92 メイクをするなら簡単な基礎化粧品も欲しいよねぇ
カレンさんが真鍮の錬成に成功したことで、この世界の錬金術師でも金属錬成ができることが解った。
「さて、次は当然さっきアイリスさんが言っていた酸化亜鉛よね」
「そうだけど、これは私も作ったことがないから、一度試しに錬成してみるわ」
現物がある金属同士の合金と違って、酸化亜鉛は亜鉛に空気中の酸素を合成しないといけないでしょ。
だから私がまずやってみて、ちゃんとできると確定してからカレンさんにやってもらった方がいいと思うんだ。
「そう? ならお願いね」
私の提案に、あっけらかんと返すクラリッサさん。まぁそれくらいでいてくれた方が気楽でいいんだけどね。
ってことで、カレンさんと交代して錬金台の前に立つ私。
「さぁ、張り切っていってみよう!」
料理や裁縫では何度かやったことがあるけど、ゲーム時代のレシピが無いものを錬金術で作るのは初めて。
厳密に言うと私の作ってるポーションはこの世界の素材を使っているものの方が多いから違うのかもしれないけど、できあがるものはゲーム時代にあったものばかりだもの。
でも、酸化亜鉛なんてものはゲームの世界にあるはずがないでしょ。それだけに変なテンションで錬成に取り掛かったんだけど……。
「うん。あっさりと成功したわね」
まぁ酸化という作業自体はゲームでもあったから当たり前と言えば当たり前なんだけど、無事酸化亜鉛の錬成に成功。
ついでに言うと粉の状態で作ることも選択できたから、私の前にあるのはとても金属に見えないものだけどね。
「へぇ、これが酸化亜鉛なのね。てっきり塊でできると思ってたわ」
「見た目はただの白い粉だけど、鉛も白粉にする時は一度粉状にするでしょ。錬金術だと一度にそこまで行けるみたいだからやってみたんだ」
私がそう言うと、カレンさんは確かにそうですねってうなずいた。
「流石に粉化する作業をやったことはないですが、白粉を作る過程では粉状の鉛を使用しています」
「よし、それじゃあ次はカレンさんの番。酸化はやったことある?」
「いえ、流石に」
ポーション系を作る意外で錬金術を使ったことはほとんどないみたいだもの。それも当たり前か。
ってことで、ステータスの錬金術レシピに書かれている文章を元にしてやり方を説明。
「とまぁ、私はこれより詳しく言語化できないんだけど、伝わったかな?」
「はい。ある程度は理解できたと思うので、一度やってみますね」
ちょっと不安そうではあるものの、できるというので錬金台に亜鉛の塊を置いてから場所を明け渡す。
「それじゃあ、始めます」
おちゃらけテンションだった私と違って、まじめな顔で錬金術を始めるカレンさん。
すると酸化はちゃんと成功したんだけど……。
「酸化はしたようなのですが、同時に粉化するまではできませんでした」
「まぁ、それは仕方がないよ」
金属を粉にする技術はこの世界にもあるみたいだし、酸化亜鉛さえ作ることができるなら問題なし。
それに何度かやれば、きっとカレンさんも私みたいに最初から粉状で酸化亜鉛を作れるようになると思うしね。
「カレンでも酸化亜鉛が作れると解ってほっとしたわ。これでアイリスさんから毒入りの化粧品を売ってるなんて言われなくてもよくなりそうだもの」
「いやいや、その言い方じゃあ私が悪者みたいじゃない」
お互い冗談だと解っているので、そんなことを笑いながら言い合う私とクラリッサさん。
と、そこでカレンさんがこんなことを言いだしたんだ。
「支部長。アイリスさんが粉状の酸化亜鉛を作ってくれたことですし、実際に白粉を作ってみませんか?」
「そうね。あとで作ってみて、使用感が大きく変わっているようだと困るもの」
私からすると現代日本で使われているものだから問題ないだろうと思うのだけど、クラリッサさんたちがそんなことを知るはずも無し。
「材料はそろっているわよね?」
「錬金術の作業部屋に行けば一通りそろってます」
そんなことを話しながら、準備を進めるクラリッサさんたち。その二人を眺めていたら、なんとなく私も何か作ってみようかなぁなどと思ったの。
「ここに飾ってあるのって、白粉や口紅、それにアイシャドーみたいなものはあるんだけど化粧水が見当たらないのよねぇ」
ポーションがあるから肌を整える必要がないのかもしれないけど、やっぱり化粧水や保湿クリームがないのはちょっとなぁ。
「化粧下地とかも欲しいけど、まだファンデーションと呼ぶには早いレベルの白粉を使ってるんだからそれは後回し。とりあえず現実世界で作ったことがある化粧水でも作ってみるかな」
コスプレ仲間と話していると、メイクの話になることがよくあるの。
大体はどこそこの化粧品がいいよって感じの話題になるんだけど、数人いたこだわっている子たちはそんな時に自作の化粧水を使ってるってよく言ってたのよ。
おかげで私も一度挑戦したことがあるんだ。まぁ、めんどくさくなって一度しかやったことないんだけどね。
「えっと、材料は確か精製水とグリセリン、それに精油だったわね」
科学的に不純物をほとんど取り除いている精製水は流石に作れないから、それに一番近い蒸留水で代用。グリセリンはゲームでも錬金術の素材にあったからストレージの中にある。
あとは精油だけど……。
「何使おうかなぁ」
花は裁縫や木工、それに皮革の染色に使ったりするからかなりの種類がゲームでも実装されていたのよ。
だからストレージの中にはいろいろな花が入っているんだけど、精油に使うのならやっぱり香りが大事よね。
「まぁ発想が貧困な私は、精油と言ったらバラかラベンダーくらいしか思い浮かばないんだけどね」
ってことで、今回は赤いバラを選択。
バラの花束と蒸留水をストレージから取り出して錬金台に置くと、精製開始。
現実だと高温の水蒸気をバラにあててそれを冷やすっていうとても面倒な工程があるんだけど、これだけで作れちゃうんだから錬金術って便利よね。
できた精油をガラス瓶に移すと、これで材料はとりあえずそろった。
こだわる人はヒアルロン酸とかを入れるそうなんだけど、流石にそれはゲームの錬金術素材になかったから今回は入れないしね。
「さて、それじゃあやっちゃいますか!」
今回も変なテンションで錬金台の前に立つと、蒸留水とグリセリン、それにさっき作った精油を所定の位置に置いて錬成開始。
これも作るのは初めてだけど、素材がすべて物体だから全く何の問題も無く化粧水が完成したのよ。
「さて、どの程度の物ができたかなっと……おっ、結構いい感じじゃない」
しらべるコマンドでできあがったばかりの化粧水に使うと、肌への吸収率が高く保湿成分も抜群。バラの香りがする上質な化粧水とでたんだ。
「簡単な材料しか使ってないのに、流石錬金術ね」
私が満足げにうなずいていると、不意に後ろからガシっと両肩をつかまれたのよ。
「アイリスさん。それは何かなぁ?」
何事かと慌てて振り向いたんだけど、するとそこにはすごい迫力の笑顔を浮かべたクラリッサさんがいたんだ。




