94 流石に毒入り化粧品をそのままにしておくのはまずいらしい
不意打ちのようにクラリッサさんの口から発せられた爆弾発言に私は大慌て。
「ちょっと待って。何で急にそんなことになってるの?」
だって今日は作ったポーションを納品がてら、ウォルトン商会の錬金術師と顔合わせをするだけのつもりできているんだもん。
それがなのに知らない都市へ二日後に行くわよって急に言われたら、普通はびっくりするよね。
だからなぜそんなことになったのかを聞いてみると、何を当たり前のことをと言う顔をされてしまった。
「うちの化粧品に毒が入っていると教えてくれたのはアイリスさんじゃない。ウォルトン商会は冒険者だけでなく、貴族や大きな商会とも付き合いがあるのよ。毒の存在が解った以上放置するなんて選択を取れるはずが無いんだから、すぐに対処するのは当たり前だと思わない?」
「それはそうだけど、それなら私はいかなくてもいいんじゃないかと思うんだけど。だって貴族とも大商会とも関係ないんだし」
「何を言ってるの。錬金台が無いと、鉛の代替品である酸化亜鉛は錬成できないんでしょ」
私が知っていたということは、他にも鉛や水銀が毒であると知っている外国の人がいるかもしれない。
もしそこからこの話が広まって化粧品に毒が入っているなんて噂が立ったら大変でしょ。
だから一刻も早く酸化亜鉛を使った化粧品に切り替えるために、それを作る錬金台の数をそろえてできればすべての支社に送りたいそうな。
「本当ならすぐにでも数をそろえたいところなんだけど、それが無理なのは解っているもの。でもアイリスさんがさっき、構造自体は錬金釜とあまり変わらないと言っていたでしょ。それなら本社にその存在を周知させた上で、正式に予算を組んで魔道具ギルドに作らせようかと思って」
「ああ、それなら私の国から取り寄せるよ。いくつくらい欲しいの?」
「えっ、買うことができるの?」
クラリッサさんは私から錬金台を買うことができると思っていなかったみたい。でもこれ、魔道具職人の家具としてレシピが実装されていたから私にも作れるのよね。
そして何より、うちの城の魔道具職人たちでも作ることができるもの。外貨獲得手段として、その利権は取っておきたい。
「この国の錬金釜と同じで、普通に流通してる物だもん。そりゃ買えるよ。それに見た通りかさばるものじゃないから、送ってもらうのも大変じゃないしね」
羊皮紙でできた簡易錬金台を手に持ってひらひらさせながらそう言うと、クラリッサさんはなるほどねぇと納得したご様子。
「魔道具ギルドに依頼しても簡単に作れるようになるかどうかは解らないし、それなら頼んでしまった方がいいかも?」
「うん。私もそう思うよ」
正直な話、錬金釜を作っているんだからレシピを渡してしまえばこの世界の魔道具職人でも簡単に作れるようになると思う。
でも、そんなことをする理由がないからここはだんまりの方向で。
「それじゃあとりあえず、カレンの分と本社に渡す分の二つを……二日後までには無理よね」
「流石にねぇ」
苦笑しながらそう言うと、クラリッサさんも同様に苦笑を返してきた。
「まぁ、アイリスさんが同行してくれるのなら現物を見せることはできるし、本社の錬金術師に体験してもらえば使い方も解ってもらえるだろうからあとで送ればいいか」
「やっぱり、私も行かないとダメなのか」
「当たり前でしょ。カレンも酸化亜鉛は作れるみたいだけど、粉化まではできなかったんだから」
粉にしないと白粉の材料にすることとはできないからなぁ。
それにまだ不慣れなカレンさんに、錬金台の説明をさせるのも酷よね。
「解ったわ。それじゃあ、私もその何とかって都市について行くことにする」
「交易都市サリアよ。距離としては大体、馬車で片道三日と言ったところかな」
三日かぁ。その間は野宿ってことかな? それとも途中の村に泊まったりするのだろうか?
なんにしても、快適な旅という訳にはいかないだろう。
「これはちゃんと準備をしないといけないみたいね」
破綻しかけているとはいえ、優雅なスローライフを目指している私である。
たとえクラリッサさんにドン引きされたとしても、快適な旅行環境を整えなければと硬く決意するのだった。




