88 この世界の錬金術は道具からして違うらしい
クラリッサさんの一言を聞いて少し考えると、私は鞄に手を突っ込んでストレージから一本のビンを取り出した。
「これ、見てもらえる?」
「上級のケガを治すポーション? いや、この色は魔力回復ポーションかな?」
クラリッサさんがそう言いながら私が渡したビンを見ると、少し魔力が動いたような気配が。多分鑑定を使ったんだろうね。
事実、私にビンを返しながらこう言ったもの。
「流石アイリスさんが作ったものね。うちで扱っているものより上質で、かなりの回復量が見込めるポーションだわ」
「そっか。じゃあやっぱり、このポーションはさっきクラリッサさんが話していた魔力回復ポーションと同じ系統のものなのね」
私のこの言い回しに何か引っかかったのだろう。クラリッサさんは首を傾げながら聞いてきたの。
「えっと、それはどういう意味かな? もしかしてこれ、アイリスさんの国で使われているものだったりするの?」
「ううん、違うよ。これを使ってぺスパの家で作ったもの」
そう言って先ほどと同じようにストレージからMP回復ポーションを作るのに使った薬草を取り出して見せた。
「見たことがない薬草だけど……ちょっと見せてもらってもいいかな?」
「ええ、いいわよ」
私が薬草を渡すと、それをじっと見つめるクラリッサさん。
ただ、その顔はだんだん不思議そうなものに変わっていったんだ。
「アイリスさん。これで、そのポーションを作ったの?」
「そうだけど、何か変だった?」
「変というか……成分から見て、この草から魔力を回復させるポーションが作れるとは思えないんだけど」
これを聞いた私は、すごくびっくりした。だって、実際にポーションはできあがっているのだもん。
それにこの薬草だって、ぺスパの近くの森を散策していたときに採取ポイントとして浮かび上がったところから摘んだものなんだ。
だから薬草ではないなんてことはあり得ないのよね。
「これは、実際に作って見せた方が早いかな」
「作るって、ここで?」
「うん」
私はそう言うと丸めてあった簡易錬金台を鞄から取り出し、その流れでストレージに入っていた蒸留水の入ったビンも同じく取り出した。
「えっと、これは?」
「簡易の錬金台だけど……もしかしてクラリッサさんは、実際に錬金術を使う所を見たことがないの?」
不思議そうに簡易錬金台を見るクラリッサさんにそう聞くと、そんなことある訳ないじゃないと言われてしまった。
「ここにも、ポーションを作る部署はあるのよ。見たことが無いなんてあるはずないじゃない」
「それなら錬金台も見たことがあるんじゃないの?」
「いや、そもそも錬金術って専用の釜を使ってポーションを作る技術でしょ」
「はぁ?」
これには思わず絶句してしまう私。
「いやいや。錬金術は金属の合成とかもするでしょ。ポーションだけしか作らないなんて、そんな」
「えっ? 金属?」
お互いの顔を見ながら頭にはてなマークを飛ばしまくる私とクラリッサさん。
もしかして私たち、根本的なところがずれてない?
「私の国ではそもそも錬金術は名前の通り金を錬成することを目指して作られた学問で、薬はその過程で必要だから研究されてきたという歴史があるんだけど」
「えっ、金? 金なんて作れるはずないじゃない」
「うん。私の国の錬金術師でも作れないよ。成り立ちがそうだって言うだけ」
実際には金どころか、銀も銅も作り出すことはできない。でも、違う金属どうしを錬成して合金を作ることはできるのよ。
だからそのことを教えてあげると、クラリッサさんは目を見開いて驚いた。
「どうやって釜で金属を錬成するの? 金属ってかなり高温にならないと溶けないんでしょ」
「いやいや、だからうちの国じゃ錬金に釜は使わないって言ったでしょ」
これは実際に見せた方が早いかな?
そう思った私はまた鞄に手を突っ込んで、小さな銅と亜鉛の塊を取り出したんだ。
「物は試しに、実際にやって見せるわ。今回合成するのは、銅と亜鉛。比率は銅が7で亜鉛が3ね」
私はそう宣言すると、簡易錬金台に魔力を流して起動。そして所定の場所にそれぞれの金属をセットすると、錬金術を使用したのよ。
すると錬金台の上に透明な球体が発生。そこにふたつの金属が吸い込まれるとまるで氷が水に変わるかのように変化を始めて、やがてそれぞれが必要とする割合だけが混ざり合って行った。
「ふぅ、これで完成。銅と亜鉛の合金で真鍮。正確に言うと七三黄銅ね」
「金? いや、そうじゃないわね。色が黄色に近いもの。これはどんな金属なの?」
「銅は水をつけると、そこに緑色のサビが浮いてくるでしょ。でも亜鉛との合金にすると、サビに強くなるのよ」
実際、真鍮は水道管などにも使われていたくらい耐腐食性が高い金属なのよね。
それに銅よりは硬いけど、鉄よりは柔らかいから切削やプレスでの加工が容易な金属だったりする。
「まぁ、もっと水に強いステンレスって言う金属もあるから、水回りに使われることはあまり無いんだけどね」
「すてんれす? 聞いたことのない金属ね。アイリスさんの国ではよく使われているの?」
「ええ。ごくありふれた合金よ」
これは日本でという話ではなく、MMORPGウィンザリアでも家具などを作る時に使われていた合金だったりする。
あのゲームはいろいろな合金が出てきたから、鍛冶師や木工師はサブで錬金術をある程度上げておかないと作れないものがあったのよね。
それに素材に合金のインゴットを使うものもあったから、よく暇な時に作っては金策として使用させてもらったものよ。
「でも、まさか錬金術でこんなことができるなんて思わなかったわ」
「そりゃあ、窯で錬金しているのなら金属の合金を作ろうだなんて思わないわよ」
と、そこまで話したところで、私の頭にある疑問がわいたの。
「ここで錬金術に使われている窯と、私の錬金台。構造的にはどう違うんだろう?」
「確かに、どちらも同じポーションが作れるのだから大きく離れているとは思えないわよね」
この疑問に、クラリッサさんも興味を持ってくれたみたい。
「元々顔合わせをするつもりだったし、うちの錬金術師に釜を持ってきてもらう?」
「それ、いいわね。さっきの薬草で魔力ポーションを作って見せるつもりだったけど、せっかくだからこの国の錬金術師の意見も聞きたいわ」
元々はMP回復ポーションを作るという話から錬金台と錬金釜の話題に変わっていったんだもの。どうせならこの世界の錬金術師にも作れるか知りたいもんね。
そんな訳で私はこの後、ウォルトン商会の錬金術師と顔合わせをすることになったんだ。




