90 全く別物なのに同じ効果がでるものって結構あるよね
「これがここで使われている薬草かぁ」
「その反応からすると、アイリスさんはその薬草を知らなかったみたいね」
クラリッサさんが指摘する通り、カレンさんに渡された薬草は私の知らないものだった。
「ちょっと調べてみるわ」
ってことで、早速しらべるコマンドを発動。すると確かに、この薬草と私が持ってきた薬草とでは成分が違っていたの。
でも、どちらを使ってもなぜか同じようなものが作れるのよねぇ。
ってことで今度はそれぞれの成分を指定してしらべるコマンドを使ってみたところ、面白いことが解ったのよ。
「ああ、なるほど。体を温める調味料と同じような理屈なのか」
「アイリスさん、それってどういうこと?」
私の言っている意味がいまいち理解できなかったのか、そう訊ねてくるクラリッサさん。
だからちょっと考えてから、例を挙げてなるべく解りやすくなるよう解説することにしたんだ。
「私の国にはトウガラシと生姜という調味料になる植物があって、そのふたつは味も成分も大きく違うんだけど一つだけ大きな共通点があるのよ。それはどちらも食べると体を温める効果があるということ」
成分が違っても同じような効果が出る食品は他にもあるでしょ。どうやらこの2つも同じような関係みたい。
「この二つのポーションの効果って、飲むと体から魔力が湧き出すんじゃなく周りにある自然魔力を自分の魔力に変換して取り込めるようになるらしいのよ」
「それじゃあもしかしてこの2つの薬草に含まれている異なった成分には、どちらもその現象を起こす効果があったってこと?」
「うん、その通りみたい」
トウガラシに含まれているカプサイシンと生姜に含まれているショウガオールは全く違う成分だけど、どちらも辛くて体を温める効果があるでしょ。
それと同じで、2つの薬草に含まれている成分も全く違うもにのも関わらずどちらも取り込んだ魔素を自分のMP変換する効果があったみたいなのよね。
「ってことは、カレンもアイリスさんが持ってきた薬草で魔力回復ポーションが作れるってこと?」
「うん。まず間違いなく作れると思うよ」
錬金釜と錬金台の構造がほぼ同じということは、この世界の錬金術と私の使っている錬金術もほぼ同じものということだもん。
私が作れるのだから、カレンさんが作れないなんてことは無いと思うんだよね。
「何にしても、やってみないと解らないわよね。ということでカレン、お願いできる?」
「解りました」
カレンさんは私からどの成分にMP回復効果があるのかを聞いて、早速挑戦。
「この成分、思った以上に扱いやすいですね」
「へぇ、今までこの商会で使っていたのよりも楽そう?」
「はい。新人でもある程度成功しそうなくらい扱いやすいです」
今まで使っていた薬草なんだけど、魔力の通りがあまりよくなくって錬金術にかなり精通している人じゃないとMP回復薬は作れなかったそうな。
でも、私が持ってきた薬草なら普通の錬金術師でも作れるようになるかもしれないんだって。
「それでは錬金します」
カレンさんはそう宣言すると、錬金釜の中に力場が発生。そのまましばらく待つと、MP回復薬が完成していた。
「支部長、確認をお願いします」
「ええ、解ったわ」
クラリッサさんはそのMP回復薬を受け取ると、その場で鑑定。
「ちゃんと魔力回復薬ができてるわ。ただ、アイリスさんの作ったものに比べると少し効果は落ちているみたいだけど」
そう言われたので私もしらべるコマンドを発動。するとノーマル品質と出ていた。
それに対して私は意図して最高品質にならないようにしたものの、失敗が怖かったから安全マージンを取った結果1段階上の中級品ができちゃったからなぁ。
多分クラリッサさんはその差のことを言ってるんだと思う。
「これはやはり、腕の差でしょうか?」
「初めて扱ったカレンさんと違って、私はこの薬草で何度か魔力回復薬を作ったからなぁ。どちらかというと、それが原因なんじゃない?」
これはごまかしでも何でもない。さっき今まで使っていたものよりも扱いやすいと言っていたから、慣れればカレンさんでも多分中級品くらいならある程度作れるようになると思うんだ。
「素材自体は比較的簡単に手に入るから、何度か作ってみたらどうかな?」
「えっと、そんなに簡単に手に入るのですか?」
私の言葉に、少し疑っているような表情をするカレンさん。
そう言えばさっき、MP回復薬に使う薬草は貴重だって言ってたからなぁ。簡単に手に入ると言われても、本当かと疑ってしまうのも解る気がする。
でも実際にかなり手に入りやすいんだよ、この薬草。
「ぺスパの外に広がっている森に入るとすぐに見つかるくらい手に入れやすいかな?」
「そんな近くに……」
答えがあまりに予想外だったのか、黙り込んでしまうカレンさん。それに対してすごい勢いで食いついてきたのはクラリッサさんだ。
「アイリスさん。その話は他の誰かにしました?」
「えっ、してないけど? だって知られていないなんて思わなかったし」
私がそう言うと、クラリッサさんは私の両肩をガシッとつかんでこう言ったのよ。
「安く簡単に手に入るこの薬草でも今までのものと変わらない効果が出る薬が作れる。これはとんでもない情報であり商機ですよ。アイリスさん、報酬は支払いますからこの話はご内密にお願いします」
「おっ、おう……」
あまりの剣幕に、思わずうなずいてしまう私。
いやぁ、この表情を見るとクラリッサさんも商人なんだなぁと思い知らされるよ。
強さという点で言えば比べ物にならないくらい弱いはずなのに、私がその迫力に押されているんだもん。
これは逆らっちゃダメなヤツだと魂がそう言っているから、ここは素直にうなずいておくことにする。まぁ、周りに話したところで私に何か利益がある訳じゃないしね。
「しかし他国の知識というのは時に、こんなとんでもない利益を生み出すこともあるのね」
「そうですね。この薬草も、効能を知らなければ雑草程度にしか思わないでしょうから」
そう言ってうなずき合っているクラリッサさんとカレンさん。そんな二人の話を聞いていたら、あることを思い出したんだ。
「あっ、そう言えば」
「ん? どうしたの、アイリスさん。まさか他にも何かあるんじゃないわよね?」
他にも商機が? というような顔で私に迫るクラリッサさん。
「でも、これは話していいものなのかどうか」
その顔を見て、これを本当に話してしまっていいのかと私自身も少し迷ってしまったのよ。
でも、そんな私の様子にクラリッサさんも何かおかしいと気付いたのだろう。恐る恐ると言った感じで聞いてきたの。
「えっと、もしかして何か言いにくいことなの?」
「言いにくいと言うか……この商会の白粉に毒物が入っているって知ってる? それも肌から吸収するたちの悪いやつが」
「えっ!?」
とんでもない爆弾発言に、今まで見た中で一番の驚き顔。そりゃそうだよね、話の内容が内容だもの。
「どどどどっどういう意味! うちが毒入りの商品を売ってるって言うの!?」
どどどどって、大地を蹴って飛ぶ七人衆じゃないんだから。
ついさっきまで戸惑っていたはずなのに、クラリッサさんの様子から急にオタク心がムクムクと湧き出して心の中で突っ込んでしまう私。
でもそのおかげで少し冷静になれたから、さてどこから話そうかと考える余裕ができたんだ。




