだけど……。
そう思いながらさらに歩を進めると、歌声に混ざってある音がすることに気が付いた。
「これは剣か何かで物を斬る音かな?」
スパーンと言うか、ズバ-ンと言うか。鋭利なもので何かを切り裂く音に聞こえるんだけど……それにしてもちょっと大きくない、この音?
頭にはてなマークを浮かべながらさらに進むと、段々と子供たちの歌声がはっきりと聞こえてくるのようになったのよ。
そのせいで私の混乱はさらに加速する。
「えっ、何でこの歌をエルフの子供たちが知ってるの?」
行け行けグレイタァ~、戦えグレイタァ~♪
僕らのぉ~無敵のぉ~スーパーロボットォ~♪
子供たちが歌っているのは70年代に放送されていたグレイターZの主題歌、アニソン界のキングが歌っていた『闘えグレイターZ』なのよ。
でもなぜそんな昔の歌を、それも異世界のエルフの子たちが知っているの?
そう思った私は、歌の聞こえる方へと急いだ。すると木の陰から大きな影が姿を現したんだ。
西洋の甲冑を模した顔に、黒と赤の重厚な配色。そして空にそびえる鋼の巨体。
手に持っている大きな両刃の斧で木をスパンスパンと切り倒しているその姿は、アニメで悪役ロボットを粉砕するスーパーロボットそのもの。
「どこからどう見ても私の知っている昔のアニメ、グレイターZよね、あれ」
姿を現したのは、15メートルくらいの人型巨大ロボット。
そしてその頭に乗っている上部をドーム状のガラスで覆ったバイク型操縦席には、私もよぉ~く知っている女の子の姿があった。
「グレイタ~、グレイタ~、戦えグレイタ~、地球を守れぇグレイターゼェットォ~♪」
おまけに子供たち以上にノリノリで主題歌を大声で歌っているのだからびっくりだ。
「エクレア、あなたどうしてグレイターZを知ってるのよ」
その女の子は私のNPCの一人であり、ゴーレムマスターのジョブについているエクレア。
ということは、このグレイターZは先日まで城の周りに生えている木をへし折っていた大型ゴーレムの形を変えたものなのか。
そんなことを考えながら観察していると、グレイターZ型ゴーレムは近くに生えている木をむんずとつかむと根元を斧でスパン。
切り取った大木をゆっくりと動かし、近くに積んであった他の木の横に置いた。なるほど、これならへし折るより後で資材として使いやすいだろう。
「そう言う意味で言うと斧で切ると言うのは理にかなっているけど……なぜにグレイターZ?」
斧ならグレイターじゃなくゲットマジン1(ワン)でしょ。
グレイターZと双璧をなしていた赤いマントで空を駆ける3体合体のスーパーロボットの姿を頭に浮かべながら、私はエクレアが操るゴーレムの方へと歩いて行った。
「あっ、アイリスさまだ!」
すると近くでゴーレムを見ていたエルフの子供たちが私に気が付いて、歌うのをやめてこちらに手を振ってくれたのよ。
そこでお返しにと笑顔で手を振り返したんだけど、突然子供たちの歌声がやんだからかゴーレムに乗っているエクレアも私の存在に気が付いたのかな?
巨大なグレイターZの顔が私の方を向くと、そのまま騎士のように立て膝でひざまづくような形でゆっくりと腰を下ろしていく。
そしてそれが完全停止したところで操縦席を覆っていたドーム状のガラスが上に開き、そこからエクレアが下りて来たのよ。
「お帰りなさい、アイリス様。でもそんな予定、入ってましたっけ?」
「いや、ちょっと用事があったから帰って来ただけなんだけど……それよりもこのグレイターZよ。何でこんなものがあるの?」
私が訪ねると、エクレアはよくぞ聞いてくれましたと言った顔で胸を張る。
「カッコいいでしょ。この子たちが整地作業を見に来たいと言いだした時に、今まで通り木を力任せにへし折っていると木片が飛んであぶないから切断するようにしようという話になりまして。それならゴーレムも見栄えがいい方がいいんじゃないかと思って作り変えたんです」
「確かに、へし折るよりはこの方が安全よね」
横倒しになっている木々は皆、まるでナイフで切られたチーズのようにきれいな断面になっている。
あれなら斬った時に破片が飛ぶことはないだろうから、近くで子供たちが見学しても安全だろう。
と、そこまで考えた所で論点がずれてしまったことに気が付く私。
「って、そうじゃなくて! なんでグレイターZを知ってるのよ。私でも主題歌以外はよく知らないのに」
「なぜって、図書館のライブラリーでアニメを見たからですけど?」
「へっ?」
図書館のライブラリー? へつ? へっ? 何のこと?
私は何を言われたのかが一瞬解らず、エクレアと子供たちの前で不覚にも間抜け面をさらしながら立ち尽くしてしまったのだった。




