95 えっ、ついてくるの?
「それじゃあ明後日の朝、家まで迎えに行くから」
ウォルトン商会の本社があるサリアとやらは、今いるガイゼルから見てぺスパ側にあるらしい。
と言うか私たちが初めて会った時、クラリッサさんはそのサリアからここに向かっていたそうな。
そのあと一緒に馬車でぺスパを通ってガイゼルに来たのだから、そちら側にあるのは当然と言えば当然よね。
「私は家で待っていればいいの?」
「ええ。護衛の冒険者とカレンを連れて馬車で行くから、アイリスさんはそれに乗ってくれればいいわ」
でも数日間の旅になるから、その準備はちゃんとしておいてねと笑うクラリッサさん。
流石に着替えとかまで用意させるわけにはいかないから、言われなくても当然旅の準備はするけどね。
そんな訳で、門番さんから自転車を受け取ってぺスパの家へGo! 行き同様声高らかに歌いながら帰宅したんだ。
「シャルロット、明後日からクラリッサさんに付き合ってちょっと遠出することになったから」
帰ってすぐに外出のことを伝えたんだけど、するとこんな返事が。
「解りました。それではご近所の方々に、しばらく留守にすると伝えてきます」
「えっ、シャルロットもついてくるつもりなの?」
少々意外だったからそう聞き返すと、何を当たり前のことを言っているのですかと怒られてしまった。
「私はアイリス様がぺスパで過ごされる時の護衛も兼ねてここにいるのですよ。それなのに離れてどうするのですか」
「えっ、でもエルフの集落の時は……」
「オランシェットが同行したと聞いていますが?」
そう言えばそうか。
でも、護衛かぁ。そんなの必要あるのかしらん?
「この世界の人たちが私をどうこうできるとは思えないんだけど」
「そうでしょうね」
私もそう思うと深く頷くシャルロット。
それならやっぱり護衛なんて必要ないじゃないと言ったんだけど、そう言う話ではありませんとまた叱られてしまった。
「たとえエンシェントドラゴンが複数襲ってきたとしても、アイリス様なら無事切り抜けることでしょう」
「いやいや、一応この世界最強と言われているんだから後衛職で、なおかつ装備もそろっていない今の状況だと複数はちょっと辛いかなぁ」
私が謙遜してそう言うと、じろりとこちらを睨むシャルロット。
ちょっと、一応私はあなたの主人なんだけど……。そうは思って見たものの、そんなことを言えるはずもない。
今はいつもと違って真面目モードのシャルロットだ。口答えすると後で長いお説教が来る可能性が高いからここはお口にチャックの方向で。
「たとえエンシェントドラゴンでも切り抜けられる実力があるとしても、フェアリーガーデンの女王であるアイリス様が護衛もメイドも付けづに遠出するなど許されるはずがないじゃないですか」
「いや、城を出る時は私一人だったけど……」
シャルロットの無言の圧力に負けて、途中で口を閉じる。さっき決意したばかりだと言うのに全く学ばないな、私。
ただそれが功を奏したのか、それともあきらめたのか。はぁと小さくため息をついた後、いつもの雰囲気に戻るシャルロット。
「それに私が付いて行かないとしても、連絡をすればミルフィユが飛んできますよ。同行すると言って」
「わぁ、それはありそう」
ちょっと過保護なところがあるからなぁ、ミルフィーユ。
でも前に見た仕事量を考えると、彼女を城から連れ出すのは他への影響が大きすぎるよね。
「仕方ない。それじゃあ、シャルロット。メイドとして同行しなさい」
「解りました」
こうして交易都市サリアへの旅のお供に、シャルロットが加わることとなったんだ。
「それでは早速城に連絡して、馬車の手配を」
「ああ、クラリッサさんが馬車を出してくれるからそれは大丈夫よ」
そう伝えると、シャルロットは可愛らしく首を傾げた。
「この世界の馬車で行かれるのですか? でも、それだとかなり時間がかかると思いますよ。それにサスペンションどころかゴムタイヤさえない、揺れ対策がまったくされていない構造なので居住性にもかなり問題がある気がするのですが」
「そうだけど、流石に街道をフライングソードくらいの速さで移動するわけにもいかないでしょ」
ガイゼルに向かう時に乗ったクラリッサさんの馬車は、護衛の冒険者たちが徒歩で付いていたこともあってか歩くよりちょっと早い程度だったのよね。
だから時間がかかりすぎるという意見には同意したいけど、流石にうちの馬車はダメだ。だってゲーム仕様だから、フライングソードと同等のスピードが出るもの。
そんなものが街道を走ったりしたら大騒ぎになるだろうし、何より護衛の冒険者たちが付いてこれない。
「それにクッションも大丈夫。前に乗せてもらったけど椅子はかなり柔らかかったし、ゆっくり進むからサスペンションとかがなくてもそれほど大きく揺れることはなかったからね」
「なるほど。それならば長時間乗ってもお尻が痛くなるということは無さそうですね」
ああ、定番のお尻が痛くなるネタを心配していたのか。でもあれって、乗合馬車のような木の板に直接座るからなんじゃないかな?
アスファルトと違って多少の起伏はあるけど、そこは街道だもん。
ある程度は舗装されているから、早く走りでもしない限りは柔らかい椅子を採用しているクラリッサさんの馬車なら問題ないんじゃないかな?
「それより心配なのは、道中どこで寝るかよね。村に立ち寄って宿をとるとしても」
「柔らかなベッドという訳にはいかないでしょうね」
それにお風呂なんて絶対ないだろうからなぁ。
風呂キャンセル界隈なんて言葉があったけど、私にはそんなの絶対無理。
「よし。明日一度城に帰って、その辺りの用意もするとしましょう」
「それがいいと思います」
クラリッサさんはこの家のことも知ってるし、問題ないよね。
そう自分に都合よく解釈した私は、チート旅環境を全力でそろえることにしたんだ。




