102 調味料はそろっているようで足りないものもある
私が子供たちの笑顔に癒されていると、後ろから声がかかった。
「お待たせしました、アイリス様」
振り向くとそこにはミルフィーユと共に城の運営を任せているNPC、パルミエの姿が。
「お待たせしましたって、何かあったっけ?」
「はい。先ほどミルフィーユからクランチャットが届きまして」
さっきミルフィーユに頼んだゲル型の家とその家具一式、その準備をパルミエがクランチャットで依頼されたそうな。
「ベッドなどの寝具はもちろん、旅行中に必要となるであろう食糧や消耗品の類もすべてご用意できております」
「わぁ、ありがとう。これで勝ったも同然ね」
何に勝つのかは解らないけど、旅行中に不便を強いらされる心配はこれで無くなった。
私はゲル型の家が入った指輪ケースくらいの収納箱を受け取りながら、パルミエにお礼を言う。
「それと、こちらもミルフィーユからの指示でお持ちしたのですが」
「箱?」
続いて渡されたのは救急箱のような取っ手付きの箱。
はて、これは何かしらん? そんなことを思いながら留め金を外して蓋を開くと、そこには予想外のものが入っていた。
「これって、もしかして顆粒だし? あっ、かつおだけじゃなく鶏ガラやコンソメまである!」
「はい。城の料理人たちが図書館の文献を元に開発しました」
ソースやしょうゆなどの調味料系が充実しているウィンザリアなんだけど、顆粒だし系のものは無かったのよね。
それは多分昆布などのだしを取るためのものが実装されていたからなんだろうけど、簡単に食事の用意をしようと思ったらやっぱりこれは欲しいもん。
特に今回のような旅行中は悠長にだしを取っている時間はないだろうから、これは本当にありがたい。
「あっ、でもカレーやシチューのルーは無いのね」
「それらに関しては、少々難航しておりまして」
「まぁ、そんなものを作る文献なんてあるはずないもんなぁ」
それを使ったアレンジレシピならともかく、ルーを一から作る料理本なんて本屋に売っているはずがないでしょ。
それに大学や街の図書館でもそんなものを作る本は見たこともないから、この図書館になくてもおかしくないのよね。
「顆粒だしは薬品などの液体から成分を抜き出し、それを顆粒化する方法が見つかったので開発作業はスムーズだったのすが」
「まぁ、それは仕方ないよ。気長に待つから、できたら教えてね」
「はい! ご期待に沿えるよう、料理人たちにハッパをかけておきます」
まじめな顔でそう答えるパルミエに、私は笑顔でお願いねと返すのだった。
さて、せっかく用意してもらったゲル型の家。中を確かめずに旅先でいきなり使う訳にはいかないわよね。
ってことで、城の外に出て内覧会としゃれこむことに。
「ここにもミルフィーユはついてくるんだ」
「はい。アイリス様が城に滞在されている間の補佐をするのもわたくしの仕事の一つなので」
エクレアとパルミエは図書館で別れたんだけど、ミルフィーユだけは私が帰るまでずっと一緒にいるみたい。
ってことで、二人でやってきました城壁の外。エクレアとオランシェットが整地を頑張ってくれているおかげで、家を出す場所には困らなさそうね。
「それじゃあ、出すわよ」
そう宣言して収納箱の中の家ユニットを起動。
いつも通り設置場所の指定をした後、YESを選択すると目の前に周りを杭と縄で仕切って庭にしているちょっと大きめのSサイズ家ユニット、ゲルの家が現れた
「へぇ、庭に馬をつなぐところもあるのね。あっ、その横に蛇口まである!」
「馬は水を大量に消費しますので用意するよう指示を出しておきました」
馬車で移動するって話したから、わざわざこんな庭具ユニットまで設置したのか。
自分では思いつかなかったであろう設備に感心しながら、私はゲルの家に設置されている玄関を開いた。
「へぇ。見た目はゲルなのに、中は普通の家みたいになってるのね」
「何人もが寝泊まりするとお聞きしたので、部屋数を多く取るような間取りになっております」
ミルフィーユの言う通り、キッチンや食堂、それにお風呂やトイレなんかの共用スペースを除くと後は小さな部屋が何室かあるみたいね。
住むとなるとこの間取りは少し使い辛いだろうけど、今回はビジネスホテル代わりに使うつもりだもん。この方が便利かも。
そう思いながら近くの部屋を開けると、中にはベッドが二つと小さなテーブルが。そして壁を見ると、木でできたハンガーがいくつかか掛けられていた。
「なんか、本当にビジネスホテルっぽい造りだなぁ」
これに小さな冷蔵庫とテレビがあれば、さらに安い風呂トイレ別のビジネスホテルっぽくなると思う。
「因みに、アイリス様と商会の支部長の部屋は一番奥になっております」
そう言って案内されたのは、相向かいに設置されたドアの前。どうやらその中がそれぞれ個室になっていて、そこが私たちの部屋なんだそうな。
開けてみるとさっきの部屋と広さ自体は大差ないけど、置かれているベッドが大きい。
それに壁沿いに置かれてテーブルの前には大きな鏡がかかってるし、なんと部屋の中に独立した洗面台とトイレまであるのよ。
その洗面台にも当然鏡が付いていて、そこには当然のように洗顔用のソープや化粧水などのアメニティグッズがずらりと並んでいた。
「柔らかめのフロアカーペットまで敷かれてるし、ここだけビジネスじゃなくちょっとしたシティホテルみたいだなぁ」
おまけに小さな冷蔵庫まで完備していて、その中には冷えたソフトドリンクまで入ってるという念の入れよう。
まぁ私の立場を考えると、ミリフィーユやパルミエがこんな部屋を用意する気持ちも解らないでもないけど。
と、そこで私は部屋の中にあるものを発見して首を傾げた。
「なんで部屋の中にドアがあるの? ウォークインクローゼット?」
「いいえ。そちらは控えの間で、シャルロットが使う部屋になっております」
そう言って見せてくれた部屋の中には他の部屋と同じベッドとテーブルが。それにクローゼットみたいなものも奥に見える。
「支部長ともなればメイドを連れているであろうと思い、向かいの部屋も同じ造りになっております」
うん、やっぱりミルフィーユたちに任せてよかった。だって私だったら絶対にここまで気が回らないもん。
その後はお風呂とかの共用部分を見て回り、最後にキッチンで用意された食材や飲み物、それに調味料などの確認をしたところでゲルの家の内覧を終えたんだ。




