105 商人たちは私たちみたいにゆっくり移動しないそうな
カレンさんが馬車酔いをしたからか、それとも元々がその予定だったのか。
もうすぐ日が暮れるというのに、見える範囲には村も街も無し。
「ってことは、もしかして野宿?」
「ええ、本来はその予定だったわ」
私のひとりごとに返事をくれたのはクラリッサさん。
そうか、やっぱり一日目は初めから野宿の予定だったのね。
「あれ? 本来はって、どういうこと? もしかして、近くに泊まれる村があるとか?」
「村はないけど、家はあるわね」
そう言ってクラリッサさんは、私のカバンを指さす。
ああ、なるほど。確かに野宿にはならないわ。
コンコンコン
そんなことを考えていると、馬車のドアがノックされた。
クラリッサさんが木製の窓を開けると、そこには護衛冒険者パーティーのリーダーであるセシリアさんの姿が。
「お嬢様。もうすぐ野営予定の広場に到着します」
「わかったわ」
そう答えると、クラリッサさんの視線は私の方へ。
「ところで、持ってきた家はどれくらいの大きさなの?」
「そうだなぁ」
どう説明しようかと思っていたところで、クラリッサさんのメイドであるマリオンさんが不思議そうに聞いてきたの。
「あの、お嬢様。持ってきた家とはどのような意味でしょう? アイリス様は天幕のようなものをお持ちなのですか?」
「ああ、そう言えばアイリスさんの家にお邪魔した時にマリオンは一緒じゃなかったわね。どう説明したらいいのか私にも解らないから、到着したらその目で確かめてみて」
そりゃ、カバンの中に本当に家が入っていますなんて、知らない人に説明したところで信じてもらえるはずないよね。
ってことで、私たちはそのまま馬車に揺られて本日の野営? 地点に到着した。
「あれ? 他に人はいないんだ。野営できる所なんだから他にもいくつかのグループがいるかと思ったのに」
野宿しやすいよう森を切り開いて作られた野営場所はそれなりに広くて小さな商隊なら二つ三つ一緒に泊まれそうなんだけど、今日ここで野営するのはどうやら私たちだけみたい。
だからなぜに? と首を傾げていたんだけど、その理由をセシリアさんが教えてくれた。
「お嬢様の馬車と違って、商隊は移動速度が速いからね。こんな中途半端なところで野営はしないんだよ」
なるほど。カレンさんが酔ったことで予定よりもかなり遅れたはずなのに、ここへは日の暮れまでかなり時間的な余裕をもって到着できたからなぁ。
多分ここはガイゼルを出た商隊ではなく、向かってくる途中でトラブルになって日の暮れまでに到着できない時に使われる場所なのだろう。
「まぁ、なんにしろ好都合ね。誰かに見られて説明しろと言われたら面倒だし」
ってことで、早速設置。私は肩掛けカバンから小箱を出すと、蓋を開けて中に入っている家キッドを起動した。
「場所はこんな感じでいいかな? それじゃあ、ポチっとな」
いつもの確認画面でYesを押すと、一瞬で目の前に木の杭と縄で庭が区切られたゲルの家がどど~んと現れた。
「クラリッサさん、こんな感……」
「なんだ、これは!」
クラリッサさんにこんな感じでいいかと聞こうと振り返ったところ、赤い閃光の面々が驚愕の表情でゲルの家を見上げてたんだ。
ってことはさっきの声は、4人のうちの誰かか。
「そっか、突然家が現れるのは冒険者から見てもあんなにびっくりすることなのね。それならカレンさんやマリオンさんはさぞかし」
驚いただろうと思ってその二人の方を見てみると、こちらは何故か平然としている。
はて? なぜにそんなに冷静なのかしらんと思って聞いてみたところ、こんな返事が。
「まぁ、アイリスさんの持ち物ならこんなこともあるかなぁと思って」
「私は先ほどのお嬢様のご様子から、よほどのことが起こるのでしょうと心づもりをしておりましたから」
カレンさんは錬金台や錬金術の技術から、私の国の魔道具もさぞかし進んでいるのだろうと想像していたみたい。
それに対してマリオンさんは、クラリッサさんが説明できないほどのことが起こるのだから、たとえドラゴンが出て来ても驚かない様にしようと考えていたそうな。
「いやいや。いくらなんでもカバンからドラゴンは出てこないわよ」
「このような大きなものがカバンから出てくることも、普通はございませんよ」
確かに。




